Opeth「My Arms, Your Hearse」: いくつものターニングポイントが絡み合った新たな「月の都」。バラードも登場するプログレデスメタル!
by 関口竜太 · 2019-10-30
おはようございます、ギタリストの関口です。
12月、そして来年1月と北欧の来日ラッシュが続きますので先日のThe Flower Kingsに続き本日はこちらをご紹介していきます。
My Arms, Your Hearse / Opeth
Opeth(オーペス)はスウェーデンのプログレッシブ・メタルバンド。
Martin Lopezを迎えて作られたターニングポイント
デスメタルをわかりやすく言うと、スラッシュメタルをよりやかましくした音楽性であると定義づけられます。ほぼメロディは皆無で唸るような絶叫と激しいドラムビート、複雑で不安を煽るようなハーモニーを持ち合わせたギターリフなどロックがエクストリームに行き着いた究極形でした。
Opethの1stアルバム「Orchid」はそんなデスメタル人気に火が点いた1995年。Mikael Åkerfeldtのフライなデスヴォイスにメロディックなギターリフ、裏メロ、さらにテンポを一気に落とし哀愁たっぷりのアコースティックサウンドで表現された音楽はデスメタルもといHR/HM、そしてプログレッシブ・ロック界にも大いに意味をもたらしました。
しかしながら、当時のOpethは今でも続く静と動の緩急と複雑な構成による大作思考の楽曲という基本スタイルを確立していながらクリーンヴォイスとしてのアプローチはまだまだ薄いものでした。
続く2ndアルバム「Morningrise」では収録された5曲全てが10分を超え、さらに「Black Rose Immortal」という20分超えの大作を生み出します。楽曲もアクサクやポリリズム、変拍子といったリズム遊びや1stより増した叙情的メロディなど、プログレとしての音楽性も際立ちますがボーカルについてはその延長であったと個人的には思います。
1997年の「Morningrise」ツアー終了後、ミカエルと当時のギタリストPeter Lindgrenは個人的な理由からベーシストJohan De Farfallaを解雇します。その通達をドラムのAnders Nordinに行わなかったために反感を買ってしまい結果ノーディンも脱退してしまう結果を招きます。
このことがターニングポイントとなり新たに募集をし名乗りを上げたのがドラマーMartin Lopez(元Amon Amarth)とベーシストMartín Méndez。二人は兼ねてよりOpethのファンであり、ミカエルが掲示したメンバー募集の広告を削除し応募に漕ぎ着けたと言います(他に応募者が現れないようにするため)。
本作「My Arms, Your Hearse」レコーディングの際にはまだメンデスの加入までは至っておらずドラムのロペスのみ参加した3人体制による制作となりましたがその後メンデスも正規メンバーへ。
なおロペスの方は2005年の「Ghost Reveries」をリリース後バンドを去っていますが健康上の理由としており不仲や方向性の相違でないことが明らかになっています。メンデスに至っては恒久的なメンバーとして現在も在籍しています。
アルバム参加メンバー
- Mikael Åkerfeldt – Vocal, Guitar, Bass, Piano
- Peter Lindgren – Guitar
- Martin Lopez – Drums, Percussion
楽曲紹介
- Prologue
- April Ethereal
- When
- Madrigal
- The Amen Corner
- Demon of the Fall
- Credence
- Karma
- Epilogue
前作「Morningrise」の5曲66分に比べると全9曲53分というのはややコンパクトに思えるかもしれません。しかし、アルバムの内容はOpeth初のコンセプトアルバムに挑んでおり#1「Prologue」〜#9「Epilogue」までを一つのストーリーとして見ればその意味も変わってきます。
#2「April Ethereal」から2000年代の彼らにも引けを取らない純然なデスメタルを繰り広げます。バンドのサウンドプロダクションは大きく向上し、ハイミッドの強かった2ndまでに比べて、その後の2001年「Blackwater Park」や2002年「Deliverance」に近しいダークな音像をここで獲得したと思われます。
また3:41〜は待望のクリーンヴォイスが登場します。これが本作切ってのターニングポイント。バンドアンサンブルだけでなくボーカルにおいても静と動の再現へと踏み切った瞬間でした。もっとも、デスヴォイスがボーカルというより楽器の一部という扱いならディストーションギターとクリーンギターがあるようにボーカルにもそんな表現があってもおかしくはありませんね。
Pink FloydライクなMODギターのアルペジオから#2を超えるスピーディなナンバー#3「When」ではグロウルなボーカルと時折見せるクリーンのブリッジがたまらなく胸を締め付けてくれます。激しいボーカルパートでも裏でアコギが鳴っていたりと新鮮味のあるアレンジが特徴です。
曲のテンポ感やのっぺりしたビートにならないように気を遣っているOpethにとってはエクストリームなメタルだから速くあるべきという固定概念は無駄に思え、スローだからこそ重さもダークさも際立つと言いたげなナンバーとして中盤の#5「The Amen Corner」や#6「Demon of the Fall」があります。ここでの活躍はもちろん新メンバーであるロペスの活躍に他ならずバンドに新たな息吹を加えた瞬間でした。
息吹ついでに、バンドとしてもう一つのターニングポイントとなるのがデスが一切ないアコースティックバラード#7「Credence」。Opethらしい陰鬱さがありながら北欧の美しいメロディセンスはミカエルの音楽家としての成熟ぶりを物語っており、ここから20年以上に渡るバンドの音楽性を司る新たな芽吹きとなっています。
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タグ: プログレッシブ・メタルプログレデスOpeth北欧プログレ
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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