TOOL「10,000 Days」: 人が変われる「1万」の法則。
by 関口竜太 · 2019-11-29
おはようございます、ギタリストの関口です。
来年で結成30年を迎えるTOOLですが、超寡黙主義の彼らが5thアルバムとなる「Fear Inoculum」をリリースしたことは2019年の一大ニュースでもあります。
なにせ13年ぶりのアルバムリリースでしたので、それまでの「およそ5年周期」を見越して「もう新作はリリースされないのでは?」と予想した人も少なくないはずです。
聞くところによると来年、来日公演も行われそうということで注目が集まっていますが、今日はなぜリリースまでそんなに時間がかかったのか、そこに迫りたいと思います!
10,000 Days / TOOL
TOOL(トゥール)は、アメリカのオルタナティブ/プログレッシブ・メタルバンド。
土星になぞらえたバンドの周期
今日ご紹介する「10,000 Days」は最新作の一つ前となる4thアルバム。リリースは2006年。
5年前の前作「Lateralus」同様に本作がリリースされる前にはファンたちの間でリークされた最新曲が出回りそれらが嘘情報、すなわち偽りの新曲だということで騙されただの騙されてないだの論争を繰り広げるのがおなじみの展開みたいです。
タイトルの「10000日」というのはおおよそ土星の公転周期のことで厳密に言うと10759〜10779日となるのですが、年数にして実に29年の歳月を費やし土星は公転します。
ボーカリストのMaynard James Keenanによればこの29年(10000日なら27年)という歳月は、「人が持つ古いパターンから解放され知識や経験を持って一皮剥けるまでの年月」としており非常に哲学的な持論を展開しています。
しかし、この作品から最新作「Fear Inoculum」まで13年を費やしているのが不自然で「Fear Inoculum」のリリース日が2019年8月30日、TOOLの結成が1990年。厳密な結成日はわかりませんが仮に1月1日としてみても数えで10,834日となり公転周期に非常に近くなります。

日数計算ツールによる算出。
つまり最新作がキーナンが言うところの「一皮剥けた」TOOLであり、それを示唆したのが本作「10,000 Days」という見方ができるわけです。また「Fear Inoculum」はそれまでのTOOLと比べ楽曲の構成や曲調も異質という点もあり、こう考えるとそれまでの5年ごとのリリースから一転13年も時間を費やした理由も納得です。
そんな未来を説いた「10,000 Days」、楽曲を見ていきましょう!
アルバム参加メンバー
- Danny Carey – Drums, Synthesizer
- Justin Chancellor – Bass
- Adam Jones – Guitar
- Maynard James Keenan – Vocal
ゲストミュージシャン
- Lustmord – #4
- Bill McConnell – Vocal on #6
- Pete Riedling – Voice on #7(ドクター役)
- Camella Grace – Voice on #7(ナース役)
楽曲紹介
- Vicarious
- Jambi
- Wing for Marie, Pt.1
- 10,000 Days (Wing, Pt.2)
- The Pot
- Lipan Conjuring
- Lost Keys (Blame Hofmann)
- Rosetta Stoned
- Intension
- Right in Two
- Viginti Tres
本作に向けてリリースされた先行シングルは#1「Vicarious」、#2「Jambi」、そして#5「The Pot」の3曲。
これらはいずれもシングルチャートでトップ10にインしており全世界で250万枚を売り上げた本セールスに大きく貢献しています。
そんな#1「Vicarious」はクランチ気味のギターアルペジオからヘヴィなリフへ展開していくメタルナンバー。オルタナティブは曲調はTOOLたるものですが歌パートでも変拍子がバンバン登場します。ブレイク気味に重く刻むリフとトレモロピッキングによるギターソロなど聞き応えがあります。
#1のアウトロで16分のきめ細かいエンドを引き継いだような#2「Jambi」は16分3連を混ぜたトリッキーなギターリフが特徴。1:02〜から聴けるロータリーサウンドのギターはDavid Gilmourを彷彿とさせます。4:09〜からはこのサウンドでギターソロも展開しており、キーナンの旧友であるTom Morelloからの影響も感じさせます。
#3「Wing for Marie, Pt.1」と#4「10,000 Days (Wing, Pt.2)」はまるでシンセサイザーを使ったかのようなアンビエントでバンド4人によってゴシックで静寂な組曲を展開しています。Porcupine TreeやPink Floydのようでもありますが、何より最新作「Fear Inoculum」の方向性をここで示唆している風に思います。
#5「The Pot」はシングルとしてこの重たい雰囲気を吹き飛ばす痛快メタルナンバー。冒頭から圧倒的表現力で歌い上げるキーナンとヘヴィな楽器陣、とりわけフィーチャーされたベースを中心としたメロディックな一曲となっています。
ゲストのBill McConnellがフリー気味に歌った小曲#6「Lipan Conjuring」、ドクターとナースの会話を使った実質アンビエントインスト#7「Lost Keys (Blame Hofmann)」から続く形で#8「Rosetta Stoned」に差し掛かります。フィードバックを起こすほど粘り強い歪みのギターが暴れる11分の大作で、SlipKnot的なニューメタルの風が感じられます。
#9「Intension」は再びフロイドライクなアンビエントを纏ったバラード曲。#10「Right in Two」はその流れを継いで前半は繊細なアルペジオの上歌い上げるスローソングですが、後半は民族的なパーカッションからスイッチしてアグレッシブなメタルへ変貌しています。
ラストとなる#11「Viginti Tres」…なのですが前作「Lateralus」収録の「Faaip De Oiad」と同様、5分間ノイズのみとなった締めとなっています。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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