Fuseboxx「Animated」: フィリピンの女性チョップマン・スティックボーカルという超個性派プログレ!新曲発表を受けて過去アルバムをレビュー!
by 関口竜太 · 2020-01-24
おはようございます、ギタリストの関口です。
今日は最近知っためちゃくちゃにカッコいいバンド、Fuseboxxをご紹介します。
昨年ニューシングルである「New Beginning」をリリースしてこれからが楽しみなバンドであります!
こちらは2011年のアルバム以来実に8年ぶりとなる新曲。2018年のPineapple Expressの時もそうでしたが、当時だったらいざ知らずストリーミングサービスや各種SNSが発展しきった現在だからこそ再浮上しアンテナに引っかかってくれたんだと思います。
というわけで本日はそんな2011年のアルバムをバンドの歴史と共にご紹介していきます!
Animated / Fuseboxx
Fuseboxx(フューズボックス)は、フィリピンのプログレッシブ・ロック/メタルバンド。
来歴
2001年。フィリピンはマニラでキーボーディストEric TubonとギタリストPaolo Cabalquinto、そしてドラマーHerson Feemistaの3人により結成された実験音楽グループが母体。
ボーカルにAbby Clutarioという女性シンガーを迎えてからはフィリピン初と言われるプログレバンドとして2004年にEPを発表。
次いで2006年には1stアルバム『Fuseboxx』をリリースします(2005年とする説も)。本人たちが発言しているように、RushやDream Theater、Yesなどに代表される構築型の楽曲とGenesis、Neal Morse、Mahavishnu Orchestraと言ったシンフォニックなアレンジを豊富に含んだサウンドは特に国内で高い評価を得ることとなります。
それでもぶち当たった壁がメンバーチェンジ。ギタリストが二転三転し、かつては在籍していたベーシストもボーカルのアビィがチョップマン・スティックを手に入れた時期と前後して脱退しているためどちらが早かったのか否か、そこにバンドの苦悩が垣間見れます。
それでもアジアンプログレはヨーロッパやアメリカに比べれば珍しく、また女性ボーカルでさらにチョップマン・スティックを操るとなれば唯一無二。非常にユニークで斬新だし、実際曲が追いついてきているので文句の出ようがありません。
本作『Animated』は母体の結成から10年の年月が経ってリリースされた2ndアルバムとなっています。
アルバム参加メンバー
Abby Clutario – Vocal, Keyboard, Chapman Stick
Eric Tubon – Keyboard
Mico Ong – Guitar
Lester Banzuelo – Drums
楽曲紹介
- Overture
- Animated
- Reflections
- Pagbalik
- Columns
- No Glory
- Uyayi
- Twilight
- Hibang
- Araw
正真正銘のシンフォプログレ作品でありながら今ひとつ目立たなかった理由として挙げられるのは商業的なジャケット。MarillionやJourneyを思わせる「かっこいい」テイストは悪くないですが、個性の強い音楽性やアジアンプログレというカテゴリーを考慮するともっとアーティスティックなデザインでもよかったように思います。
まぁジャケットに対する苦言はこの辺にして…
#1「Overture」があるのでコンセプト作を疑ってしまうのですが、実際は#2以降の楽曲からそれぞれをコーラスにてまとめる役割を果たしており、純粋にアルバムに統一感を持たせるオープニングとなっています。
続くタイトルトラックの#2「Animated」はさらにアルバムを盛り上げるインストとして機能。ここからすでにDream Theaterやそれに準じたプログレバンド特有のメカニカルなリックの数々と、変拍子やキーボードでのアプローチが満載です!
#3「Reflections」ではタイトなストリングスと変拍子、テンポチェンジといったドラマティックな構成を楽しめるミディアムメタルナンバー。サビの歌メロはDream Theaterの「Trial Of Tears」を思い起こさせました。
フィリピンということもあり歌詞は英語の他、母国語であるタガログ語も採用しているのがポイント。これはフィリピン人による美しいタガログへの誇りとしていて、これが該当する#4「Pagbalik」他複数曲ではボーカルのアビィの表現力に艶やかさが増している気がします。
そんな#4ではクラビネットなどPad系の音色を煌びやかに散りばめたシンセの使い方でフランスのプログレメタルバンドSpheric Universe Experienceも匂わせます。このバンドも分類としては同じタイプですけどね。
#5「Columns」はRush風のシークエンスリフから7拍子で決めていくリズムとしてもメロディアスな一曲。楽曲全般を通してギターソロの自由度は低めですが、その分キメキメに展開するバンドシンフォニーを楽しめるので是非とも醍醐味にしていただきたいです。
#6「No Glory」を始め、#7「Uyayi」などではメタルサウンドの中でもとりわけシンセサイザーに重きが置かれているのが特徴のFuseboxx。この曲ではJordan Rudessばりのキーボードソロもメロウに聴かせています。
#8「Twilight」はしっとりとしたピアノから他とは少々テイストが変わるニューウェーブな仕上がりに。ジャズやファンクも取り込み、さらにタガログによる歌がアジアンらしいオリエンタルな雰囲気を作り上げています。個人的に一番のオススメ曲。
#9「Hibang」は中盤までピアノによるヴァースを回していきますが、アビィのボーカルは言葉尻の余韻とかブレスの具合が宇多田ヒカルっぽい。ラスト曲#10「Araw」まで滑らかなシンセとヘヴィなギターの刻み、そして全体的にタイトなアンサンブルで実に端正な楽曲たちです。この曲に限っては短いながらギターソロでの速弾きも披露。
楽曲傾向は偏りがちなもののどの曲も実にポジティブで好感度を高く保てるハイクオリティ。Dream TheaterやNeal Morse好きにはもちろんこのニュアンスで女性ボーカルを探している人には是非オススメしたいです。
日本より市場の狭いフィリピンで、しかも日本と同様プログレは一般的な認知には届かないためシーンはかなり厳しいと言えますが結成から最新作までおよそ20年の時を生き抜いてきたこのバンドを応援していくべきと感じました。
Share this:
関連
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
おすすめ
- 次の記事 The Flower Kings凱旋公演がスタート!気になるセットリストを分析。
- 前の記事 Pain Of Salvation「In The Passing Light Of Day」: 攻撃的なメタルサウンドと繊細な構築美が広がる、北欧プログレの巨人10th。
人気の投稿とページ
アーカイブ
- 2023年9月 (2)
- 2023年8月 (1)
- 2023年6月 (1)
- 2023年4月 (2)
- 2023年2月 (2)
- 2023年1月 (3)
- 2022年12月 (6)
- 2022年11月 (2)
- 2022年10月 (3)
- 2022年9月 (3)
- 2022年8月 (3)
- 2022年7月 (2)
- 2022年6月 (6)
- 2022年5月 (6)
- 2022年4月 (5)
- 2022年3月 (5)
- 2022年2月 (3)
- 2022年1月 (5)
- 2021年12月 (6)
- 2021年11月 (4)
- 2021年10月 (4)
- 2021年9月 (2)
- 2021年8月 (5)
- 2021年7月 (7)
- 2021年6月 (6)
- 2021年5月 (9)
- 2021年4月 (11)
- 2021年3月 (15)
- 2021年2月 (8)
- 2021年1月 (10)
- 2020年12月 (14)
- 2020年11月 (15)
- 2020年10月 (19)
- 2020年9月 (24)
- 2020年8月 (26)
- 2020年7月 (28)
- 2020年6月 (30)
- 2020年5月 (31)
- 2020年4月 (30)
- 2020年3月 (30)
- 2020年2月 (29)
- 2020年1月 (31)
- 2019年12月 (34)
- 2019年11月 (31)
- 2019年10月 (32)
- 2019年9月 (31)
- 2019年8月 (31)
- 2019年7月 (31)
- 2019年6月 (31)
- 2019年5月 (32)
- 2019年4月 (35)
- 2019年3月 (33)
- 2019年2月 (25)
- 2019年1月 (31)
- 2018年12月 (23)
- 2018年11月 (20)
- 2018年10月 (16)
- 2018年9月 (11)
- 2018年8月 (18)
- 2018年7月 (27)
- 2018年6月 (29)
「イメージは燃える朝焼け」を購読する
アーカイブ
- 2023年9月 (2)
- 2023年8月 (1)
- 2023年6月 (1)
- 2023年4月 (2)
- 2023年2月 (2)
- 2023年1月 (3)
- 2022年12月 (6)
- 2022年11月 (2)
- 2022年10月 (3)
- 2022年9月 (3)
- 2022年8月 (3)
- 2022年7月 (2)
- 2022年6月 (6)
- 2022年5月 (6)
- 2022年4月 (5)
- 2022年3月 (5)
- 2022年2月 (3)
- 2022年1月 (5)
- 2021年12月 (6)
- 2021年11月 (4)
- 2021年10月 (4)
- 2021年9月 (2)
- 2021年8月 (5)
- 2021年7月 (7)
- 2021年6月 (6)
- 2021年5月 (9)
- 2021年4月 (11)
- 2021年3月 (15)
- 2021年2月 (8)
- 2021年1月 (10)
- 2020年12月 (14)
- 2020年11月 (15)
- 2020年10月 (19)
- 2020年9月 (24)
- 2020年8月 (26)
- 2020年7月 (28)
- 2020年6月 (30)
- 2020年5月 (31)
- 2020年4月 (30)
- 2020年3月 (30)
- 2020年2月 (29)
- 2020年1月 (31)
- 2019年12月 (34)
- 2019年11月 (31)
- 2019年10月 (32)
- 2019年9月 (31)
- 2019年8月 (31)
- 2019年7月 (31)
- 2019年6月 (31)
- 2019年5月 (32)
- 2019年4月 (35)
- 2019年3月 (33)
- 2019年2月 (25)
- 2019年1月 (31)
- 2018年12月 (23)
- 2018年11月 (20)
- 2018年10月 (16)
- 2018年9月 (11)
- 2018年8月 (18)
- 2018年7月 (27)
- 2018年6月 (29)
The Prog Rock News Japan
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。