Dream Theater: 結成24年にして辿り着いたセルフタイトルの真意に迫る!米プログレメタルの雄会心の12thアルバム!
by 関口竜太 · 2020-04-17
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はDream Theater初となるセルフタイトルアルバム『Dream Theater』をご紹介します!
Dream Theater / Dream Theater
Dream Theater(ドリーム・シアター)はアメリカのプログレッシブ・メタルバンド。
デビュー24年で辿り着いたセルフタイトルアルバム
Mike Portnoyが脱退した2010年から、まず初めにDream Theaterが提示したのはファンへの信頼を取り戻すための原点回帰でした。
2010年リリースの前作『A Dramatic Turn of Events』はそんなテーマの下で作られ、名盤『Images And Words』の楽曲を多数想起させる出来栄えとなりました。
ポートノイに代わって新加入したMike Manginiはこのアルバムでは作曲の一切に参加せずキャリアの長い4人によって作られた楽曲を正確無比なプレイで叩き、プロダクションもそれまでのDream Theaterと大きく変えなかったことで危なげない綱を見事に渡りきったのでした。
前作を伴ったツアーを敢行中の2012年、次なるアルバムの制作へバンドは取り掛かることとなります。メンバーやファンとも馴染みを深めたマンジーニも本作から楽曲制作に参加、改めてバンドのアイデンティティを見直すと同時に「現在のDream Theaterのあり方を考える」テーマの下制作されたのが本作『Dream Theater』となります。
つまり、バンドからファンへ向けて「これこそDream Theaterだよ」という解釈で聴くと溝が生じやすいですが実はそうではなく、バンド側がバンド自身に対し「今のDream Theaterで何ができるか」に挑戦した結果の作品として聴くのがこのセルフタイトルに込められた真意に近いと思われます。
アルバム参加メンバー
- James LaBrie – Vocal
- John Petrucci – Guitar
- John Myung – Bass
- Jordan Rudess – Keyboard
- Mike Mangini – Drums
楽曲紹介
- False Awakening Suite
I. Sleep Paralysis
II. Night Terrors
III. Lucid Dream - The Enemy Inside
- The Looking Glass
- Enigma Machine
- The Bigger Picture
- Behind the Veil
- Surrender to Reason
- Along for the Ride
- Illumination Theory
I. Paradoxe De La Lumière Noire
II. Live, Die, Kill
III. The Embracing Circle
IV. The Pursuit Of Truth
V. Surrender, Trust & Passion
ラストナンバーを除き全てが8分以内に仕上げられた比較的コンパクトな作品であり、この後2019年にリリースされる『Distance Over Time』の布石とも取れる新たなDream Theater像。また超絶技巧でありながら耳馴染みとしてはシンプルなマンジーニのドラミングがこの時から顕著に現れます。
アルバムのオープニングとなる#1「False Awakening Suite」は2分半程度の短さながら3つのセクションに分かれ様々な表情を見せるインスト曲。本作には後述する#4にもインストが用意されていますが、こうしてインストナンバーが収録されるのは2001年の7th『Train of Thought』依頼実に12年ぶり。
なお本作を伴ったライブツアー「Breaking The Fourth Wall」ではショウのオープニングとして使われ同期が長され、これまでの各リリースアルバムのアートワークを追う演出がされました。
#2「The Enemy Inside」は本作における正真正銘のリードナンバー。7弦ギターを用いヘヴィかつメタル然としたアグレッシブな演奏は『Train of Thought』や『Black Clouds & Silver Linings』を彷彿とさせます。叙情的でメランコリックな前作の雰囲気を打ち破るメタルナンバーとしてファンからの評価も高いです。
#3「The Looking Glass」は80年代のRushを思わせるライトなプログレの様式。メジャーペンタで作られたメインリフや、7拍子で構築されたヴァースは「Solitary Shell」や後々の「The Gift of Music」などDream Theaterとしても得意とする場面です。
二つ目のインストナンバー#4「Enigma Machine」は6分ほどの本格プログレメタル曲。ダークな中に漂うファンタジックな曲の雰囲気は「Erotomania」や「Stream of Consiousness」などのヒューマニスティックなニュアンスとはまた一風違って聴こえます。マンジーニが得意とする高速ユニゾンに追従するタムロールもこの曲にて遺憾無く発揮されています。個人的には#2〜#4までの流行は1stアルバムである『When Dream And Day Unite』のオマージュを含んでいるのではと思っています。
#5「The Bigger Picture」は「This is the Life」の流れを汲むシリアス系バラード。反面、コードを8分で刻むシンプルなリフはU2やOasisなどのロックからの影響も垣間見られます。このリフは前半4拍子ですがクロージングでは3拍子になっているなど彼らならではの細かい配慮が嬉しいです。
#6「Behind the Veil」は7分弱ほどのメタルナンバー。シンセサイザーによる幻想的なアンビエントからMetallicaを彷彿とする変則的リフが繰り出されます。このアルバムのもう一つの特徴として、インターバルやヴァースではアグレッシブなものの、サビではコード感たっぷりにしてメロウに聴かせているの点が挙げられます。
続く#7「Surrender to Reason」。この曲も冒頭からRush色全開のイントロを展開しており今にもGeddy Leeのボーカルが聴こえて来そうです。「Dream Theaterらしい」という一面にRushは欠かせませんが、本作はエンジニアに後期グランジRushで知られるRichard Chyckiが赴任しておりそこへの理解は深いところです。12弦ギターを使用した爽やかなメロから5/8+6/8のヴァース、ハチロクで伸びやかなサビとギターソロ、さらにシンフォニック・メタルを思わすキメのインターバルなど6分半の中でも贅沢に展開を詰め込んだ現メンバーによる真骨頂です。個人的には特にオススメな一曲。
バラード枠である#8「Along for the Ride」は#2に続く当アルバムの2ndシングルである経緯から、#2の影役である一曲。図太いバンドサウンドは徹底しておきながら物悲しいチェンバロによるメロディ構築や後半のキーボードソロなどキーボードへのフィーチャーが伺えます。
そしてラストとなる#9「Illumination Theory」はこのメンバーで収録される初の20分超え大作曲。ライブではフルオーケストラで演奏されたように「Six Degrees of Inner Turbulence」に続くような壮大なプログレメタルエピック。前半は3連をベースにしたテクニカルなイントロと「Metropolis」を思わせるボーカルワークが秀逸。ブレイクからたっぷりとストリングスによるインターバルを設け美しいテーマなども披露しこれまでにないほどカオスに展開する後半パートを経ておよそ19分でクロージングを迎えます。バンドが引いたあとはジョーダンの穏やかな独奏で大作を締めています。
これまでのアルバムと本作との決定的な違いはプロダクションであり、「轟音」という表現が似合うほどのペトルーシのギターサウンドと、それに負けないくらいアタック感の強いマンジーニのドラムが今まで以上に太く圧の高い音楽を生み出しています。わずか4年ほどでその音楽性をガラリとメタル寄りにシフトさせたDream Theaterでしたが、時代時代で作られる最善に挑む姿勢はバンドが続く限り色褪せないでしょう。
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タグ: プログレッシブ・メタル米プログレDream TheaterJames LaBrieJohn MyungJohn PetrucciJordan RudessMike Mangini
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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