Seventh Wonder「The Great Escape」: 北欧が大作に本気出すとタガが外れる件。30分に渡るメタル・オペラ収録の4thアルバム!
by 関口竜太 · 2019-11-13
おはようございます、ギタリストの関口です。
更新した過去の記事を見返すと、最近は割とモダンなプログレをご紹介することが多いみたいです。書く内容は寝起き一番に何にしようかななんて考えながら決めることが多いので、ネオプログレやプログレメタルに意識が持って行かれているうちは似たような選曲が多くなります。
というわけで本日もプログレメタルですがどうぞお付き合いください。
The Great Escape / Seventh Wonder
Seventh Wonder(セヴンス・ワンダー)はスウェーデンのプログレッシブ・メタルバンド。
来歴
ヘヴィメタルが盛んなスウェーデンという国で2000年に結成されたSeventh Wonder。
ベーシストのAndreas Blomqvist、ギタリストJohan Liefvendahl、ドラマーJohnny Sandin、キーボードにAndreas Söderinによる結成間も無くから変わらない強固なアンサンブルが一番の強み。
デビューまでは変遷の激しかったボーカルですがスウェーデンのパワーメタルバンドKamelotにてすでにキャリアを積んでいたTommy Karevikが加入して以降はより盤石になり、音楽性や人気にも拍車がかかります。
2007年にはJorn Lande,、Pagan’s Mind、Queensryche、Testament、Sun Caged、Redemptionらヘヴィメタルやプログレッシブ・メタルの新旧乱れる上席たちとヨーロッパの各地で共演。
極めて順調なバンド活動が続きますが、本作「The Great Escape」をレコーディング後、結成からの盟友ジョニーが個人的な理由から脱退をしています。以降はSWと同期に当たるメタルバンドFaceshiftのドラマーStefan Norgrenが加入しています。
というわけで本作がジョニーの参加するラストアルバムとなりますがご紹介していきます。
アルバム参加メンバー
- Andreas Blomqvist – Bass
- Johan Liefvendahl – Guitar
- Johnny Sandin – Drums
- Andreas Söderin – Keyboard
- Tommy Karevik – Vocal
ゲスト
- Jenny Karevik – Vocals on #5, #7
楽曲紹介
- Wizeman
- Alley Cat
- The Angelmaker
- King of Whitewater
- Long Way Home
- Move On Through
- The Great Escape
Ⅰ. …And the Earth Wept
Ⅱ. Poisoned Land
Ⅲ. Leaving Home
Ⅳ. Take-Off
Ⅴ. A Turn for the Worse
Ⅵ. A New Balance
Ⅶ. Death of the Goddesses
Ⅷ. The Age of Confusion: Despair
Ⅸ. The Age of Confusion: Lust
Ⅹ. The Age of Confusion: Reason
Ⅺ. The Aftermath
Ⅻ. Dining on Ahes
XIII. The Curtain Falls
デビューから変わらない、北欧らしいパワーメタルをベースとした比較的長尺となる曲はドラマティック性、シアトリカル性に富み、その上で繰り広げられるメタルアンサンブルが非常に心地いい出来。
#1「Wizeman」からフルスロットルのシンフォニック・メタルを展開。リフに変拍子の細かな仕掛けを施すことも忘れず、北欧のメタル然とした骨太なサウンドです。実はセクションごとに転調するぶっ飛んだ仕様ですが自然とそれを受け入れさせる技量をデビューからの4年で培ったと言えます。
#2「Alley Cat」はギタリストであるヨハンをフィーチャーしたミドルテンポのメタルナンバー。ヴァースやブリッジでは変則的なリフを用いた掴みにくい展開が続くものの、サビでカタルシスを爆発させていくシンプルさとのギャップが気持ちいい一曲。
シンセストリングス+リードギターから、クサメロなシンセリードで奏でられるイントロを持つ#3「The Angelmaker」。2000年代のテクニカルメタルを思わせる懐かしい香りがします。楽曲自体は8分半ある大作ソングとなりますがメロディック・パワーメタルとピアノパートとの緩急、5:51〜のDT的プログレな息もつかせぬ高速キメ展開など聴きどころ満載。
ピアノとストリングスによるシンフォニックな導入から始まるメタル曲#4「King of Whitewater」。サビにおける突き抜けるようなハイトーンも素晴らしいし、インターバルでのエモーショナルなギターソロ、ヴァイオリン、ピアノと激しさと美しさが同居した名曲です。
本作随一のバラード#5「Long Way Home」。ピアノとアコギ、トミーの表現力が魅力的で男らしいセクシーさもあるムーディーな楽曲です。この曲と表題曲にはゲストボーカルとしてトミーの妹Jenny Karevikも参加。彼女は2008年の「Marcy Falls」や2018年の「Tiara」にも参加しており6人目のSeventh Wonderと言っても過言ではありません。
6曲目となる#6「Move On Through」。ベーシストであるアンドレアスの存在感が目立つ一曲で、5分という短めな時間の中で繰り広げられるドラマティック・メタル。同じく北欧のCircus Maximusを強烈に意識させるナンバーです。
ラストは13パートにも及ぶ超大作組曲#7「The Great Escape」。プログレッシブ・メタルというジャンルでありながらそれまで10分の壁を破ることがなかった彼らでしたが、本曲は30分にも及ぶ長尺ぶり。
スウェーデンのノーベル賞受賞者Harry Martinsonが1956年に出版した宇宙学をベースとした抒情詩「Aniara」がテーマとなっていて、この作品は映画化や舞台化もされたまさにスウェーデン人にとっての名誉ある作品です。
冒頭はアコギとボーカルのみによる独唱。それ一曲でアルバムになりえるほどの長尺なので初めは静かにという安易な解釈もできますが、以降もヴィンテージ楽器や本格的なオーケストレーションを採用しているところから、先たるプログレの偉人たちの意思を引き継いでいます。何より力の入れようがそれまでの6曲とまるで違い、この曲だけ完全に別次元。
どんなに激しいメタルバンドでもここまでの大作となると必然的にメタル成分を分散しサウンドスケープをロックサイドにまで広げる傾向にあるので長さとは裏腹に聴きやすくなる面は、個人的な嗜好とマッチしています。
楽器隊によるインストパートは非常にタイトで多くの人がイメージするプログレメタル像(Dream Theaterによって築かれたある種のステレオタイプ)を展開。一方ボーカルパートは伸びやかでメロディアス、変拍子でもなんなくこなしてしまうトミーの技量や表現力に脱帽します。
16:04〜はキーボードソロがあるのですがSAW系の波形を使用していたり、その後の粒の細かいアコギのアルペジオも含めトラッドなプログレッシブ・ロックへの敬意を感じます。19:10〜はKing Crimsonを元祖とするようなブレイクが連続するキメのリフ(Dream Theaterの「Metropolis」などへ発展)などタイムマシンに乗って時代のハイライトを見せられているような気分。
20:52〜は再び妹のジェニーが参戦。曲自体も最高潮になりつつあるこの場面での登場に身悶えます。テーマとなったアニアラの舞台でもクラシック音楽を用いオペラとしての扱いを受けているからか、本曲も自然とアプローチがロック・オペラ的になっていますね。
ラストはバンドでの壮大でシンフォニックな大団円を迎え余韻に薄れていくところでイントロのアコギが再登場して終幕。お腹いっぱいになります、どうもありがとう。
本作での大作思考が彼らの中で良い影響をもたらしたのか、その後8年の歳月を経て制作された「Tiara」ではよりシンフォニックに特化したフルコンセプトアルバムを展開しています。そちらもいずれまとめていきますのでお楽しみに!
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タグ: プログレッシブ・メタルSeventh Wonder北欧プログレ
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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