Lazuli「Le fantastique envol de Dieter Böhm」: 仏ポストプログレの最新作がベスト級!人は空を飛べるか、そのドラマと音作りに迫る!
by 関口竜太 · 2020-03-16
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はフランスのバンドLazuliの2020年最新作をご紹介します!
Le fantastique envol de Dieter Böhm / Lazuli
Le fantastique envol de Dieter Böhm
Lazuli(ラズリ)はフランスのプログレッシブ・ロックバンド。
来歴
南フランス出身のバンド、Lazuliの結成は1998年。リードボーカルであるClaude LeonettiとギターボーカルのDominique Leonettiというレオネッティ兄弟を中心に結成されました。
クロードは86年にバイク事故により左手を故障、当時まで弾いていたギターが一切弾けなくなったことでDTMやシンセサイザーの世界を探索することとなりLazuliはそれがきっかけで始まったと考えられます。またこの時、クロードは右手だけで演奏できるチョップマンスティックのような楽器Léodeを開発しています。
バンドにはレオネッティ兄弟の他マリンバとパーカッションを担当するFred Juan、ベーシストSylvain Bayol、そしてドラマーYohan Simeonらが結集。5人は1999年にバンド名を冠したアルバム『Lazuli』によってデビューを飾ります。
音楽性はプログレッシブ・ロックとしていますが、先人たちから受け継いだ由緒正しきプログレとはまたニュアンスが異なり、プログレの持つアンニュイな雰囲気やフォークロアで厳かなストーリーを基盤にしながらもエレクトロなアレンジ要素や打ち込み、パーカッションなど独自の方向性を編み出しています。また歌詞は全編フランス語となります。
それでもキワモノ的な音楽性にならなかったのは一重にクロードの努力の結晶でもあるし、丹精に仕上げられた楽曲の数々を歌い上げるその繊細な歌唱力でもあります。
2007年にはギタリストとしての新メンバーGédéric Byarが加入するも、2009年にはオリジナルメンバーのフレッド、シルヴェイン、ヨハンが脱退。新たにドラムのVincent BarnavolとキーボードのRomain Thorelが加入し以降も精力的に活動中です。
本作『Le fantastique envol de Dieter Böhm』は2020年リリースの9枚目スタジオアルバム。きめ細かい音楽性が作り出した叙情性溢れるコンセプト作となっています。
アルバム参加メンバー
- Claude Leonetti – Lead Vocal
- Gédéric Byar – Guitar
- Dominique Leonetti – Vocal, Guitar, Mandline
- Romain Thorel – Keyboard, Vocal
- Vincent Barnavol – Drums, Percussion, Vocal
楽曲紹介
- Sol
- Les chansons sont des bouteilles à la mer
- Mers lacrymales
- Dieter böhm
- Baume
- Un visage lunaire
- L’envol
- L’homme volant
- Dans les mains de dieter
全編フランス語なので歌詞の具合はなんとも言い難いですが、このアルバムがプロローグとエピローグを含む全6部構成から成り立っていることは公式が明らかにしています。
アルバムジャケットには絶滅種である飛べない鳥ドードーが描かれており、なにやらコンセプトと絡めてありそうです。タイトルもフランス語となっていますので直訳ですがその辺も見ていきましょう。
Prologue
プロローグに当たる#1「Sol」。英語では「ground」、つまり大地を意味する楽曲となっていて大空を飛べないドードーの生態と主人公の苦悩などに結びつける導入となります。この曲のイントロやヴァースのメロディが本作における重要なテーマとなっていて、随所でリフレインされていきます。
Act1
第一幕では陸から海へ移動。タイトルにある「mer」というのはフランス語で海を意味します。
#2「Les chansons sont des bouteilles à la mer」は直訳すると「the song of bottles in the sea」。大海を彷徨う瓶のようにゆったりとした曲調となっており、細かな符割のハイハットやピアノはキラキラと光る水面を、アルペジオを奏でるギターの空間系エフェクトも情景を浮かべるのに一躍買っています。
シームレスに繋がる形で入る#3「Mers lacrymales」。「lacrimal(英)」とは「涙の」を意味する単語であり#2以上に物悲しくシンセサイザーの割合も増えたバラードで、「ララバイ」という歌詞から壮大な海に抱かれているようなイメージでしょうか。ボーカルのクロードはYesのJohn Andersonのように繊細でありながらサビでは力強く咆哮しています。
Act2
第二幕は登場人物にフォーカスを当てたパート。
#4「Dieter böhm」はおそらくこの壮大な旅の主人公だと思われます。スローテンポの楽曲が続きますがSammy Hagar時代のVan Halen…「Right Now」や「When It’s Love」などを強烈に意識させるシンセフィーチャーの楽曲。壮大なクアイアとエモーショナルなリードギターを始め、4:09〜のタイトなリフにはストリングスも絡みシンフォニックな作りになっているのが特徴です。
#5「Baume」はピアノとエルトンジョン風コーラスが特徴の切ないバラード。英訳の「balm」とは香水などの芳香を差しますがまさしくそんな雰囲気を持つふんわりとしたアンビエントが束の間の癒しの時間をもたらしてくれます。
Act3
第三幕で思いを月に馳せるシーンが描かれます。
そのシーンを表現した#6「Un visage lunaire」は「月面」の意を持つ楽曲で、イントロの12弦ギターやユニヴァイブなアルペジオなどPink Floydの「Us and Them」を彷彿とさせます。バンドインからの重たい演奏も特徴的でKing Crimson的な浮遊感のあるテンションやLeprousのボーカルEinal Solbergを伺わせるクロードの歌もこの組み合わせでしか味わえない旨味に溢れています。
Act4
ついに大空へはばたく第四幕。
「the flight」を意味する#7「L’envol」で本作は初めて爽やかなナンバーを披露します。楽曲はキーボードをメインに据えたインスト2分半ほどのインストですが、ここまでの焦らしから訪れるハイなカタルシスはまさにプログレッシブ・ロックファンが求めてきたもので相違はないはずです。
#8「L’homme volant」は主人公Dieter böhmを歌った物語の佳境。空の自由な世界を音で表現したアコースティックサウンドは、「the flying man」が意味する通り#1のテーマを壮大なオーケストレーションで描きます。フランスらしい哀愁やウェット感がありながらも繰り返されるテーマと徐々に盛り上がっていくボレロのような構成でAct1のように身を任せながらも心は晴れ晴れとした美しい楽曲に仕上がっています。
Epilogue
メロトロンの余韻から繋がるエピローグとラストソング#9「Dans les mains de dieter」。
テーマは#8に引き続き繰り返されていますが穏やかなメロトロンサウンドの中で上下するラップスティールはやはりPink Floydなどのサイケ感やリラクゼーション系のトリップを感じさせます。曲の後半はこのバンドの持ち味の一つであるエレクトロな音づかいもあり、格式の高いクラシカルなシンフォニックとはまた違う壮大なクロージングテーマを繰り広げています。
タイトルを英訳すると「in the hand of dieter」となるわけですがこの旅を通じてDieterは何を手にしたのでしょうか。独創性溢れるドラマと柔軟な音作りのショートストーリーを是非味わって見てください!
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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