Anathema「Weather Systems」: 深い感動を得たいときに聴くプログレ筆頭の傑作。メタルからポストサウンドへ開眼した英プログレの9thアルバム!
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日は、晴れ晴れしいオルタナ/ポストサウンドと、深いテーマに着手したプログレアルバムをご紹介していきます!
Weather Systems / Anathema
Anathema(アナセマ)はイギリスのゴシックメタル(初期)/プログレッシブ・ロックバンド。
来歴
1990年にリバプールに住む三兄弟、ギター/リードボーカルのVincent Cavanagh、リードギター/キーボードのDaniel Cavanagh、ベースJamie Cavanaghを中心にAnathemaは結成されます。
ボーカルにDarren White、ドラムにJohn Douglasを迎えたバンドは90年代初期にゴシックメタルやドゥームメタルを主軸に構えた音楽性でを開始していきます。
結成当初のメタリックな音楽性は同じくイギリスのParadise Lost、My Dying Brideらと共にゴシックメタル黎明期を支え、この3つのバンドはイギリスのメタルレーベルPeaceville Recordsを代表したことから「The Peaceville Three」と呼ばれました。
そのゴシック・デスメタル期を支えたボーカルDarren Whiteが1995年にバンドを脱退すると、バンドは新たな可能性を模索すべく音楽性を徐々にプログレッシブ・ロック寄りに変化させていきます。
1998年にはメタルサウンドながら繊細なピアノを取り入れた『Alternative 4』をリリース。プログレッシブ・ロックとメタル双方に所縁の深い哀愁ロックへたどり着きます。以後も1999年に『Judgement』、2001年に『A Fine Day to Exit』、2003年には『A Natural Disadter』とコンスタントにアルバムをリリースし一見順風満帆に思えました。
しかしメンバーの一時的な交代も見られた2004年に、所属レーベルが親会社との合併で消滅。長らく新たなレーベルを探すこととなります。
2010年。プログレッシブ・ロックの専門レーベルであるKscopeへの移籍は、彼らにとって重大な転機となり、新たに女性ボーカルLee Douglasが加入。本格的なプログレッシブ・ロックへ開眼していきます。
同年、『A Natural Disadter』から実に7年の時を経て完成させた力作『We’re Here Because We’re Here』がリリース。Steven Wilsonプロデュースの元、かつてのAnathemaとは全く違う、雄大で清涼感溢れる音楽性へ変化。由緒正しきイギリスのプログレッシブ・ロックバンドとして大きな一歩を踏み出すこととなります。
本作『Weather Systems』はそんな大きな転機を迎えた後の第二弾。2012年にリリースされた続プログレ作となります!
アルバム参加メンバー
- Daniel Cavanagh – Vocal, Guitar, Bass, Keyboard
- Jamie Cavanagh – Bass on #6
- Vincent Cavanagh – Vocal, Keyboard, Programming, Guitar,
- John Douglas – Drums, Keyboard, Programming
- Lee Douglas – Vocal
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ゲストミュージシャン
- Petter Carlsen – Backing vocal on #1, #2
- Christer-André Cederberg – Bass, Piano on #7
- Joe Geraci – Spoken word on #9
- Wetle Holte – Drums on #1, #3
楽曲紹介
- Untouchable, Part 1
- Untouchable, Part 2
- The Gathering of the Clouds
- Lightning Song
- Sunlight
- The Storm Before the Calm
- The Beginning and the End
- The Lost Child
- Internal Landscapes
本作は曲の進行において、ほどダルセーニョやリピートのないシンプレクスな構成となっています。
粒立ちのいい煌びやかなアルペジオから幕を開ける#1「Untouchable, Part 1」。こちらは続く#2「Untouchable, Part 2」とセットになった11分の組曲で、導入のアルペジオに向かってダニエルの雄大なボーカルや豊かなコーラス、パワフルなビート、ピアノ…と重なっていくクラブ的なアレンジのロック。3:00〜のエレキギターから一気に突き抜けるサビへと進行していきます。
「Part 1」の余韻を残しながらピアノの導入で始まる「Part 2」では女性ボーカルであるリーも加わりデュエット。壮大なストリングスと共に盛り上げるバラードとなっています。
#1の他、#3「The Gathering of the Clouds」ではJohn Scofieldなどで知られるノルウェーのドラマーWetle Holteがゲスト参加。パーカッシブなアコギ、コーラス、ストリングスなどの何重にもなったレイヤーを支えます。シームレスに展開する#4「Lightning Song」でも繊細なアコギのアルペジオとストリングスと…構成は崩さず清涼感たっぷり。3:15、透き通るリーのボーカルから入るフェイクのカッティングが図太くて最高にかっこいい。
アルバムの前半を締める#5「Sunlight」を終えると、シタール的なエレキサウンドでエジプシャンなイントロが特徴の#6「The Storm Before the Calm」。打ち込み感の強いモダニズムなビートにメロトロンが合わさったポストロックに仕上がっています。なお、三兄弟のベースジャミーは唯一この曲で演奏しています。
お次は#8「The Beginning and the End」。重厚なピアノからナチュラルなトーンで入っていくボーカルのヴァース。クランチ気味のアルペジオで聴かせるゴシック・ロックとなっていてかつてのAnathemaが持っていた重たい雰囲気を活かしたドラマ的バラードです。
微かに聴こえる鼻歌がきっかけとなり始まる#8「The Lost Child」。高音域の擦れるストリングスから穏やかなピアノへ移行していく7分のバラードです。ヴァースではウェット感あるボーカルにリンクさせたドラムを初め、これまでの曲同様にストリングスやピアノを盛り上げていく一方通行のプレグレッション。5:00〜のハイトーンと共にヴィンセントのギターソロも加わり大きな一つの波となっていく圧倒的音圧に呑まれていきます。
そしてラストとなる#9「Internal Landscapes」。冒頭2分20秒に渡る語りはアメリカの生物学者であり獣医、そして科学者であったJoseph Geraci氏によるもの。彼は自らの臨死体験から人の死生観についても研究していたおりそのスピーチは世界的に反響を呼びました。なお、氏は2015年に癌のため77歳でこの世を去っています。
人にとって人生とは時に円として見られることがあります。生まれ出でたものがまた死によって還っていくというイメージですね。しかし実際人生は直線の一方通行です。また様々な要因によってその直線は徐々に、または突然に短くなる…とジョセフ氏はスピーチの中で語ります。
曲は穏やかなアコースティックサウンドとスタビリティなリズム隊をベースにリーとダニエルのツインボーカルで進行していきます。やはり一方通行に作られた曲…というかリフレインのないこのアルバムはジョセフ氏のスピーチに起因するものが感じられ、前作同様「死」に対して攻撃的なメタルという手段ではなく向き合ったAnathemaの大人なテーマを感じ取れる一枚です。