Emerson, Lake & Palmer「Trilogy」: プログレオタクくんさぁ…タルカスしか聴いてないんじゃない?バンドケミストリーを強く感じる全盛期代表の一枚!
by 関口竜太 · 2020-01-17
おはようございます、ギタリストの関口です。
最近TwitterではWANIMAの3人が横に並んでる画像を使って大喜利するのが流行っているようですがこの構図は…ということで本日はこちらをご紹介。
Trilogy / Emerson, Lake & Palmer
Emerson, Lake & Palmerはイギリスのプログレッシブ・ロックバンド。
ジャンルとバンド、両者が成熟し合った名作
1970年代初期の2、3年はまさにプログレッシブ・ロックの発展途上期で、UK五代プログレのみならずヨーロッパの各地でロックの可能性を模索した前衛バンドが出現、世界中で流行した…と、今から考えればとても稀有な現象でした。
しかし、散々栄えたのに滅びてしまった恐竜同様、この時期がなければ現在のポピュラー音楽はなかったと言っても過言ではなく、とりわけ勤勉でマニアックな音楽家の多い日本は大打撃を受けたに違いありません。
そんな発展途上期の1971年に超巨大なプログレッシブ・モニュメント『Tarkus』をリリースし早くもレジェンド候補に躍り出たトリオバンド、Emerson, Lake & Palmer。
メンバーは元The NiceのキーボーディストKeith Emerson、元King CrimsonのベースボーカルGreg Lake、そして元Atomic RoosterのドラマーCarl Palmer。どのバンドも人気を得ていたためにそれらからとりわけ優秀なプレイヤーが集まったEL&Pはその後のスーパーグループの先駆けとも言われています。
年が明け1972年。早くも新作のためレコーディングを行い、6月にリリースされたのが本作『Trilogy』。通算では4枚目となるアルバムでしたが71年の年末にはライブアルバム『Pictures At An Exhibition(展覧会の絵)』をリリースしていたためスタジオアルバムとしては3作目となります。
メンバー
- Keith Emerson – Keyboard
- Greg Lake – Vocal, Bass, Guitar
- Carl Palmer – Drums
楽曲紹介
- The Endless Enigma (Part One)
- Fugue
- The Endless Enigma (Part Two)
- From the Beginning
- The Sheriff
- Hoedown
- Trilogy
- Living Sin
- Abaddon’s Bolero
『Tarkus』で見出した音楽性をよりコンパクトに凝縮させた濃度の高い楽曲が特徴的。
#1「The Endless Enigma (Part One)」は緊張感たっぷりのピアノとパーカッションから代名詞と言えるハモンド・オルガンがテクニカルに飛び出してきます。グレッグのボーカルもかなりメロウに作られていてたった一年で音楽性がより洗練された節をうかがわせます。
#2「Fugue」はキースのピアノ単体となる小曲。「フーガ」そのものはクラシックでよく使われるタイトルですが、もともとジャズやクラシックからの影響が強いキースにはバロックをここで持ってくるというのも理解できますね。
#3「The Endless Enigma (Part Two)」ではパート1と打って変わってリズミカルなピアノとモーグシンセによるマーチングと再びグレッグのボーカルでエンディング。ここまで3曲でまず組曲的な構成であると考えて良さそうです。
イントロから同時期リリースされたYesの「Roundabout」を彷彿とさせる#4「From the Beginning」。アコギサウンドはこのバンドにとってそこまで珍しくはないのですがボサノヴァの雰囲気を纏った上でのギターソロ〜キーボードソロなどセッション的な一面があるというのは新しいです。
カールのドラムロールを導入に構えた#4「The Sheriff」。音こそタルカスのそれながら小気味のいいハモンド・オルガンとポップに歌われるボーカルが特徴的。曲のクロージングでは19世紀の映画のようなコミカルなシーンが差し込まれた遊び心豊かな一曲。勢いそのままに続く#5「Hoedown」はスピード感溢れるハモンドに突き抜けるモーグシンセなどキーボードへのフィーチャーが強いインストナンバー。
タイトルナンバーとなる#7「Trilogy」。アルバムには「三部作」もしくは「三分曲」と邦題がついた上でのこの曲はEL&Pの魅力がたっぷりつまった9分弱の組曲。この曲への意識だけでなくスタジオアルバムとしての三部作を体現したハイライトとなります。序盤は叙情的で美しいピアノとグレッグのヴァースが奏でるバラード。ピアノの独奏から2:47、モーグのソロを含むアグレッシブなインストパート。随所にボーカルが差し込まれますが主張度合いとしては完全にキーボードの脇。ラストはブルージィなキメにより締めています。
再びハモンドが奏で始める#8「Living Sin」。奇怪に喉を揺らすグレッグのボーカルは元King Crimsonであることを強烈に呼び起こさせ、またボーカルに導かれるようにキーボードとドラムもパワフルなものになっています。このように、キースの意向だけでなくバンドのケミストリーが聴けるのもこのアルバムの良さと言えるでしょう。
ラスト#9「Abaddon’s Bolero」はその名にあるようにマーチングドラムと繰り返されるテーマのボリュームを徐々に上げていくまさに「ボレロ」。最後までキースのバックグラウンドが見える一曲ですが前衛的なシンセサウンドに導かれて遠く彼方へ流れていけそうな8分の大作となっています。
次回作となる『Brain Salad Surgery(恐怖の頭脳改革)』の衝撃と『Tarkus』の二番煎じ感に挟まれ若干地味なポジションに甘んじているとも言われる本作。しかしEL&Pの魅力を詰め込みながらポップなアプローチと依然前衛的で繊細な音の構築ぶりが色褪せない名作です。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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懐かしいですね。
かっこいいなぁ・・・(=^・^=)