Spheric Universe Experience「Anima」: 希少なフランス産DT系プログレメタルの2nd。シンフォニックかつ多言語の語りも採用した挑戦的アルバム!
by 関口竜太 · 2020-03-30
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日から過去にご紹介したアルバムについて、今一度詳しく紐解いていこうかなと思います。頻度はそんなに高くないつもりですが、このブログを開設した当初は経緯やクレジットもすっ飛ばして「こんなアルバムもあるよ〜」くらいだった記事も多いのでもう一度メスを入れていければと思います。
時間経過とともに深まった知識や今だからこそ言える感覚というのは音楽にとって付き物でもあるので…言わばアーカイブ&再編集みたいなものですね。そんなわけで本日ご紹介するのはSpheric Universe Experienceの『Anima』です。
元記事:フランス産プログレメタルSUE。思い出補正と下手の美学。
Anima / Spheric Universe Experience
Spheric Universe Experince(スフェリック・ユニバース・エクスペリエンス)はフランスのプログレッシブ・メタルバンド。
来歴
1999年、ギタリストVince BenaimとベーシストJohn Draiが中心となりGates Of Deliriumというプログレッシブ・メタルバンドを結成します。この名前での活動は短期間でしたが、キーボーディストFred Colomboと当時のボーカリスト(名前不明)も加わったことでバンド名をAmnesyaに改名し活動を続けます。
2002年8月、バンドは音楽性の違いのために分裂。バンドのメインコアとなっていたヴィンス、ジョン、そしてフレッドは新たにバンド名をSpheric Universe Experienceへと変更し、8ヶ月をかけデモアルバム『The Burning Box』を作成。当時セッションボーカルをしていたFranck Garciaに歌入れを頼んだところメンバーがこれに感銘したことで正式メンバーに迎えられます。
バンドは2005年に1stアルバム『Mental Torments』にてメジャーデビューを果たし、Dream TheaterやCircus Maximus、Seventh Wonderを筆頭とするテクニカル系プログレッシブ・メタルのスタイルで各メディアでも話題を呼びました。
本作『Anima』はそんな紆余曲折のデビューから放つ2ndアルバム。バンドの歴史を通してドラマーの入れ違いが多いのですがこの頃はNico “Ranko” Mullerが担当しています。CD版の流通は終えており、Apple Musicでも何故か抜けているこのアルバムですがamazonだとUnlimitedやダウンロード販売も行なっている模様です。
アルバム参加メンバー
- Vince Benaim – Gutiar
- John Drai – Bass
- Fred Colombo – Keyboard
- Franck Garcia – Vocal
- Nico “Ranko” Muller – Drums
楽曲紹介
- Sceptic
- Being
- The Inner Quest
- Neptune’s Revenge
- Stormy Dome
- World of Madness
- End of Trauma
- Heal My Pain
- Questions
- The Key
- Black Materia
このアルバムがリリースされた2007年、当時僕は大学に通う途中、よく御茶ノ水のディスクユニオンHR/HM館に通っていました。そこで「Dream Theaterに近い」というポップを見てピュアにも買った一枚がこちら。僕にとってはDream Theater以来初となるプログレメタルバンドであり、今のようにサブスクリプションもないので雑誌や実店舗から情報を入手していた思い出深いアルバムです。
さて、アルバムは宇宙感漂うヘヴィナンバー#1「Sceptic」よりスタート。メインリフが一度ローファイに痩せていってからバンドインしていきます。当時でもDream Theaterと比べるとプロダクション面に置ける音の細さが若干気になってしまいますが、勢いのあるボーカルとメロディックなラインでこの手のアプローチが好きな人は多いはず。3:08〜のインストパートは3連に切り替わりメタル特有の転調とも絡めてキーボードとギターの掛け合いソロも楽しめます。
#2「Being」はデジタルサウンドから次曲へ繋がっていく小インスト。#3のテーマがシンセリードでも弾かれ加速していく構成になっているのはお見事。
本編となる#3「The Inner Quest」はGalneryusなどに見られるプログレッシブなシンフォニック・メタルで、Dream Theaterと言うよりはJames LaBrieのソロアルバムにあるような印象。間奏ではエレキピアノとベースが先導するリフを変化させながら徐々に展開していくのですが、#2にてギターソロを弾いているので本編となる#3ではアップテンポの割にソロがない珍しい一曲になっています。
ジャーマンな雰囲気があるヘヴィメタルナンバー#4「Neptune’s Revenge」。3/4拍子のパワーゴリ押しのリフからキーボード発信で別のリフに移行していくイントロがスムーズで素晴らしい。
#5「Stormy Dome」はピアノとシンセによる「静」の小曲で、そこから続いていく#6「World of Madness」は一転「動」を感じさせるきめの細かいシーケンスからバンドイン。知的なコードプログレッションのブレイクからうまく帳尻を合わせボーカルへ入っていく展開は今聴いても新鮮。イントロも長いですがヴァースからインター、ブリッジと流れてサビなのでサビまで結構もたつかせます。しかしフランクのハイトーンが痛快なサビはカタルシスも十分、間奏においても転調を繰り返しドラマティックに仕立て上げています。
#2同様に波紋が広がるようなシンセから展開する9分半の大作#7「End of Trauma」。イントロ後半では再びピアノが先導するリズミカルなリフを生み出していますが、80年代アメリカンハードも感じさせる名演。変拍子バッキングに囚われないポリリズム的なキーボードが難解さを増し、Dream Theaterでいう「Learning To Live」を彷彿とさせます。そういう意味ではメタルでありながらプログレッシブ・ロックとしてのオマージュも大事にしているように思えますね。
アルバムも後半に差し掛かり#8「Heal My Pain」。英詞を基調としたフランス産プログレメタルの本作ですが、アルバムの随所に多言語のセリフを挿入しているのが特徴で、この#8では日本語を聞くことができます。歌詞から察するに傷を追った兵士(日本語のセリフがあるので武士が妥当か)が反撃の機会を伺うといった内容ですが、なんとなく幕末をバックに思わせつつ武士と「復讐」というセリフが妙にくっつかないのでこの辺は文化の差です。楽曲は若干民族的なスケールのリフがあったりセリフに合わせてテンポアップするなどしっかりドラマとして形成している模様。
#9「Questions」。いずれの段落も5W1Hから歌詞を始めておりひたすら問いかけるという重厚なピアノバラード。この手のナンバーにありがちな構成ですが個人的には結構お気に入り。単にグランドピアノだけでなくエレピやグロッケンなどいろんな音色を混ぜているのが聴いていても面白いです。
唯一の10分超えとなる大作#10「The Key」。冒頭のピアノのアルペジオはギターのバレーコードを元にベースを動かしていくパターンですね。この曲では母国語であるフランス語が話されています。曲はこれまでのアプローチや演奏を踏襲した力作でキャッチーなメロラインに伸びやかなボーカル、タイトな演奏など聞き応えも十分。
ラストとなる#11「Black Materia」はアルバム自体のクロージングも兼ねた6分半ほどのテクニカルインスト。曲の具合は歌ものの間奏部分をインストに昇華させたという印象で、いくつかのリズムパターンを段階ごとでわけながら、Steve Vai的な怪しさだったりピアノのシーケンスだったりと細かくシーンを切り分けながら進行していきます。フックの効いたテーマなどは用意されていませんが、3:20〜のオリエンタルなギターフレーズからオルガンを絡めた変拍子リフに突入していく風など一曲に多くのアイディアが詰まった、あえて終わらないクロージングとなります。
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タグ: プログレッシブ・メタルSpheric Universe Experience仏プログレ
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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関口竜太
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