GLAY「NO DEMOCRACY」: 言葉で時代を紡いだ25年。平成を駆け抜けたバンドが送る最新作!
by 関口竜太 · 2019-11-21
おはようございます、ギタリストの関口です。
昨日は木枯らし一号だったのか北風が吹きすさぶ寒い一日でしたね。二の酉だったので熊手を買いに台東区の鷲神社まで行ったりと冬らしくすごしました。
冬といえば僕の中ではGLAYなのですが、今年デビュー25周年のアニバーサリーということで先日リリースされた最新アルバムをご紹介していこうと思います。
NO DEMOCRACY / GLAY
NO DEMOCRACY[CD+2DVD盤](メーカー特典なし)
GLAYは日本のロックバンド。
メンバー
- TERU – Vocal
- TAKURO – Guitar, Vocal
- HISASHI – Guitar, Vocal
- JIRO – Bass, Vocal
言葉と作り上げてきた25年
GLAYに対するイメージ像は概ね2種類に分けられます。
一つはロックバンドとして、ハードな演奏や音像に沿ったゴシック的内容の楽曲。もう一つは人との関わりを重要視し、家族や故郷や友人など切り離せないものをテーマに歌った楽曲。特に後者に関してはGLAYが最もリスナーにイメージさせる特徴で、ヴィジュアル系文化が日本で巻き起こる90年代においてもGLAYはその形を大きくは変えずに現在まできました。
その泥臭さゆえデビュー前は「音楽性と歌詞がマッチしていない」と批判を受けそれが北海道から東京にやってきた4人(とりわけソングライターであるTAKURO)の心をえぐったことは想像に難くないのですが、1998年GLAYが日本のトップバンドに上り詰める頃の楽曲「pure soul」では「手垢がついた言葉」という歌詞で自らを最大限肯定しています。
ド派手なメイクやロン毛から徐々にカジュアルかつホストのようなスーツ姿のバンドスタイルを提示していったことで音楽性ともバランスが取れ、2000年以降のヴィジュアル系氷河期でも潰されることなく幅広いビジネスを展開できたのだと個人的に推察しています。
ゴシックなバンド像と優しいバンド像の二面性という点では、2019年8月のデビュー25周年を記念した2DAYS公演で、それぞれ「良いGLAY」「悪いGLAY」というコンセプトを掲げ、初日には往年のシングル曲やベストアルバムを思わせるパブリックなセットリストが組まれる一方、二日目の「悪い」では99年「HEAVY GAUGE」のアッパーチューン「FATSOUNDS」が3回連続で演奏されるなど今日も自分たちの音楽とファンへのサービス精神に余念がありません。
本作「NO DEMOCRACY」はそんなGLAYの「言葉を大事にしたアルバム」というテーマで制作されたデビュー25周年作。きっかけとなったのは前作「SUMMERDELICS」でJIROが担当した「lifetime」だと言われています。いつもならJIROの楽曲は詞をTAKUROに回すことが多いのですがJIROの詞に浮かぶメッセージ性をTAKUROが気に入ったという意図がインタビューで述べられています。
先述の「pure soul」では「I’m in love」で歌われる家族愛という最大のラブソングが収録され、ここでは「昭和という時代に僕らを抱えて走った」というフレーズが出てくるのですが、この「時代」が「平成」へと切り替わるのは2014年リリースの「MUSIC LIFE」における「百花繚乱」だと思っています。
「東京五輪」という言葉が時代背景を写した珍しく風刺の効いた曲でしたが、昭和に生まれ平成を駆け抜けこの先何があるのか、その入り口をGLAYが最も得意としている「言葉」で切り込んでいったのが本作となります。
楽曲紹介
- REIWADEMOCRACY
- 反省ノ色ナシ
- My name is DATURA
- Flower Gone
- 氷の翼
- 誰もが特別だったあの頃
- あゝ、無常
- 戦禍の子
- JUST FINE
- はじまりのうた
- あなたといきてゆく
- COLORS
- 愁いのPrisoner
- 元号
2019年バンドのテーマでもあった「デモクラシー」という言葉。多くの人が強烈に連想するのはおよそ100年前の「大正デモクラシー」だと思います。これまで二つの時代を歌ってきたGLAYにとって新たに大正と新時代令和を結んだ言葉としてファンと作るデモクラシー(民主主義)は意味を持つ単語でした。
一方で、25周年という内輪のイベントに浮かれる裏で未だ戦争や宗教問題は解決しておらずそれは言葉だけは一丁前な民主主義とは相反するもので、言葉に嘘を付けない本作でのタイトルが「NO DEMOCRACY」に行き着くことなります。
#1「REIWADEMOCRACY」はアコースティックギターと管楽器によるインストの小曲ですが、このパイプサウンドは2002年「UNITY ROOTS & FAMILY, AWAY」から「彼らのHOLY X’MAS」を彷彿とさせます。「彼らの〜」がまさにアメリカ同時多発テロを背景とした尊い平和への願いとなっているのでこれと「現在」がリンクした人は多いのではないでしょうか。
そこから続く#2「反省ノ色ナシ」はストリングスで彩るマーチングポップながら風刺も効いたJIRO作の楽曲。こちらでも「平成」という単語が強調して使われています。
#3「My name is DATURA」はHISASHI担当のロックナンバーでJanne Da ArcなどのカジュアルなV系スタイルの一曲。中盤では6/8によるジャズ進行もありアルバムの中でもとりわけプログレッシブです。
#4「Flowes Gone」はデビュー前のデモテープから再録した超初期の楽曲。ハードなリフとメンバーによるシンガロンは時代の移り変わりの中で生まれた境遇がアルバムと一致するためか、GLAYというバンドの根本が変わっていないからか新曲でも十分通用する出来です。
#5「氷の翼」はバラードマスターGLAYによる新たな名曲の一つ。系統としては「僕たちの勝敗」「SORRY LOVE」などここ10年のバラードの形ですが、そこからさらにTAKUROがB’z松本孝弘との交流やソロアルバムを経て得たアダルトなコード進行やギターのアプローチを聴くことができます。
多感にアヴァンギャルドだった前作「SUMMERDELICS」と比べかなり王道なGLAYが楽しめる本作。ここからは怒涛のTAKUROパレードとなります。#6「誰もが特別だった頃」は「STREET LIFE」などにある自分を見つめる楽曲ですが私生活で家族が増えたことによる血の通った温かみがあります。
#7「あゝ、無常」はデビュー当時の冴えない自分を歌ったような憂いですが日本特有のビートロックで明るく笑い飛ばしています。続く#8「戦禍の子」はこちらもメロディやTERUのボーカルは明るいものの世界での弱者を歌った風刺曲。
セブンイレブンでのタイアップとして記憶に新しいシングル曲#9「JUST FINE」と#13「愁いのPrisoner」は、王道なGLAYソングとなっており青空が似合う痛快のロックナンバー。それぞれ曲数が多めな本作でのハイライトです。
#10「はじまりのうた」や#12「COLORS」はTERUの作詞作曲。TERUが作った曲というと「Little Love Birds」や「週末のbaby talk」くらいしか知らないという人は是非近年のリリース作からチェックして欲しいです。TAKUROに引けを取らないど真ん中を貫いています。
また#10は2014年以来付き合いのあるアニメ「ダイヤのA」の主題歌でもあり。#11「あなたといきてゆく」はこちらもドラマのタイアップでGLAY流の新たなウェディングソングでどちらも門出を祝福したハッピーソング。一時は控えめだったタイアップに恵まれているのも本作の特徴です。
そしてラストナンバー#14「元号」。決して悲観はしない事実だけを見つめ、自分たちだけで完結しない本作のテーマを強烈に具現化した一曲。流しのようなフォークソングスタイルも最近は多く見受けられますが、ラスト聴き終わりからリピートで「REIWADEMOCRACY」が流れたときそこに何か意味があるように感じました。
トータルコンセプトアルバムとするには若干半熟かもしれませんがGLAYという日本のロックバンドで久々にもう一周聴きたいと思える作品に出会えたと思います。
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タグ: GLAY
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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