IQ「Resistance」: 英ネオプログレの核、2019年最新作。再終結したオリジナルメンバーたちが新たに奏でるヘヴィプログレ!
by 関口竜太 · 2020-02-24
こんにちは、ギタリストの関口です。
今日はIQの最新アルバムをご紹介していきます!
Resistance / IQ
IQはイギリスのプログレッシブ・ロックバンド。
ネオプログレ界のMatter of Standard
1980年代初頭に勃興したネオプログレッシブ・ロックバンドとしてMarillionと共にイギリスを代表する存在となったIQは、1982年にボーカルPeter Nicholls、ギターMike Holmes、キーボードMartin Orford、ドラマーPaul Cook、ベースTim Esauの5人によって結成されます。
キーボーディストのマーティンが主に舵を取りGenesisやYesと言った70年代の香りをほのかに残しながらメロディアスに展開していく新たなプログレッシブ・ロックの世界を体現していくことに成功します。
そんなマーティンは2008年に音楽家としての活動を引退してしまい、その前年にIQからも脱退。本作『Resistance』はメンバー構成自体マーティン以外が変わらずにいるのですが、今日までの間にはそのメンバーたちも細かに変遷が繰り返されてきました。
まず1985年にボーカルのピーターが新バンド結成のため脱退、その5年後には復帰しますがアルバム『Nomzamo』と『Are You Sitting Comfortably?』ではボーカルはPaul Menelに変わっています。
『Are You Sitting Comfortably?』リリース後の1989年、今度はベースのティムが脱退。Les MarshallやJohn Jowittと言った実力派のベーシストがその穴を埋めることになります。
ここからドラムのポールとキーボードのマーティンが脱退するまでの間には2004年『Dark Matter』という名盤も生まれています。そうして2005年にドラムのポールが脱退し後任にはAndy Edwardsが加わります。2008年にはマーティンが引退。
2009年のアルバム『Frequency』ではベースにジョン、ドラムにアンディ、キーボードに新任のMark Westworthという、最もオリジナルメンバーとはかけ離れた編成となっています。ここではかつてのトラディショナルなプログレよりさらにメタルやゴシックな風合いが強まった音楽性が形成されています。
自体が一変したのは2010年。
ポールがドラムに復帰すると翌年2011年には長らくバンドを離れていたベースのティムも復帰。キーボーディストがNeil Durantに交代となる中で2014年、2枚組の大作となる『The Road of Bones』がリリースとなります。
メタリックな雰囲気はバンドに定着しましたがニールによる幽玄なアンビエントのシンセサイザーは37年の歴史を持つバンドを新たな段階へと押し上げていきます。
アルバム参加メンバー
- Paul Cook – Drums
- Neil Durant – Keyboard
- Tim Esau – Bass
- Michael Holmes – Guitar
- Peter Nicholls – Vocal
楽曲紹介
Disc1
- A Missile
- Rise
- Stay Down
- Alampandria
- Shallow Bay
- If Anything
- For Another Lifetime
Disc2
- The Great Spirit Way
- Fire And Security
- Perfect Space
- Fallout
前作『The Road of Bones』に続き本作も2枚組しようとなった意欲作。収録曲の全編がシームレスに繋がっており、本作がコンセプトアルバムであることを示唆しています。
#1「A Missile」からトランスティックなシンセサイザーとヘヴィなアグレッシブサウンドを展開していきます。シンセリードと共に彩るメロディアスなサビなどはIQならではですがジャケットのように燃え上がるメタル曲としてオープニングを飾っています。
続く#2「Rise」もスローテンポのメタル曲。加入して10年が経つNeil DurantのキーボードはどことなくDerek Sherinianの装いもあり2009年以降のIQにはこの一点が強いように思えますね。#2から繋がっていく#3「Stay Down」は幻想的なストリングスのクアイアと12弦ギターが印象的なバラード。
#4「Alampandria」はメタルな楽曲ながらその後の展開を繋ぐためのインターバルとして機能、ポーランドのバンドReverside感のある#5「Shallow Bay」へと続いていきます。重たくゴシックな雰囲気の楽曲とエモーショナルに展開するマイケルのギターソロが印象的です。
#6「If Anything」はループドラムにアコースティックサウンドが加わり癒されるバラード。本来の持ち味であるトラッドな一曲ですが本作の中では珍しい部類に入りますね。
第一部のラストとなる#7「For Another Lifetime」。15分に渡る長尺の中でドラマティックな展開とそれを引っ張るピーターのボーカル、エレガントなキーボードやギターが彩るハードロックサウンドは濃厚で、The Flower KingsやPorcupine Treeを逆輸入したような印象を受けました。
さて、Disc2ではより大作よりの楽曲が、これまたギャップレスに展開していきます。
まず何と言っても20分超えの大作#1「The Great Spirit Way」を語らずにはいられません。ゴシックテイストの強い本作において、従来のプログレッシブ・ロックを展開している数少ない楽曲。Pink Floyd的シンセストリングスが湧き上がるようにフェードインしてくるとそれに伴ってタムロールやギターもインしてくる壮大なエピックを感じます。
随所にハモンドオルガンが展開していたりフュージョンライクでスムーズなリードプレイが光ったりなど個人的に本作のハイライト。メタリックに張り上げるボーカルもいいですが、静かに情熱を燃やすこの曲にこそIQらしさが詰まっていると思います。
メタルバラード#2「Fire And Security」。系統としてはDisc1の#2と同じですがギターソロのバックにはメロトロンを使用していたりなど最新すぎない気遣いが聴いて取れます。
#3「Perfect Space」は二面性のあるプログレ曲としてこちらも強かな一曲。前半はアコギとストリングスが引っ張りながら金物多めのドラムがチキチキ言っている印象ですが、中盤からYes風オルガンサウンドが全面に現れアグレッシブなインターバルを展開していきます。
この曲を聴いていて思ったのが、セッションなどのライブ感を大切にしているのかなという部分。過去作に比べるとメロディアスではないのですがToolのようにアンビエントで聴かせる実験的な箇所がこの曲に限らず多くあります。
そしてラストとなる#4「Fallout」。19分の大作曲でここまでを総括した今のIQが詰まっています。とは言いつつも、山としての勾配は凡。ある程度の水準から一気に落とすというやり方でダイナミクスを付けているというのは逆転の発想としてユニークです。
個人的に、本作はIQのファンなら、これまでの流れに変化が加わって別の側面が見られることは非常に有益で、聴いて損のない代物です。しかしこれからIQを聴きたい人へまず最新作として勧めるにはいささかハードルが高いように感じますね。曲も流動的で掴み所が難しいというのもありますが、Martin Orfordの有無によって大きく音楽性を変えたと思っています。
どちらかといえばKatatoniaやReverside、The Mars Volta、Toolがお好きな人には前作『The Road of Bones』に引き続きオススメできるゴシック・アルバムです!
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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