District 97「Screens」: 現代的アンセミックプログレの注目株。より磨きをかけた2019年最新作を体感せよ!
by 関口竜太 · 2019-12-02
おはようございます、ギタリストの関口です。
いよいよ12月に入りまして、朝も冷え込みますがいかがお過ごしでしょうか。このラスト一ヶ月が最も忙しく濃厚ながら早い一ヶ月になると思いますが風邪など引かれませんようお勤めください。
今年もあと一ヶ月なので2019年リリースながらご紹介できていないアルバムを紹介していきます。
Screens / District 97
District 97(ディストリクト・ナインティーセブン)は、アメリカのプログレッシブ・ロック/メタルバンド。
常に飛躍を続けるアメリカンゴシックプログレ
アメリカで2006年に結成されたDistrict 97は初めはLiquid Tension Experimentのようなプログレッシブ・メタルインストを披露するライブバンドでした。
バンドは新たな方向性を見出すために、当時アメリカのスター発掘番組「アメリカンアイドル」第6シーズンで準決勝まで勝ち進んだLeslie Huntをスカウトしボーカルへ招き入れます。
アクセシブルなプログレッシブ・ロックへと方向転換した時点でテクニカルギターを武器としていた創設者の一人Sam Krahnが脱退、後任にJim Tashjianが加入します。
思惑通りレスリーの透き通ったボーカルで話題を集めたDistrict 97は2010年に1stアルバム「Hybrid Child」をリリース。オールドすぎずメタルすぎず、レスリーの清涼感を活かしながら28分の大作も展開するモダンなプログレスタイル作品となりました。
続く2ndアルバム「Trouble with Machines」は2012年リリース。UKプログレのレジェンドJohn Wettonをゲストに迎え浮遊感あるアンビエントに、同じくゲストであるKatinka Klejinのチェロとのテクニカルな絡みを披露。ウェットンも晩期とは思えないほどのパフォーマンスを魅せています。
2015年には3rdアルバム「In Vaults」を発表。ゲストに頼らないバンド本来の持ち味を活かしたゴシックテイストな作品へ仕上がり、変拍子などの基本的な部分はそのままにダークでフォーク、カオスさを一層増したロッカー向けの一枚となっています。
このアルバムをリリース後にベースのPatrick Mulcahy、キーボードのRob Clearfieldが脱退、二人とも結成からバンドを支えて来たメンバーでした。バンドは新たにTim SeisserとAndrew Lawrenceを迎え勢力的なライブ活動を再開。その過程ではアメリカで行われる世界最大級のプログレッシブ・ロックフェス「Cruise To The Edge」への出演など飛躍的な1ページもありました。
5人は2018年にバンド10周年記念の北米ツアーを終えるとニューアルバム制作へ着手。そして前作から4年のスパンを経てリリースされたのが本作「Screens」となります。
アルバム参加メンバー
- Leslie Hunt – Vocal
- Andrew Lawrence – Keyboard, Guitar
- Jim Tashjian – Guitar, Vocal
- Tim Seisser – Bass
- Jonathan Schang – Drums, Percussion
楽曲紹介
- Forest Fire (4:58)
- Sheep (6:41)
- Sea I Provide (2:51)
- Bread & Yarn (7:33)
- Trigger (4:42)
- After Orbit Mission (1:32)
- Shapeshifter (5:46)
- Blueprint (4:14)
- Ghost Girl (10:51)
#1「Forest Fire」の不規則なシンコペーションドラムから幕を開けるオープニング。その不規則さはイントロのギターリフでも引き継がれ3rdアルバムの延長線上を思わせます。いわばKing Crimson的であり後期Rush的でもあるねじれた時間と空間を体感することができます。
続く#2「Sheep」では新キーボーディストアンドリューのピアノをフィーチャーしながらヘヴィに刻むギターとの対比、怪しげでシームレスなリズムのボーカルパートが浮遊感たっぷりに繰り広げられます。
比較的ストレートなギターロックに仕上がった#3「Sea I Provide」。キャッチーなリフで押し切る短い曲ですが、バンドが潜在的に持つテクニカルなアプローチがシンプルさの中からも感じ取れます。
#4「Bread & Yarn」はギタリストJim Tashjianとのデュエットとなった一曲で、ただハモり合うだけではなくコール&レスポンスなども行う2ボーカル曲としての絡みを楽しむことができます。
続く#5「Trigger」も女性ボーカルならではの明るさですがその本質はKing Crimson。ゴシックな雰囲気に不穏感を煽るコーラスやキメの細かいギターリフが光ります。
シンセサイザーによるSEちっくな小曲#6「After Orbit Mission」があり、新ベーシストTim Seisser主導の変速リフが印象深い#7「Shapeshifter」へ。歌の方はムーディーで3rdアルバムからの数年で勝ち得た多彩な表現力はもはやアイドル発掘番組出身という肩書きを感じさせません。メロウで流れるような美しいシンセソロも本作の聴きどころ。
#8「Blueprin」はスローバラードから変拍子を混ぜたタイトでソウルフルなパートへ変貌する二面性の強い楽曲。リフレインは行われず基本的に一方通行となる実験的楽曲です。
#9「Ghost Girl」は10分を超える唯一の大作としてラストに鎮座。これまでのゴシックさ、テクニカルさとボーカルの表現力を生かしながらソフトな表情とハードな表情を入れ替える、ファンタジーな楽曲構成は健在です。
アルバム全体を通して見ると2ndまでの王道路線から3rdアルバムでバンド本位のサウンドへ変化した印象ですが、本作はそこからさらに発展し物語を感じるシアトリカルな構築美を提示しています。また楽曲は新メンバーを引き立たせるアレンジでソングライティングにも進化が現れたと言ってもいいです。
今や当初の方向性であったLTEのドラマーMike Portnoyからも賞賛されるほどの実績を得たDistrict 97最新作。間違いなく2019年のベストアルバムへ食い込んでくる作品でしょう。
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タグ: プログレッシブ・メタル米プログレDistrict 97
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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