CAN「Ege Bamyasi」: ドイツ前衛ロックバンドによる3rdアルバム。流浪の日本人ボーカルダモ鈴木の個性がぶつかるフリースタイル・プログレ!
by 関口竜太 · 2019-12-22
おはようございます、ギタリストの関口です。
しばらくアルバム紹介を行っていなかったのですが、年内に紹介しておきたいアルバムがちらほらあるので年末ムードに押されないようにやっていきます!
Ege Bamyasi / CAN
CAN(カン)はドイツのプログレッシブ・ロックバンド。
プログレの歴史に名を刻んだ日本人ボーカリスト
1968年。Irmin Schmidt、Holger Czukay、Jaki Liebezeit、Michael Karoli、そしてアメリカ人の実験音楽家David Johnsonらによって母体であるThe Inner Spaceが結成されます。
初代ボーカルMalcolm Mooneyが加入する同時期にディヴィッドが脱退。マルコムの意思によりThe CAN(後にCAN)へ改名したバンドは1stアルバム制作に乗り出します。
しかし当時、CANの音楽性をレコードにしたいというレーベルはどこを探してもおらず、その間ひたすらリハーサルを繰り返し出来上がった曲たちで最終的にリリースしたのが自主制作アルバム『Monster Movie』でした。これが1969年。
CANの音楽性はドイツで独自に進化を遂げたプログレの亜種、クラウト・ロックのパイオニアとして有名なのですが、ロックンロールをベースにポスト・パンクやアンビエントミュージック、サイケデリック、ファンク、そして電子音楽を混ぜた当時でもかなり奇抜なミクスチャーでした。
同時にリズミカルかつ破天荒で掴み所のない自由な歌を持ち味としたマルコムのボーカルが話題を呼びますが、活動の最中当の本人が精神病を患ってしまい活動が不可能となってしまいます。
そんな中、ベーシストのホルガーが大騒ぎしたミュンヘンのカフェで、ある日本人旅行者に出会います。それが2代目ボーカルダモ鈴木。ダモさんはマルコムに比べればおとなしく堅実なボーカルだったと言えますが、破天荒ぶりでいえばマルコムクラス。声をかけたきっかけはその時ダモさんがギターを持っていたという理由なのですがなんとその日の夜には新ボーカルとしてステージに上がっていました。
新ボーカルを迎えリリースされた1971年作『Tago Mago』はレコードの当時で2枚組となる73分もの大作で、長編ながら無駄がなくその後の現代音楽シーンに多大な影響を与えたとリリース後も評価を得続けるスマッシュヒット作となります。
そして黄金期を迎えることとなるCANが次なる手札を切ったのが3rdアルバムとなる本作『Ege Bamyasi』です。
アルバム参加メンバー
- Irmin Schmidt(イルミン・シュミット) – Keyboard
- Holger Czukay(ホルガー・シューカイ) – Bass
- Jaki Liebezeit(ヤキ・リーベツァイト) – Drums
- Michael Karoli(ミヒャエル・カローリ) – Guitar
- Damo Suzuki(ダモ鈴木) – Vocal
楽曲紹介
- Pinch
- Sing Swan Song
- One More Night
- Vitamin C
- Soup
- I’m So Green
- Spoon
アルバムタイトルは直訳すると「エーゲ海のオクラ」。バンド名とアルバム名が同時にデザインされたオクラの缶詰が非常にポップで印象的です。
ファンキッシュなドラムとパーカッションで幕を開ける#1「Pinch」。基本はマルコム在籍時のようなセッション型トラックにボーカルが乗っていくというスタイルで、ダモさんのボーカルはボーカルと言うよりボソボソ喋ると言った方が正しいですが、ある意味でバンドに馴染む味のある歌声です。歌詞は英語で歌われていますが相槌として登場する「ああ」とか「ええ」というのは日本独自の方言と言えるでしょう。
#2「Sing Swan Song」はキャッチーな歌メロに缶の揺れた反響音がパーカッシブに使われた一曲。シンセで鳴らされる裏メロは日本の雅楽からヒントを得ているような気がしますね。
軽快なピアノとメランコリックさが絶妙な雰囲気を産む#3「One More Night」。堅実に刻み続けるリズム隊を他所にギターとキーボードが好き勝手オブリやフィルを入れまくる、これもセッションの風味が強い一曲。とにかく小声で聞き取りにくいボーカルも意図的なものなので、ある種アンビエントなインスト曲としての解釈もできそうです。
ファンキーに抜けてくるリズム隊とダモさんの色気あるボーカルが本領発揮を見せる#4「Vitamin C」。明確にAメロとサビを区別できる曲として非常にキャッチーでサビも耳にこびりつく中毒性。3:32〜はシュミットによるキーボードソロも存在しかなり外側に向けた一曲であることが伺えます。
なお、荒木飛呂彦先生の漫画「ジョジョリオン」で敵として登場する田最環(だも・たまき)というキャラは通称ダモカンと呼ばれ、CANとダモ鈴木さんがネーミングのモチーフ。触れたものを柔らかく溶かしてしまうスタンド能力「ビタミンC」はもちろんこの曲から。
話は脱線しましたが続きまして#5「Soup」。#4から繋がる形で電子音から導入していく10分を超える大作ナンバー。芯のある重たいビートにラップとも取れそうなボーカル、轟音のような電子SEによるただならぬ雰囲気のインターバル、叫ぶダモさんに反応する形でバンドが短いブレイクをバラバラにくり返す非常にカオスな曲展開。セッションによるフリースタイルだけでない、前衛音楽バンドCANとしての実力を感じることができる一曲です。
#6「I’m So Green」は、ポップな前半とコンプの効かないボリューム感でスピーディーに展開する2:23〜のベースリフが特徴。リズミカルなトラックにカローリのきらびやかなアルペジオも印象的なナンバー。
ラストとなる#7「Spoon」はアルバムに際し先行シングルとしてリリースされ、ドイツのチャートで6位に入るヒットソング。ボサノヴァ的なリズムの提示とやはり雅楽寄りなアジアンテイストのキーボード、多重コーラスで広がりを与えられた楽曲はCANの歴史を代表する一曲となります。
シングルのヒットも後押ししてアルバムはドイツチャートTOP10入りという記録を残し、アメリカのオンラインマガジンPichfork Mediaによる「1970年代のアルバムトップ100」においても19位という高評価を記録。CANという前衛バンドのをより前進させる糧となった傑作です!
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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