Mr.Children「Q」: ミスチルはサイケデリック・ロックか?深海からの脱出をテーマにした実験的9thアルバム。

おはようございます、ギタリストの関口です。

Yesが未発表曲を集めたミニアルバム『From A Page』をリリースしたり、King Crimsonがデビュー50周年を迎えたり、Pink FloydのDavid Gilmourのギターがオークションで4億3000万円での落札されるなど五大プログレバンドの息遣いも聞こえてきた2019年。

しかしPink Floyd自体はKiss同様すでに引退期を迎えているわけでオークションもそれを裏付けているのかと思うと寂しさも一入です。

そんな中、Pink Floydに準じたRPWLやThe Claypool Lennon Deliriumなどのバンドが2019年に新作をリリースしたことも追い風で今年はサイケデリック・ロックをよく聴いたなぁという印象でした。

さて、話は変わりまして。

最近僕の中でMr.Childrenはサイケデリック・ロックなんじゃないかと思っていて、もちろんポップス、ロックとして日本を代表する自慢のバンドなのですが長らくプログレだと言い張っている1996年のアルバム『深海』と海外のプログレッシブ・ロックを交互に聴く生活を今年も送ってきました。

その中でこのミスチルという国内産トップバンドに対し『深海』に限らずどのアルバムも意外とサイケ色が強いのではないかという考えに至ったのです。

厳密に言うと1994年『Atomic Heart』〜2000年『Q』辺りまでですね。超売れっ子時代から肉と骨のベストアルバムまで、少なからずの影響があったと思います。

というわけで今日はMr.Children、こちらのアルバムをご紹介します。

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Q / Mr.Children


Q

Mr.Childrenは日本のロックバンド。

メンバー


  • 桜井和寿 – Vocal, Guitar
  • 田原健一 – Guitar
  • 中川敬輔 – Bass
  • 鈴木英哉 – Drums

その他参加ミュージシャン

  • 小林武史 – Keyboard
  • 吉田誠 – Programming
  • 谷口和弘 – Programming
  • Catherine Russell  – Chorus on #12
  • Ada Dyer – Chorus on #12
  • Sandra Park – Strings on #2,3,6,13

楽曲紹介


  1. Center Of Universe
  2. その向こうへ行こう
  3. NOT FOUND
  4. スロースターター
  5. Surrender
  6. つよがり
  7. 十二月のセントラルパークブルース
  8. 友とコーヒーと嘘と胃袋
  9. ロードムービー
  10. Everything Is Made From A Dream
  11. 口笛
  12. Hallelujah
  13. 安らげる場所

本作のテーマはズバリ「深海からの脱出」。先述したJ-ProgRockアルバム『深海』におけるバックグラウンドではボーカル桜井和寿の私生活での闇が赤裸々に歌われ、飛び抜けたセールスの裏で仮面を付けて泣いているような楽曲が並んでいました。

翌97年にはバンドの活動休止も発表されるなどこの4,5年はバンドにとって長く暗いトンネルに感じられたでしょう。そこを払拭すべくセッション的観点から作られた本作は「脱出」をテーマに宇宙服を来た桜井さんのジャケットが印象強く、このシュールな絵面だけでなかなかプログレっぽいです。

#1「Center Of Universe」は暗い雰囲気から一つ吹っ切れたように歌われるスピードナンバー。歌詞は相変わらず政治や芸能界といった風刺を効かせた内容ですが、その上でめまぐるしいこの世の中心は自分だと盛大に皮肉ったオープニング。序盤のスローテンポでのヴァースで流れるキーボードやクランチギターなどベースはサイケ。テンポチェンジする際も宇宙的な加速を感じさせるシンセサウンドを取り入れたり、そのテンポをダーツの得点で決めたりなど実験的にも非常に面白い一曲です。

SEからフェイザーギターのヴァースが印象的な#2「その向こうへ行こう」。ぬるっとしたコーラスワークやストリングスは90年代のネオプログレ的な様相もありますがメンバーがそこを聴いていたかは謎。小林武史さんならあるいはといった具合でしょうか。歌詞は漫画「バカボンド」をテーマとしていて困難にぶつかった先にあるものを陰鬱な空気と共に歌っています。「ちぢみ上がった魂 ひなびたベイビーサラミ もう一度フランクフルトへ」という韻を踏みながら二つの意味でもう一度タチ上がる表現をした天才的なフレーズも。

シングル曲となった#3「NOT FOUND」桜井さんが「この曲のために活動して来た」と言ったばかりに当時のマスコミが「桜井、この曲が最高傑作」と報じてしまった曰くを持つ一曲。3連シャッフル(6/8という解釈も)の曲自体結構珍しいのですが当時インターネットの普及で急速に浸透していった「404 Not Found」という単語から激しさの中で自戒するロックバラード。ストリングスも曲を大いに盛り上げています。

スローテンポのハードロックナンバー#4「スロースターター」。#2と比べボーカルにかかるリヴァーブの量が深めなのに#2よりストレートに聴こえる不思議な楽曲。田原さんのギターもワウを使ったソロやボリューム奏法など効果的なものが多いです。

チェロ、ピアノ、アコギのトリオに口笛でリードを取ったイントロが印象的な#5「Surrender」恋の終わりを語るのにコーヒーの火傷から入るセンスが飛び抜けています。「分厚い積乱雲」や「イリュージョン」、「路上の塵」など多彩な失恋の表現をしてくれます。サビによる韻もお手の物。

#6「つよがり」は同じバラードも純愛を歌った中期の名曲。ストリングスを演奏したSandra Parkはニューヨーク・フィルハーモニック・オーケストラという19世紀半ば続く交響楽団の超名門で演奏するヴァイオリニスト。

#7「十二月のセントラルパークブルース」。タイトルにもあるようにニューヨークでの孤独な旅を陽気に歌ったブルージィな一曲。流浪なボーカルやジャズピアノなどがブルージィというだけで曲の進行は特にブルースというわけではありません。しかし4小節のコード進行からなるヴァースで歌われるAメロは洋楽っぽくはありますね。

もう一つ問題作とされている#8「友とコーヒーと嘘と胃袋」。歪んだループドラムにメロトロンの古臭いサウンド、ベースの独特なリフとイントロだけでも面白い要素盛りだくさんです。歌詞はタイトルのままテーマとなる4つのストーリーを歌っていますが、最終的にこれらの懸案事項すべてを飲み込んで生きていこうという内容。

ミスチルらしいベルなどが使用されたポップナンバー#9「ロードムービー」。バイクを二人乗りし朝日でも見に行こうとする男女の歌ですが「500Rのゆるいカーブ」や「等間隔で置かれた」などバイクが高速道路を疾走する描写が妙にリアルで表現としても非常に豊か。個人的にはアルバムで一番好きな一曲です。

#10「Everything Is Made From A Dream」は夢という一見輝かしいものに一石を投じた桜井流皮肉ソングの一つ。ストリングスによる壮大さとマーチングドラムによる行進曲風のアレンジが特徴的。今見ている夢は誰かの夢を踏みにじったり、科学者の夢は結果多くの人命を奪ったりと、夢について歌うことの多いミスチルだからこそ踏み込めた深いテーマだと思います。

アルバムが発売される年明けにリリースされたシングル#11「口笛」。これぞミスチルを体現したシンプルかつ明瞭なラブソング。バッキングにはハモンドオルガンが使われ懐かしさを含む演出がされている点がニクい。

ユニヴァイブを使ったギターフレーズで怪しげに引き込んでる#12「Hallejujah」バッキングのアルペジオでも空間系エフェクトの使用率が全体的に高く、やっぱりフロイドの影響強いよねというのが率直な感想。後半のゴスペルコーラスはアメリカのジャズシンガーCatherine RussellとソウルシンガーAda Dyer

ラストソング#13「安らげる場所」はピアノとストリングスによる静寂のバラード。「孤独とゆう暗い海」という、『深海』を想起させる歌詞が出てくる本作のテーマに沿った一面をここで見せて来ます。小林さんのピアノも#6風ながら「手紙」をなんとなく思い起こさせるタッチですね。

個人的に、ミスチルの深海脱出は『IT’S A WONDERFUL WORLD』なのですがこの『Q』が深海にいる最後のアルバムと考えていいと思います。セールス面では浜崎あゆみに1位を取られたりミリオンまで届かなかったりとマイナー寄りではありますが、非常に焙煎の深い良いアルバムです!

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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