FreddeGredde「Thirteen Eight」: YouTubeチャンネル登録者27万人のプログレミュージシャンをご存知ですか?ファンタジックな北欧ネオプログレのデビュー作!

こんにちは、ギタリストの関口です。

本日ご紹介するのはスウェーデンのFreddeGredde、2011年リリースの1stアルバムです!

Thirteen Eight / FreddeGredde


THIRTEEN EIGHT (サーティーン・エイト)(直輸入盤・帯・ライナー付き)

FreddeGredde(フレッディ・グレッディ)はスウェーデンのプログレッシブ・ロックミュージシャン。

来歴


スウェーデンの中央部、イェブレ出身のミュージシャンFredrik Larssonによるソロプロジェクト。

彼はプログレミュージシャンというより、オリジナルソングを発表した際の音楽性がプログレにカテゴライズされたという結果の持ち主で、そこまでの土台を作ったのはYouTubeによる動画投稿でした。

まだYouTubeがサービスを開始して間もない2008年6月22日。ガットギターを使用し「エリーゼのために」のカヴァー動画を投稿したのが始まり。

動画投稿黎明期のため画質は当然粗いのですが、遠い異国の映像が撮影者本人の手から全世界に発信されるというテクノロジーと革命にいち早く目をつけ、この動画は現在までに292万回再生を記録しています。

始めは動画投稿自体実験的なものだったのかもしれません。しかし、同年のクリスマスに投稿した「ゼルダの伝説 風のタクト」のテーマ曲を一人アンサンブルでアップすると、これが現在までに495万回再生を記録し人気に火がつくこととなります。

今では当たり前の光景になった画面を分割して一人で演奏するというスタイルですが、これをきっかけにゲーム音楽を北欧らしいフォークサウンド中心にカヴァーしていくYouTuberとして活躍していきます。

マリオやポケモンに始まり、スターフォックス、クロノ・トリガー、ドンキーコング。さらにはディズニーメドレーやQueenなど…演奏力の高さに加えそのソフトなルックスで、チャンネル登録者は現在27万人に登ります。Googleで検索してMoon Safariと増田順一の名前が同時に関連に並ぶ人物はそう多くはないと思います。

そんなフレデリックでしたが、「ゼルダの伝説」のカヴァーを上げたその後に相次いで投稿していたのは自身のオリジナルソングでした。「Beside Me」、「The Wayfarer」、「Vampire Bride」はいずれもフォークソングで美しいメロディと彼の爽やかな歌声に導かれ、カヴァー動画に引っ張られる形でアーティストとしての認知度も高めていきます。

そして2011年、1stアルバム『Thirteen Eight』でデビュー。現在までに3枚のアルバムをリリースしていますがいずれもアーティスティックなジャケットと自身で歌唱から演奏の全てをこなすスーパーマルチプレイヤーとして活躍中です。

メンバー


  • Fredrik Larsson -Vocal, All Instruments
  • David Schlein – Drums

楽曲紹介


  1. Lonely Starlight
  2. Solace Distant
  3. Meltdown
  4. The Star Song
  5. 4 Am
  6. The Wayfarer
  7. Crashing of Planets
  8. This Falling World
  9. Beside Me
  10. Vampire Bridge
  11. Euphoria
  12. Stardust
  13. Time Will Tell

タイトルの『Thirteen Eight』は彼がアルバムに収録した楽曲でよく使っていた13/8拍子に由来します。また曲数は全13曲で、これらにまつわる5、8、13(5+8)という数字はいずれもフィナボッチ数列の中に当てはまることになります。フィナボッチ云々は意図したものか不明ですが、これにまつわるアルバムとしてDream Theaterの『Octavarium』を連想させますのでお手すきの時にご覧ください。

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さて、楽曲紹介へと移りたいと思いますが本作は13曲と多作で一部を除いてはコンパクトに仕上げられています。そのうち、動画投稿開始時の楽曲も複数あり、これらはアコースティックソングとして仕上げられていますが、その他多くの曲は一般的にネオプログレッシブ・ロックと呼ばれる構築型のプログレロック。

#1「Lonely Starlight」は彼の中でも代表的な曲で、このアルバムで度々見られる「Star」という単語とコンセプトをリードする一曲。曲はピアノとアコースティックから導入しつつ、ガッツリバンドサウンドの構築プログレを展開していきます。淡白なフレデリックのボーカルも癖がなくマッチする点も評価したいです。なおアルバムリリース後に一人アンサンブルの分割MVが公開されましたが、実にYouTuberらしく時代の流れを感じます。

#2「Solace Distant」はシンフォニック感満載のバラードで、その余韻から続く#3「Meltdown」はスピード感あるピアノのシーケンスから激しくバンドインしていくプログレハードナンバーです。マルチプレイヤーが作るプログレはセッションが起きづらい分The Psychedelic EmsembleやCircaのような構築プログレになるのですが、その中でもボーカルとリードギターをユニゾンしてみたり外部からコーラスらしき声が聴こえたりと実験に富んだ一曲。

#4「The Star Song」は動画化されているアコースティックナンバー。ハーモニクスを含んだアコースティックサウンドとフレデリックの優しい声が響きます。

独特の変拍子のイントロを持つ#5「4 Am」。本編は6/8が基調となっていましすがサウンドはオーケストラチックでミュージカル風に曲調が二転三転します。

#6「The Wayfarer」は彼の活動初期からある楽曲。Lucy Roseのような自然溢れるアンビエントをイメージさせる美しいアコースティック曲。途中フルートやバグパイプなどのアイリッシュな楽器が登場するのも北欧らしくてGood。

#7「Crashing of Planets」ではアコギのダウンピッキングから静かに疾走感を感じさせる導入。バンドに入ると一段と緊張感を増し手数の多いパワフルなドラムに導かれメロディアスに歌い上げていきます。サビにおけるJ-POP系のコード進行も馴染みやすいです。

#8「This Falling World」はプログレメタルの要素もあるテクニカルな一曲。バッキングは終始乗りまくりでその上をボーカルが駆け回るこの曲は、激しいリフやGenesis系のシンセリードもあり、フォークに落ち着いたかと思えばドラムも容赦無くツーバスを踏み込んだりとやりたい放題。フレデリックの創作意欲を垣間見れるアグレッシブな一曲に仕上がっています。

#6と同時期に発表されたロックバラード#9「Beside Me」。プログレッシブなシンセサイザーの音色やシンフォニック要素として登場するアコーディオンも効果的に楽曲を際立てています。こうした自主制作の分割MVは画質が時期によってばらけますがコストがかからず見せられるので面白いです。

アルバムも佳境に入る#10「Vampire Bridge」。YouTuberらしい映像を提供してきたフレデリックですがこの曲に関しては森を舞台にドラマ仕立てになった本格的なMVを楽しむことができます。曲は複雑な進行を廃したバラードで伸びやかなボーカルとストリングスに神経を研ぎ澄ました繊細さを持ち、この曲に対するプロとしてのこだわりを感じます。

13曲のうち2曲存在する長尺曲の一つ#11「「Euphoria」。こちらはイントロからDream TheaterやMagic Pieなどの構築メロハードというべきプログレメタルな一曲で、イントロの壮大さからまとまりのいい歌まで理論立てて作られている様を感じます。インストパートはあまり長く設けられておらず、場面は変われどあくまで歌重視。

#12「Stardust」はこれまでの「Star」を締めくるる4分弱のバラード。

ラストとなる#13「Time Will Tell」は実に15分に及ぶまごうことなき本作のハイライト。これまで通り緻密に練り上げられたプログレッシブな展開と、近年のプログレフュージョン系に聴かれるタイトな演奏、若干ブーミーなギターサウンドでのヘヴィリフやシンフォニックなパートまで自ら演出し組み上げた壮大なプログレエピックです。クロージングはそんなシンフォニックなストリングスサウンドがジャケットの霧のようにふわっとした余韻を残し終幕となります。

Dream Theaterは元よりA.C.TやMagic Pie、Neal MorseにMoon Safariと言った理路整然とした楽曲を得意とするリスナーには是非堪能してほしい、そんなデビューアルバムです。

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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