The Flower Kings「Flower Power」: 59分の大作組曲が大輪を咲かせるシンフォニックの世界。北欧プログレバンド99年の4thアルバム。

こんにちは、ギタリストの関口です。

本日は来日目前、The Flower Kingsの大作アルバムをご紹介します!

Flower Power / The Flower Kings


フラワー・パワー

The Flower Kingsはスウェーデンのプログレッシブ・ロックバンド。

世紀末に咲かせた大作シンフォサウンド


1970年代中期から活躍した北欧プログレの代表格Kaipa。そこで若干17歳でデビューを飾ったギタリストRoine Stoltによるソロ活動が元となり、今日まで続いているのがThe Flower Kings(TFK)となります。

きっかけとなったのはバンド名の由来にもなった1994年作『The Flower King』で、多くのゲストを招いて作られたシンフォニックロックに手応えを感じたロイネは翌年、「ソロ活動」の名義を正式に「The Flower Kings」へとするのでした。

記念すべき1stアルバム『Back In The World Of Adventures』は名義こそ変わっただけの実質ソロアルバムとなりましたが、当時のメンバーにはドラムにJaime SalazarHans Bruniusson、サックスにはUlf Wallander、ベースにはロイネの弟であるMichael Stolt、そしてキーボードにはTomas Bodinなどここまでで洗練されたロイネの良きパートナーたちが在籍していました。

さらに現在でもロイネの優秀な右腕としてパートナーシップを結びソロ活動でも素晴らしいシンフォニックロックを提供し続けるセカンドボーカルHasse Fröbergもこの時からすでに在籍しています。

90年代のTFKはとにかくロイネのバイタリティ溢れる作風が特徴となっており、毎年のように作品をリリース。この初期の数年があったからこそ現在でも根強い人気を誇っていると言っても過言ではありません。

ノストラダムスや2000年問題で揺れる1999年に発表された本作『Flower Power』もまさしく抑えきれないエネルギーが大輪の花を咲かせたアルバムとなります。

アルバム参加メンバー


  • Roine Stolt – Vocal, Guitar, Keyboard, Bass
  • Tomas Bodin – Keyboard
  • Michael Stolt – Bass
  • Jaime Salazar – Drums
  • Hasse Bruniusson – Percussion
  • Hasse Fröberg – Vocal
  • Ulf Wallander – Soprano Saxophone

楽曲紹介


Disc1

  1. Garden of Dreams
    1. Dawn
    2. Simple Song
    3. Business Vamp
    4. All You Can Save
    5. Attack of the Monster Briefcase
    6. Mr. Hope Goes to Wall Street
    7. Did I Tell You
    8. Garden of Dreams
    9. Don’t Let the Devil In
    10. Love Is the Word
    11. There’s No Such Night
    12. The Mean Machine
    13. Dungeon of the Deep
    14. Indian Summer
    15. Sunny Lane
    16. Gardens Revisited
    17. Shadowland
    18. The Final Deal
  2. Captain Capstan
  3. Ikea By Night
  4. Astral Dog

Disc2

  1. Deaf, Numb & Blind
  2. Stupid Girl
  3. Corruption
  4. Power of Kindness
  5. Psychelic Postcard
  6. Hudson River Sirens Call 1998
  7. Magic Pie
  8. Painter
  9. Calling Home
  10. Afterlife

二枚組140分にも及ぶ大作となった本作『Flower Power』。コンセプトアルバムではないのですが、その構成は18部構成に及ぶ60分の大作組曲「Garden of Dream」とメロディアスで短距離〜中長距離程度の佳曲が並ぶなんとも贅沢な北欧プログレの時間。

まずは何と言ってもアルバム冒頭から繰り広げられる組曲#1〜18「Garden of Dreams」。曲の長さよりもかなり細分化された18ものセクションが気を引きます。ここまで細かくされると気になるのは曲のまとまりはどうなっているのか、カテゴリー分けをもう少し大きくできそうなのでその辺りも踏まえてご紹介していきます。

「Dawn」〜「All You Can Save」

Part.1からPart.4までをまずは一区切り。70年代を強烈に思い起こさせるハモンドのイントロから、「Simple Song」フォークなアメイジング・グレイスとも言えるテーマをリフレインさせることで散らばった組曲をまとめる工夫がなされています。「Business Vamp」はロイネお得意の5拍子パート。

「Attack of the Monster Briefcase」〜「Mr. Hope Goes to Wall Street」

Part.5,6は計5分ほどのインターバル。5拍子+ポリリズムを交えたドラムパターン、流暢なギターソロやバックのアコギもとても綺麗です。「Mr. Hope〜」の方では疾走感のあるベースラインにキーボードソロ、ピアノとホイッスルを使ったブレイクで喜劇のような演出をしています。

「Did I Tell You」〜「There’s No Such Night」

中盤に差し掛かりPart.11まではバリエーション豊かなボーカルパートです。タイトルパートとなるPart.8「Garden of Dreams」はクリシェ感のあるフックの効いたメロディとジャズやソウルを思わせる曲の展開がアダルティーで魅力的。

初期のVan Halenを思わすハードロック「Don’t Let the Devil In」ではワウをかけたドライブなソロ、「Love Is The Word」では再び劇団調のワンシーンを挟んだ後で6/8で奏でるオリエンタルなバラードに流れていきます。ここでのラストシーンとなる「There’s No Such Night」ではロイネの美しいファルセットが聴ける他、ハープの音色などオーケストレーションも壮大で楽曲全体のスケールの大きさも思わせます。

「The Mean Machine」〜「Indian Summer」

シンセとSEを中心とした3パートに渡る静かなインターバル。雰囲気としてはPink Floydの『狂気』に近いですがそこまでガッツリ構築されてもいないのであくまで空気から感じ取ってもらえればと思います。

「Sunny Lane」〜「Gardens Revisited」

「Indian Summer」から再びインストへ入っていくPart.15,16。ここでは終盤の大団円に向けてメインテーマへ戻り徐々に盛り返していく後半切ってのハイライト。トーキング的なシンセでフュージョン要素の強い「Sunny〜」はここに来てまだまだ中だるみを感じさせないバックグラウンドの広さを物語っています。

「Shadowland」〜「The Final Deal」

そしてラスト、Part.17と18は文字通りの大団円。「Shadowland」「The Final〜」のイントロに当たるパートで、長い旅の終着点というよりようやく視界が拓けたようなイメージ。たっぷりと余韻を残すお約束のシンセで旅を終えることになります。

ここまでの心意気はとにかく買いたい反面、やはり巨大過ぎる組曲はまとまりを持たせるのが命題かなとも感じます。この手の大作にはNeal Morseのような圧倒的な仕切りが必要で、事実ロイネとニールが所属するTransatlanticでは2010年作に78分の大作を見事構築し切っています。

60分の長旅を終えてからは45秒のSEと4秒間の高速ドラムロール#20「Ikea By Night」を挟んでMichael Landau的なアンビエントのインスト曲#21「Astral Dog」で締めています。

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Disc2では先述した通りコンパクトで聴きやすい佳曲が並ぶ第二部となっていて#1「Deaf, Numb & Blind」のストリングスと柔らかなオルガンによるシンフォニックからもう一度別側面の『Flower Power』を楽しむことができます。

そんな#1はマイナーコードのアルペジオ的リックがメロディアスに絡みながら展開していく11分の長尺曲。7拍子の上で繰り広げられるカッティングとロイネ節、そして北欧らしい分厚いコーラスなどのファクターが詰まっています

#2「Stupid Girl」は≒「Stupid Girls」からアメリカのシンガーPinkを思わせます。エスニックなシタールやサンプリングされたドラムが一瞬彼女のR&Bをよぎらせますが、本編は深めのリヴァーブに疾走する爽やかなストレートロック。後半のテンポチェンジからより一層駆け抜けていくインストはAndy Timmons的でもありますね。

Yesや同世代のSpock’s Beard風でもあるプログレハードナンバー#3「Corruption」。全編で鳴り響くハモンド・オルガンがなんとも印象的で、半音ずつ上がったり下がったりするコードワークやスケール感もユニーク。

#4「Power of Kindness」はパイプオルガンによるソロ演奏で月並みのことを言えば教会のような神聖な雰囲気を味わえる一曲。ここまででかなりの長時間を駆け抜けているので非常に癒されます。

ヴィンテージ・ディズニー感のあるポップでコミカルな風態を装ったストレンジなナンバー#5「Psychedelic Postcard」。近年の彼らのようなKing Crimson感はなくどちらかと言えばGenesisやYes色が強い明るいDisc2は、この時同時進行で制作されたであろうTransatlanticからの影響があるのかもしれません。

キーボードと女性クアイアでミステリアスに聴かせる#6「Hudson River Sirens Call 1998」を抜けるとメロトロンとアコギによるバラード曲#7「Magic Pie」へ。ボーカルを担うのはハッセですね。ウォームで繊細な彼のボーカルに釣られるようにベースがオブリを弾きドラムがタム多めのフィルを叩く。SEとして色を添える鳥の鳴き声も彼の歌声に誘われているようです。

#8「Painter」はこれもオールドスクールなプログレッシブ・ロックの王道パターン。ディミニッシュや半音系のスケールを使った不穏なリックの数々と豊かで広がりを与えてくれるボーカルパートとの対比が秀逸。バンドアウトしてからのアコギソロ〜余韻を残して締めるメロトロンまでテーマも構築も完璧です。

ネオクラシカルメタルを彷彿とさせるイントロの#9「Calling Home」。内容はと言えばピアノとアコギをメインにトラッドフォークを展開する前半とHerbie Hancockテイストなファンクとの二面性を持つ大作曲。

そして二枚組ラストソングとなる#10「Afterlife」。”afterlife”というのは所謂死後やあの世のことを言うのですがストリングスやフルート、ハモンド、メロトロンなど一通りのシンフォサウンドをさらいつつ、天まで届きそうなほどハイキーな壮大なテーマが肝。幽玄でミスト感のある雰囲気も天国のような優しい空気を感じ取れます、もちろん天国のことは知りませんが。

アルバム全体を総評すると、二作品に分けてもいいくらいのボリュームと濃密さで、ファンタジーとドラマ性が共存する名大作シンフォニック・ロックです。個人的にはDisc2をメインに据え「Garden of Dream」を究極のアンコールくらいに捉えてもいいかなと思います。UK五大プログレバンドを多く例に挙げたようにそれらの大御所へのリスペクトを感じ取れるのもポイント高いですね!

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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