The Flower Kings「Waiting For Miracles」: 北欧ネオプログレの大ベテラン6年ぶりの最新作!「バンド」という概念を超えることは可能かというお話。
by 関口竜太 · 2019-11-16
おはようございます、ギタリストの関口です。
来年の頭に凱旋公演が決まっているThe Flower Kingsのチケット先行抽選に応募しました!
川崎CLUB CITTA’のため席にグレードはないもののどこでも一律1万2000円。海外アーティストのコンサート価格が年々高騰している現実、確かどこかでその理由を読んだ気がしますが、それはひとまず置いといて本日はリリースされたばかりの新譜をご紹介していきます!
Waiting For Miracles / The Flower Kings
The Flower Kings(ザ・フラワー・キングス)はスウェーデンのプログレッシブ・ロックバンド。
バンドを超えたプラットフォームへの未来
プログレッシブ・ロックが何か怪物の如く深い海から陸に姿を表した1969,70年からすでに50年もの時が経っているわけで、すなわちにその時期にデビューしたということは逆算すれば20代半ばの人物でも結構いいおじいちゃんだと思うのですが。
そんな中45年のベテランでありながらまだまだ勢力的に活動できるくらい現役でいられるギタリストRoine Stolt。1973年に若干17歳でプロデビューをした彼は言ってしまえばRobert FrippやSteve Howe、David Gilmourといったレジェンドたちと同じ時代同じ土俵に立ちながらその年齢は10年も若いということになります。
そんなロイネがデビューを果たすKaipaの活動からソロへ転向し1993年に発表したのが自身3枚目のソロアルバム「The Flower King」。これにより内層的だったソロ活動はロイネ指揮の下クリエイティビティ溢れるバンドThe Flower Kings(以下:TFK)へと成長していきます。
時は経ち2013年にリリースされた「Desolution Rose」。大作志向なTFKにとっては長尺曲が13分一つだけとややコンパクトな内容でしたが、その分「Desolution Road」のような妖しさ満点の楽曲から比較的ライトな「Silent Masses」までロイネの書く表と裏の楽曲が同時に存在する聴きやすさ重視のネオプログレアルバムとなりました。
このアルバムによるツアー終了後の2015年、デビューからそのサウンドを支えてきたキーボーディストのTomas Bodinが脱退、さらに2012年作「Banks of Eden」から2作品続けてくれたドラマーFelix Lehrmannもバンドを抜けています。
他のメンバーも各プロジェクトでひとしきり忙しい中、ファンに向けてはボックスセット「A Kingdom of Colours II: The Complete Collection From 2004 to 2013」が発売されるなど一応リリースは怠らない姿勢を見せていました(これはもうプレミアです!)
ロイネで言えば、2016年にはYesのJohn Andersonと共作で「Invention of Knowledge」を、2018年にはダークでゴシックなサウンドを追求したThe Sea Withinなど外部プロジェクトも相変わらずの勢力ぶりで進めた一方、自由なメンバー編成で柔軟さを示したRoine Stolt’s The Flower Kings名義での「Manifetsto of an Alchemist」をリリースしたのも記憶に新しいです。
このアルバムの記事にも書きましたが、結局のところロイネ=TFKであって彼以外のメンバーが誰であろうとそこは自由に組み換えることが可能な一種のプラットフォームとして今後のバンド活動を見据えているのではないでしょうか。それがデビューから45年経って行き着いたロイネの結論のような気がします。
新たなメンバーとしてキーボードにはZach Kamins、ドラムにはMirkko DeMaioが加入。そうして「Desolution Rose」から数えれば実に6年ぶりでも全然久々な感じがしない本作「Waiting For Miracles」がリリースされました。
アルバム参加メンバー
- Roine Stolt – Vocal, Guitar
- Hasse Fröberg – Vocal, Guitars
- Jonas Reingold – Bass
- Zach Kamins – Keyboard
- Mirkko DeMaio – Drums
楽曲紹介
- House of Cards
- Black Flag
- Miracles for America
- Vertigo
- The Bridge
- Ascending to the Stars
- Wicked Old Symphony
- The Rebel Circus
- Sleep With the Enemy
- The Crowing of Greed
- House of Cards Reprise
- Spirals
- Steampunk
- We Were Always Here
- Busking at Brobank
本作は2枚組で不安定な世界情勢を宙ぶらりんなサーカスに見立てたコンセプト作品。
美しいピアノの独奏#1「House of Cards」から幕を明け、アコースティックな雰囲気で壮大な世界観を際立てていくリードナンバー#2「Black Flag」へと続いていきます。特徴的なオルガンサウンドはキーボーディスト交代を感じさせず、コミカルなシーンを皮肉的に表現した3:15〜なんかは同じくスウェーデンのプログレバンドA.C.Tも思わせました。
もう一つのリードトラックである#3「Miracles for America」はYesからの影響を濃くしたようなオルガンや70年代には時代の先端だったモーグシンセを使用し、コーラスも分厚く衣を纏った世のプログレマニアにアピールするTFK流のキラーチューン。
#3同様10分に迫る勢いの#4「Vertigo」ではGenesisライクなシンセリードで明るく彩る前半、そこから雲行きの怪しいダークな展開へと変化していく二面性のある楽曲に仕上がっています。
#5「The Bridge」はストリングスとエモーショナルなギターで織りなすバラード。続く#6「Ascending to the Stars」は同じ絡みでもかなりスリリング、ダークでテクニカルなプログレインストとなっています。
Transatlanticでの活動がいい影響となっていそうな#7「Wicked Old Symphony」はメジャーなサウンドとキャッチーなコーラスが気持ちいいポップソング。宇宙的デジタルサンプリングも交えた#8「The Rebel Circus」はCamelのような明るいインスト曲で、ロイネのアーミングを駆使したギターソロもSteve Vai的な浮遊感を演出しています。
#9「Sleep With the Enemy」はブルージィでオリエンタルな雰囲気を持つスローバラード。もう一人のリードボーカルHasse Fröbergによるハスキーな声がウェット気味なリヴァーブに溶け込んで広がります。
Disc1ラストとなる#10「The Crowing of Greed」を終え、第二幕となります。#1のRepriseを終えるとメロトロンでのイントロが導入となる#12「Spirals」。シーケンスドラムとキーボードによるR&B風のセクションを実験的に取り入れる様は近年のKing Crimsonを彷彿とさせます。ラストには#3のサンプリングなどを効果的に使用。
メロウな大きいテーマでYesの「And You and I」を思わせる#13「Steampunk」。一瞬ですが途中ツーバスとブラスとな刻みのメタル展開にドキッとしてしまいます。
フュージョン風のボーカルソングで実質ラストとなる#14「We Were Always Here」ではリスナーがイメージするTFK像を体現しておりここまで聴いてくれた人への労いを感じます笑 テーマが重いだけにこういう爽やかさでわかりやすい曲で締めてくれるのはありがたい。そしてテルミンによる幽霊チックな演奏で虚像を表現した#15「Busking at Brobank」によって終幕します。
最後に
結構繊細に練られたコンセプトアルバム故に、来年1月の凱旋公演については本アルバムを予習するだけでもかなり楽しめるのではないかと思っています。
前キーボードのトーマスを拝めないのはいささか残念ですがネオプログレバンドの来日はそれだけで貴重なのでこれを糧に年末は頑張ろうと思います。
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タグ: Jonas ReingoldRoine StoltThe Flower Kings北欧プログレ
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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