The Beatles「Revolver」: 世界初のサイケデリック・ロックはやっぱりこの4人だった。麻薬と音楽はイコールにできるか。
by 関口竜太 · 2020-02-16
こんにちは、ギタリストの関口です。
歌手の槇原敬之さんが再び覚せい剤で逮捕され世間を騒がしています。
槇原さんは1999年にも一度覚せい剤やMDMAで逮捕されており、薬物依存の怖さを再認識しましたね。2001年に彼が復帰した第一弾シングルの名前は「Are You OK?」でしたがやはりOKではなかったようです。
その後の取り調べと簡易判定では陰性と出ており薬物使用の疑いは今の所黒ともグレーとも言われていますが、仮に白だった場合、賠償金などが凄まじいと思うので警察も安易には動かないとも思いますけどね。
そんな中、槇原さんの曲をテーマ曲に使っていた某テレビ番組が急遽、The Beatlesに変換し「薬物中毒の音楽が薬物中毒の音楽に変わっただけだ」とネットではツッコまれまくってましたが…そんな経緯から今日はこちらのアルバムをご紹介します。
Revolver / The Beatles
The Beatlesはイギリスのロックバンド。
世界最初のサイケデリック・ロックアルバム!
1966年。この頃The Beatlesが関心を持って取り組んだのは薬物仕様による視界や高揚感を音楽で表現するという部分でした。
「サイケデリック」という言葉が音楽に使われたのはそれより前の1964年、ニューヨークのフォークグループThe Holy Modal Roundersが始まりでしたがそれがロックと融合、ポピュラーな音楽スタイルとして世界中に広まったきっかけは完全にThe Beatlesの影響でした。
しかしただ薬物依存への関心をロックンロールのそれとして音楽にしてきたわけではなく、そこには明確な背景と本人たちの思惑が存在します。
1966年というと、The Beatlesが日本武道館でのライブを催行した年でもあります。
この時、日本中がビートル熱におかされ半ばお祭り騒ぎとなった反面、神聖な日本武道館という舞台で海外のポピュラーミュージックを演奏することに対する右翼側の抗議やデモも相次ぎ、実際The Beatlesへの脅迫も行われました。
そんな穏やかでない治安もあって、武道館1万人の観客に対し警官3000人の厳重体制が敷かれ、ライブ中も観客があまり好き勝手盛り上がれないという規制も加わりました。
当時、John Lennonが「僕たちのライブは僕たちの音楽と関係がない」と発言したように海外では観客の誰もその演奏を聴いておらず、また本人たちもその歓声にかき消され自分たちの演奏が聴こえていなかったのは有名な話です。ところが、規制に規制を重ねた日本武道館でのコンサートはその悲鳴に近い歓声が一部抑えられたことでThe Beatlesはステージ上で中音(ステージ側の演者がモニターしている音)を聴くことができ、同時に自分たちの演奏の下手さにショックを受けたそうです。
この来日コンサートの意味はやはり大きく、ライブバンドでありながら達者な演奏ではないのにファンやメディアからは持て囃され、しかし一方では演奏が聴かれていない事実。自分たちの存在を快く思っていない人たちがいる事実。そしてその中で過度に多忙なスケジュールを組まれている事実にメンバーは徐々に不満を露呈していきます。
そうして1966年8月のサウンフランシスコにてThe Beatlesはライブ活動を休止し制作重視への活動へとシフトしていくのです。
本作『Revolver』はそんなライブと周囲の反応に対する過渡期から生まれたアルバムで、この作品と次回作『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』は彼らが実験的そして意欲的に音楽に向かった証となっています。
メンバー
- John Lennon – Guitar, Vocal, Hammond Organ, Mellotron etc…
- Paul McCartney – Bass, Vocal, Piano, Clavichord etc…
- George Harrison – Guitar, Vocal, Bass, Sitar etc…
- Ringo Starr – Drums, Percussion, Vocal on #6 etc…
その他参加ミュージシャン(一部)
- Anil Bhagwat – Tabla
- Alan Civil – French horn
- George Martin – Produce, Engineer, Piano, Hammond Organ
- Tony Gilbert, Sidney Sax, John Sharpe, Jurgen Hess – VIolin, Viola, Cello
- Eddie Thornton, Ian Hamer, Les Condon – Trumpet, Tenor Sax
楽曲紹介
- Taxman
- Eleanor Rigby
- I’m Only Sleeping
- Love You To
- Here, There and Everywhere
- Yellow Submarine
- She Said She Said
- Good Day Sunshine
- And Your Bird Can Sing
- For No One
- Doctor Robert
- I Want to Tell You
- Got to Get You into My Life
- Tomorrow Never Knows
イギリスの音楽ジャーナリストSteve Turnerは本作がプログレッシブへ傾倒していく音楽文化を生み出した「時代の精神」とした上で、アシッド・ロック、チェンバー・ロック、R&B、ヒンドゥースターニー音楽などポップス/ロックに囚われない多ジャンルの追求を評価しています。
#1「Taxman」は当時のイギリス首相が打ち出した労働方針から、The Beatlesのような高所得者に対する高い税率への抗議で書かれた楽曲。それまでのロックよりさらに進んだ現代的アレンジが特徴でロックなギターソロも披露。
余談ですがこのソロはAndy Timmonsの「All Is Forgiven」にてオマージュされています。これが収録されたアルバムもまた、エスニックな雰囲気を味わえるサイケデリック路線のアルバムです。
#2「Eleanor Rigby」は後述する#6「Yellow Submarine」との両A面シングル。エリナー・リグビーと呼ばれる身寄りのない老女と神父との悲劇を描いたシアトリカルなナンバー。インディアンなリズムにタイトなストリングスが絡むサウンド面でもドラマティックな仕立てになっています。
#3「I’m Only Sleeping」はシャッフルビートのフォークソングでありながらテープ再生による音の空間にもメスを入れた如何にもサイケフォークな一曲。
続く#4「Love You To」ではヒンドゥースターニー音楽に倣い導入したシタールが特徴で、それまでの西洋音楽の流れをリセットし非西洋音楽をポピュラー音楽にプッシュしたという点に置いて意味のある一曲。この曲の意識は次回作でのアイディアでも取り込まれています。
なおインド音楽からの影響もあるからか当初アルバムタイトルは「Abracadabra」とも言われていましたが別のバンドにより既出だったため却下となりました。
多重コーラスが美しい#5「Here, There and Everywhere」に続きアルバムより先行リリースされた#6「Yellow Submarine」。スコットランドのシンガーDonovanと共作された歌詞は、ポールが発案した「子供が描く世界の中を友人と一緒に航海する」というテーマで書かれています。Mal EvansやNeil Aspinallを始め6人のバッキングボーカルがゲスト参加しています。
#7「She Said She Said」は#6の暗い雰囲気と対極にある曲で、4/4と3/4とに分かれるパートが印象的。特にプログレッシブを意識したわけではないのでしょうが、自然とこういうアプローチょが出てくるのがThe Beatlesのセンスそのものです。
後のYesやQueenといったイギリスのバンドにも影響がありそうなピアノ楽曲#8「Good Day Sunshine」。まるで束の間の休暇を歌ったかのような穏やかな一時を思わす曲の雰囲気が素晴らしいです。
ギターのツインリードによるリフが特徴的な#9「And Your Bird Can Sing」。クレジットではレノン=マッカートニーとなっていますがジョンによって書かれた楽曲です。
#10「For No One」。後のNo-Manなどに引き継がれるバロック・ポップ調の楽曲で、文学的な雰囲気を感じさせる歌は失恋した男がテーマとなっています。
ニューヨークに実在した医師をテーマにした#11「Doctor Robert」。スピードドクターという異名を持ち、医師でありながら自身がドラッグを使用していたことで有名だそう。ポール曰く「ニューヨークをハイにし続けた男」。
ジョージ作のバラード#12「I Want to Tell You」。作曲者のジョージがLSDからインスピレーションを得たと語った通り、ラブソングでありながらアウト気味なコード進行を多用した若干不穏さを感じさせる作りのサイケデリック・ロック。
モータウンサウンドのR&B#13「Got to Get You into My Life」。ゲストにEddie Thornton、Ian Hamer、Les Condonを招きブラスセクションを加えたことによる煌びやかな楽曲。
ラストソングは#14「Tomorrow Never Knows」。これがThe Beatles初のサイケデリック・ロックとされ、#6でも使われたシタールやテープのループ音やドップラー効果を多用した実験的サンプリング音楽。曲は逆再生された鳥の鳴き声などが飛び交う中ワンコードで進行しており、これはチベットの修行僧や日本で言うお経をイメージしたものとされていて、サイケデリックという音楽のトリップの一端に触れられる楽曲です。
最後に
本作、特に「Tomorrow Never Knows」を聴くとサイケデリック・ロックとはなんぞやという部分に触れることができると思いますが、その上で薬物使用と音楽との関係について、現代では禁じられた作曲法だと個人的に思っています。
The Beatlesだから許された、Syd Barettだから許されたという時代背景はあれど、現代社会において薬物が違法とされた国でミュージシャンだからという理由でこれに手を付けるのはご法度かなぁというのが率直な感想です。遠回しな言い方をすればドーピングみたいなもんです。
しかし現在こうして存在しているLSD楽曲そのものを否定するわけではなく、むしろ記録に残ってるからこそそれを嗜む喜びとか間違いを犯さないための礎として楽しむことができるのは感謝しかありません。そうした上でこれからも過去の音楽家たちに敬意を払っていくべきだと思いますね。
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タグ: サイケデリック・ロック英プログレThe Beatles
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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