Big Big Train「Grimspound」: イギリスとヨーロッパの文化を伝承し続けた10年間。前後作との関係性にも注目の懐深いシンフォニック・プログレ。
by 関口竜太 · 2019-11-15
おはようございます、ギタリストの関口です。
本日11月15日はポケットモンスター最新作ソード、シールドの発売日ということで若干浮き足立っておりますが、せめてブログを書いているときくらいは誘惑に負けないよう頑張りつつすでにダウンロードを完了したSwitchを見てニンマリです。
本作の舞台となるガラル地方はイギリスがモチーフということで今日はイギリス、それも脈略と受け継がれた文化度の高い作品をご紹介します!
Grimspound / Big Big Train
Big Big Trainは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド。
イギリスとヨーロッパの文化を伝承し続けた10年
もうすぐ終わる2010年代。今年5月にリリースされた最新作「Grand Tour」の記憶も新しいですがこの10年、Big Big Trainは他に類を見ないリリースラッシュを繰り広げてきました。
2012年と2013年に同コンセプトのシリーズ作「English Electric Part One」「English Electric Part Two」をリリース。この2作品は後々「English Electric: Full Power」としてEPも混ぜた完全版がリリースされ、近代イギリスプログレ界の「守護神伝」となりました。
続いて2016年にリリースしたのが英国情緒溢れる紳士さがテーマとなった伝承スタイルのアルバム「Folklore」。新たにキーボード/ギタリストであるRikard Sjoblomと女性ストリングス奏者のDanny Mannersを迎え8人体制になったことで生音の楽器による壮大なオーケストレーションで、XTCやGenesisの全盛を彷彿とさせた生々しくも暖かいサウンドを現代に具現化してくれました。
5年間で3枚もリリースしていればさすがにもう休むだろうと思われましたが彼らのイマジネーションと創作意欲はリスナーの予想を超えていました。
2017年。まさかの2作品リリースというエネルギッシュさを見せつけてきます。
どちらも冬のテーマとして一貫しており、後にリリースされた「The Second Brightest Star」は星のアルバム、先にリリースされ本日ご紹介する「Grimspound」は紀元前13世紀ごろの円形集落がサブテーマで、対となるこの2作品にさらに「Folklore」も絡み、星座や烏といったアートワークの共通点から現代よりずっと昔の文化シリーズという関係が見えてきます。
そう考えると今年リリースされた「Grand Tour」はまさに彼らの新しい旅を想起させるという合点がいきます。
アルバム参加メンバー
- Nick D’Virgilio – Drums, Percussion, Vocal
- Dave Gregory – Guitar
- Rachel Hall – Violin, Viola, Cello, Vocal
- David Longdon – Lead Vocal, Flute, Piano, Guitar, Mandolin, Banjo, Lute, Celesta, Synthesizer, Percussion
- Danny Manners – Keyboard, Bass
- Andy Poole – Guitar, Keyboard, Vocal
- Rikard Sjöblom – Guitar, Keyboard, Vocal
- Greg Spawton – Bass
Additional musicians
- Judy Dyble – Vocal on #6
- Philip Trzebiatowski – Cello on #2
楽曲紹介
- Brave Captain
- On the Racing Line
- Experimental Gentleman
- Meadowland
- Grimspound
- The Ivy Gate
- A Mead Hall in Winter
- As the Crow Files
後発「The Second Brightest Star」がバラード中心なのに対し、本作はYesやGenesisと言った70年代プログレバンドの持つ挑戦的な側面を打ち出しています。
#1「Brave Captain」はいきなり12分超えの長尺ですが静かに吹き抜ける風のような佇まいに壮大なバンドのテーマで織りなすシンフォニック・ロック。4:08〜のインストパートはオルガン〜シンセリード〜ピアノと流れるように色味の変わるキーボードワークが特徴的。
インスト曲#2「On the Racing Line」ではピアノとチェロによる幽玄な空気から始まるピアノ・ゴシック・ロックな一曲。メロトロンの導入から繰り広げられるトラディショナルなイントロの#3「Experimental Gentleman」はまさにBig Big Trainの象徴たる紳士プログレソング。
#4「Meadowland」は12弦ギターとフルートによる小曲のフォークソングで、それに続くタイトルナンバー#5「Grimspound」も穏やかでなだらかな空気をひたすら堪能できるバラード。21世紀のプログレは必然的にヘヴィメタルからの影響を受けがちなのですが、ここまで自分たちを制止させ70年代のUKプログレに従事している様には圧倒されてしまいます。
ゲストボーカルJudy Dybleを迎えたオリエンタルな#6「The Ivy Gate」。民族感を醸し出す楽器の数々やボーカルの表現力はロックバンドとしての範疇を超えたものであり、中盤にはしっかりプログレシンフォな7拍子オルガンソロも携えながら、オランダのFocusからの影響を伺わせる一曲。
「Grimspound」の時代では「Mead=蜂蜜酒」がご馳走とされていたのかと勉強になる#7「A Mead Hall in Winter」。Emerson, Lake & Palmer的なシンセワークを全編に取り込みながら胡弓によるアジアンテイストな一面もあり、Big Big Trainのロックバンドとしての質の高さを物語っています。リードボーカルはSpock’s Beard他Neal Morseのオペラ作品も務めたドラムのNick D’Virgilio。
ラストナンバー#8「As the Crow Files」はボーカルDavid Longdonの表現力をこれまで以上に活かしながらブルージィなギターのオブリも印象的。再度登場するジュディとのデュエット的ナンバーで最後までピアノやオーケストレーションの美しさに心が癒されっぱなしです。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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