Karfagen「Echoes from Within Dragon Island」: 一人の作曲者が作るプログレの命題とは。クラシックを土台に据えた東欧シンフォニック・ロック!
by 関口竜太 · 2020-01-09
おはようございます、ギタリストの関口です。
年が明けるとつい昨年内のアルバムは一時期限を失効したようでちょっと寂しい気分にもなるのですが…
個人的に昨年2019年リリースの作品を聴けたのは30作品くらいで、実はマークしていたもののついに年内に聴けなかったというアルバムがいくつかあるので年をまたぎ若干出遅れた感はありますがご紹介していこうと思います。
Echoes from Within Dragon Island / Karfagen
Echoes From Within Dragon Island
Karfagenはウクライナのプログレッシブ・ロックグループ。
豪華なミュージシャンチームで贈るスーパーシンフォニック
Karfagenは1994年、ウクライナの作曲家Antony Kaluginによって設立されます。
名前そのものがグループ名でありながら実のところ発案者のアンソニーのソロプロジェクトとしての意味合いが強く、アルバムの都度多くのミュージシャンを招きレコーディングをすることで知られています。
設立から12年、2006年に1stアルバム『Continium』リリース。Gentle GiantやEloyからの影響を伺わせる独創的で美しい旋律を武器としたシンフォニックプログレとして好評価を得たことで、翌年には2ndアルバム『The Space Between Us』を相次いでリリース。その活動が実って同年にはイギリスCaerllysi Musicとの契約も果たします。
ソロプロジェクトを発展させていく上で不可欠なのが一辺倒になりがちな音楽性に幅を持たせ自身もリスナーと同じように刺激を受け続けることだと思っています。
これにより2011年のアルバム『Lost Symphony』では、キューバのバンドAnima MundiのギタリストRoberto Diazが参加しています。
さらに2013年の『Aleatorica』では、ヴァイオリニストTomek Mucha、管楽器奏者のSergey Klevenskiyが参加。2014年『Magicians Theater』ではイギリスのギタリストMathieu Spaeterが登場。2016年のライブ『Yuletide』ではフランスのベーシスト/スティック奏者Pascal Gutmanが参加するなどその声かけの幅は国内に止まりません。
もちろんゲストミュージシャンはほとんどが一過性のものなので、アルバムごとにまたスカウトをしなくてはなりませんし専属でもない以上コストもかかるかと思うのですが、むしろその新鮮さに比重を置いた作品作りをしていると言えそうですね。
本作『Echoes from Within Dragon Island』は2019年リリース、さらに今年の1月3日には早くも最新アルバム『Birds of Passage』がリリースされているのでそちらはまた別の記事でお目にかかりましょう。
アルバム参加メンバー
- Antony Kalugin – Keyboard, Vocal, Flute, Percussion, Compose & Arrange, Programming & Mixing
その他参加ミュージシャン
- Olha Rostovska – Vocal
- Tim Sobolev – Vocal
- Sergey Obolonkov – Vocal
- Roman Gorielov – Guitar, Vocal
- Olga Vodolazkaya – Guitar, Vocal
- Max Velychko – Guitar
- Sergii Kovalov – Accordion, Vocal
- Georgiy Katunin – Hurdy-gurdy
- Maria Baranovska – Violin
- Alexandr Pastuchov – Bassoon(ファゴット)
- Elena Kushiy – Flute
- Igor Solovey – French Horn
- Tatiana Kurilko – English Horn
- Michail Sidorenko – Sax
- Oleg Prokhorov – Bass
- Viktor Syrotin – Drums
- Kostya Shepelenko – Drums on #5,#7,#8,#12
- Konstantin Kanskiy – Artwork
楽曲紹介
- Dragon Island Suite 1
a. To the Fairy Land Afar
b. Through the Magical Forest
c. Little Thoughtful Creatures - Dragon Island Suite 2
a. Shady Fairies
b. All the Names I Know
c. Picture Story-books
d. Where All the Playthings Come Alive - My Bed is a Boat
- Dragon Island Suite 3
a. Sailor’s Coat
b. Valley of the Kings - Flowing Brooks
- Winter Rooks
- Incantation (Part1)
- Incantation (Part2)
- My Bed is a Boat (Instrumental Version)
- Dragon Island (Single)
- Across the Dark We Steer
- Alight Again (Studio Live 2016)
クラシックを揺るがない土台に置いた、超大作志向の楽曲傾向です。作品を発表し出した時期から20分ほどの大作曲は毎度収録されてきたのですが、近年では特に長い曲を少ないトラックでまとめ上げリスナーの意識が分散しないように工夫している印象。
一応、本編としては前半4曲となり5曲目以降はボーナストラックという扱いです。中でもトータル52分半に及ぶ大作組曲#1,#2,#4「Dragon Island Suite」が本作の聴きどころにしてハイライト。
YesやGenesisといった70年代の温かみあるプログレッシブ・ロックを広く捉え、クラシカルなシンフォサウンドで壮大に聴かせる様はアメリカのThe Psychedelic Ensembleと非常に近縁を感じます。
Part1では様々な楽器を駆使しながら芯の太いドラムとロックビートで聴かせる言ってしまえば王道のシンフォニック・ロック。スリリングな展開がありながらもフルートなど楽器のチョイスによっては緊張を感じさせない明るい雰囲気は、仕立てる制作者の意図を汲み取れて大変に心地いいです。
Part2はマーチング的なノリだったりケルトをルーツに持つフォークな雰囲気だったりと楽曲のコミカルさはそのまま、想像の余地を与えたファンタジックなインストパートが特徴的。5:20〜はボーカルが入るのですがこれは誰の声だろう…The Flower KingsのRoine Stoltを彷彿とさせますね。声質や発音、間に至るまでがロイネのそれです。
間、フルートとアコギによる小曲#3「My Bed Is a Boat」を挟んでの組曲Part3。
穏やかなエレピから始まる総括としてはバラードの体。CamelやFocusといった王道どころからの影響もありつつ、それらを盲目的にコピーしているだけでない実験要素もあるから楽しい。Max Velychkoのギターに若干アジアンテイストを感じるのは僕自身が松本孝弘さんのそういうアプローチを聴いてきたからでしょう。しかし実際後半にはエレクトロなアプローチもあるのでもっとその核心に迫れる人が掘り下げたら繋がるルーツがあるのではないでしょうか。
52分半のうち、曲の半分以上はインストパートに費やされボーカルもある意味楽器として捉えた方が正しい聴き方なのかもしれません。
ボーナストラックは港が似合うアルトサックスが雰囲気抜群の#5「Flowing Brooks」、民族的に聴かせるアコースティックインスト#6「Winter Rooks」、イタリアンプログレのインテレクチュアルさを感じさせる組曲#7,#8「Incantation」、そして本格的な交響曲に手をつけている#11「Across the Dark We Steer」などいずれもバックグラウンドに裏付けされた壮大でボリューミーなアルバムとなっています。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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