Pain Of Salvation「In The Passing Light Of Day」: 攻撃的なメタルサウンドと繊細な構築美が広がる、北欧プログレの巨人10th。

こんにちは、ギタリストの関口です。

今日も比較的新しいところからプログレをご紹介しようと思うのですが、このブログに名前は度々出ているものの実際取り上げたことのなかったバンドが初登場です!

In The Passing Light Of Day / Pain Of Salvation


In The Passing Light

Pain Of Salvation(ペイン・オブ・サルヴェイション)はスウェーデンのプログレッシブ・ロック/メタルバンド。

来歴


今から遡ること36年前の1984年。当時若干11歳のボーカルDaniel Gildenlöwによって結成されたRealityというバンドが前身となります。初期メンバーにDaniel Magdicも加えたRealityは1987年にはスウェーデンの音楽コンテスト「Rock-SM」にて最年少バンドとして出場、このときダニエルはコンテストのベストボーカリストに輝いています。

1990年、Realityにもメンバー変遷の時期が訪れます。この入れ替えでベースにはのちにMeshuggahでも活躍するGustaf Hielmが加入、ドラムにJohan Langellが採用されました。

そして1991年、バンド名をPain Of Salvationに改名し活動を再開、グスタフが抜けるなどメンバーの変遷もありましたが6年後の1997年に実を結び1stアルバム『Entropia』をリリースします。このときのメンバーはギターボーカルダニエル、ギタリストマディック、ベースにはダニエルの弟Kristoffer Gildenlöw、キーボードにFredrik Hermansson、そして新たに加入したドラマーのヨハンの5人編成。

様々な音楽からの影響が融合されたシアトリカル(物語性)なアルバムや楽曲構築を持ち、King CrimsonやGentle Giantと言ったプログレッシブ・ロックや、PanteraやRammstein、White Zombieと言ったインダストリアルでモダンなヘヴィメタル両面を受け継ぐことになります。

1stアルバムリリース後、11年に渡りバンドを支えたギタリストのマディックが脱退。その後はJohan Hallgrenが加入しこれも一時はバンドを離脱することがありましたが、現在は復活し右腕を担っています。

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一方、ダニエルは個人としても様々なバンドやプロジェクトへも参加。有名どころではThe Flower Kings。2002年のアルバム『Unfold the Future』から2007年まで『The Road Back Home』ボーカルとしてアルバムに参加しています。

その縁もあってか2003年からはTransatlanticのライブツアーにも同行しサポートボーカルやギター、キーボードとしてバンドに彩りを添える傍ら、Dream Theater2007年のアルバム『Systematic Chaos』に収録された「Repentance」でのゲストボーカルを始め、AyreonやThe Sea Withinなど多様な人間関係とファミリーツリーが見えてくる獅子奮迅ぶりを見せています。

話を戻すと2007年にはPOS改名当初からの屋台骨であったランゲルも脱退、同時期フランスのエクストリームメタルバンドZubrowskaへの参加も決まっていたLéo Margaritが加入しています。

本作『In The Passing Light Of Day』はバンドにとって通算10枚目となる現状最新作ですが、これの前作『Falling Home』は過去曲のアコースティックアレンジアルバムであるため実質的なニューアルバムとしては6年ぶりとなります。

アルバム参加メンバー


  • Daniel Gildenlöw(ダニエル・ギルテンロウ)  – Vocal, Guitar
  • Ragnar Zolberg(ラグナー・ソルベルグ)  – Guitar, Vocal
  • Gustaf Hielm(グスタフ・イェルム)  – Bass, Vocal
  • Daniel “D2” Karlsson(ダニエル・カールソン)  – Keyboard, Vocal
  • Léo Margarit(レオ・マーガリット)  – Drums, Vocal

その他参加ミュージシャン

  • Peter Kvint – Bass, Mellotron, Vocal
  • Camilla Arvidsson – Violin
  • David Ra-Champari  – Violin
  • Anette Kumlin  – Oboe, English Horn
  • Hálfdán Árnason  – Double Bass

ギタリストのラグナーは本作リリース後に脱退、一度脱退したJohan Hallgren(ヨハン・ハルグレン)がバンド復帰しています。

楽曲紹介


  1. On A Tuesday
  2. Tongue of God
  3. Meaningless
  4. Silent Gold
  5. Full Throttle Tribe
  6. Reasons
  7. Angels of Broken Things
  8. The Taming of A Beast
  9. If This Is the End
  10. The Passing Light of Day

モダンヘヴィネスを基盤とした音作りとバンドコンセプトに沿った物語を感じさせる複雑な楽曲が特徴。

#1「On A Tuesday」は初手から10分を超える長尺ではあるもののダウナーさは無用と言わんばかりのダウンチューニングリフが飛び出します。ギターのシーケンスとポリリズムとが付いたり離れたりする癖になるアプローチ。中盤にはメロトロンとオーボエが生み出す静の世界観も用意されていたりとOpeth的なプログレッシブさにも余念がありません。

#2「Tongue of God」は冒頭美しいピアノとベースラインからスローながら重たく叩き込んでくるメタル曲。

オリエンタルな響きを持つイントロのギターから始まる#3「Meaningless」。上記のバンドに加えてToolやMars Voltaなどオルタナ方面にも精通してそうなPOSは激しさと叙情性あるメロディとのバランスも秀逸です。

ピアノが牽引していくバラードの#4「Silent Gold」、コーラスにはゲストのPeter Kvintが参加。デジタルシーケンスとポリリズムを多用していくことでカオスを表現するこのバンドのシンボルとも言える#5「Full Throttle Tribe」など一曲ごとにテンプレート化しない気遣いは見事!

#6「Reasons」はヘヴィでアグレッシブなリフ、Djent的な歯切れのいい刻みとマドリガーレコーラスとの奇怪な美しさが魅力の一曲。この曲でもコール&レスポンス的なコーラスが印象的ですね。

#7「Angels of Broken Things」はアコギのアルペジオからヴァースに入っていき、終盤に向けて徐々に盛り上げるという一方通行的な構成のバラード。ラグナーのエモーショナルかつテクニカルなギターソロも聴かれギターフリークも楽しめる一曲に。

#8「The Taming of A Beast」は曲始めのリズムパターンから90年代のレッチリっぽさがあるかなと思ったのですが、サビでのテンション感、さらにそこから刻み込む8分ダウンが鬱屈した空気を吹き飛ばします。グスタフのベースラインも個人的にお気に入り。

オールドなプログレッシブ・ロックの雰囲気を取り込んだ#9「If This Is the End」。テープノイズによる演出がフィルム映画のようでなんともニクい。

15分超えとなるクロージングナンバー#10「The Passing Light of Day」。タイトルナンバーだけにプログレスを意識した落ち着きのあるヴァース。6:33〜のスライドギターはメロトロン的なニュアンスを生み出していてノスタルジックな響きが心地よい。曲は8分ほどかけてゆっくり盛り上げていきますが、完全にバンドインしてからもヘヴィな演奏はキープしつつあくまで歌にフォーカスを当てているのが印象的です。12:03〜はオーボエにヴァイオリン、ピアノなどをメインに据えしっとりと感動的に締めるというのが極上。ダニエルの幅広い歌唱も堪能できる2017年の名盤です。

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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