CAN「Monster Movie」: ドイツの独は独自の独。土着的な実験によって生まれたダモ鈴木加入前の1stアルバム!
by 関口竜太 · 2019-11-24
おはようございます、ギタリストの関口です。
年末が近づいてくると徐々に消費するお酒の量が増えてきますが、普段はほとんどと言っていいくらい飲まないので勢いでガブガブ飲んでしまうと二日酔いとまでいかなくても一日がスロースタートになってしまいます。反省。
そんな「おそ朝」ですが本日はこちらをご紹介。
Monster Movie / CAN
CAN(カン)はドイツのロックバンド。
独自の進化を遂げたドイツプログレ
1960年代後半から70年代にかけめざましく進化したロックミュージックですが、多くの人が真っ先に連想するのがThe Beatles。偉大なるロックの父はその後の音楽の発展となる種を世界中にばら撒きました。
70年以降YesやKing Crimsonといったプログレッシブ・ロック、Sex PistolsやThe Clashといったパンクやニューエイジなどなど、音楽が生まれる時その認識のほとんどはイギリスに占拠されている印象を受けます。
しかし、日本がそうだったように同じヨーロッパ圏内でも独自に進化を遂げる音楽というのは存在して本日ご紹介するドイツのCANはまさにその中の代表格。
1968年。Irmin Schmidt、Holger Czukay、Jaki Liebezeit、Michael Karoli、そしてアメリカ人の実験音楽家David Johnsonらによって結成された「The Inner Space」がCANの母体。
かたやアカデミックな音楽教育を履修し早くから現代音楽家として注目され、かたや電子機器のエンジニアをしながらジャズバンドでプレイするなどメンバーの来歴はそれぞれですがいずれも音楽を通じて知り合います。
そして雅楽やアフリカ音楽など民俗音楽やソウルなどのブラックミュージックに関心が高い点で意気投合。それでも敢えてロックに落とし込む実験精神の高さはさすがドイツといったところでしょうか。
デイヴィッドに関しては結成から早々に離脱してしまうのですが同時期に初代ボーカルMalcolm Mooneyが加入。後にCANの代名詞、日本人ボーカリストダモ鈴木が加入する1stアルバムリリースまでのバンドでフロントマンを務めることとなります。
そんな1stアルバムとなる本作「Monster Movie」は自主レーベルから500枚限定で生産、2週間で完売する偉業を達成。その後米リバティー・レコード(現在はキャピトル・レコードに買収)が原盤を買い取ったことで本格的に流通し出します。
アルバム参加メンバー
- Malcolm Mooneyマルコム・ムーニー – ボーカル
- Irmin Schmidtイルミン・シュミット – キーボード
- Holger Czukayホルガー・シューカイ – ベース
- Jaki Liebezeitヤキ・リーベツァイト – ドラムス
- Michael Karoliミヒャエル・カローリ – ギター
楽曲紹介
- Father Cannot Yell 7:06
- Mary, Mary So Contrary 6:21
- Outside My Door 4:11
- Yoo Doo Right 20:27
1969年というとイギリスではKing Crimsonの「The Court Of The Crimson King」が何よりのプログレ史なのですが、時を同じくしてドイツでもここまでのプログレが開発されていた奇妙な事実。当然インターネットもないし雑誌伝いでも情報が他の国に伝わるには相応の時間を要するわけで、何らかの見えざる神の手があったとしか思えませんね。
#1「Father Cannot Yell」は電子音楽らしいパルスとサーフロック的なベース、そしてまだアンプが発展途上にあるナチュラルな歪みのギターが特徴的なオープニングナンバー。マルコムがバンドに加入して初めてのセッションで録音したという楽曲で、好き勝手とした演奏やマルコムのスキャットが約7分間続きます。誰かが展開を変えれば周りがそれに付いていく非常にライブ感の強い音の実験室は楽曲というよりは本当にセッションなのでしょう。なお、この曲のエンジニアには脱退したデイヴィッドが携わっています。
対して#2「Mary, Mary So Contrary」はしっかり歌モノをしているスローテンポの曲。一曲目であれを聴かされるとこっちの方が無理をしているんじゃないかと錯覚を起こしそうになりますが、自由なマルコムのボーカルとそれを許容する演奏は土着的で非常に生々しいです。
#3「Outside My Door」はYesや後のRushなどにも影響がありそうな、力技でビートダウンなギターリフが特徴的。ロックなギターリフにハーモニカという珍しい組み合わせは後に加入するダモさんが日本人で…そこではフォークソングにハーモニカを使ってて…という奇妙な繋がりが見えそうですがおそらく関係はないです。ミヒャエルのブルージーなギターソロも特筆。
ラストとなる#4「Yoo Doo Right」は12時間、2セットに及ぶセッションから抜粋した実験的楽曲で、この時代すでに20分超えの大作となりました。ひたすらアフロビートによるタム回しが続くドラムのヴァースや、リフとバックメロディを兼ねたベースなど各楽器陣の特徴が現れCANの代表作としても名高い一曲。
実験的とは言いましたが時代背景からアナログでかなり聴きやすい部類なのでクラウト・ロック入門編としてもオススメできます。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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