Jethro Tull「Aqualung」: トラッド・フォーク極まれり!プログレ後追いのUKブルース・ロック4th!
by 関口竜太 · 2019-10-18
おはようございます、ギタリストの関口です。
本日はイギリスのJethro Tullのアルバムをご紹介していきます。
Aqualung / Jethro Tull
Jethro Tull(ジェスロ・タル)はイギリスのプログレッシブ・ロックバンド。
量産プログレから秀でる存在
1970年代初期に黄金期を迎えるプログレッシブ・ロック。通称、UK五大プログレバンドと呼ばれるロック界のレジェンドを中心に、イギリスのみならずヨーロッパの各地でこのようなバンドが乱立します。
ある程度はYesやGenesisといったレジェンドからの影響もあったとは思いますが、元を辿れば60年代後半に言わば音楽表現の革命みたいな意識が広く浸透したのです。言い換えれば時代の流れで、この頃のロックは意図せずともバンドが口を開けばプログレになってしまったのだと思っています。
そんな前衛的ロックの風潮が皮肉にも量産されそもそもそれってプログレなの?と人々が気づくまでにはもう少し時間がかかりますが今日はその部分はあえて置いておいて…当時五大プログレバンド以外でも独自のスタイルでプログレッシブ・ロックとカテゴライズされたバンドもいくつか登場します。
イギリスで言えばThe Moody BluesやGentle Giant、Soft Machine、Camelなどがそれに当たりますがその中に名を連ねるのが本日ブログ初登場となるJethro Tullです。
根本的に他とは違っていた
Jethro Tullの結成は1967年。John Evan’s Smashというブルースバンドで活動していたギターボーカルIan AndersonとベースGlenn Cornickによって結成され、当時はそこにギターMick Abrahams、ドラムClive Bunkerを追加した4人編成でした。
当初はブルース・ロックバンドとして活動していましたが世間のブルース・ロックとは根本的に違っていました。
当時の「ブルース」というのは先人のカバーが当然でありオリジナル曲を中心としたブルースバンドというのはそれだけで珍しかったのです。1968年にリリースされたデビューアルバム「This Was (邦題:日曜日の印象)」ではオリジナル曲の他、1930年代から活躍していた盲目のジャズミュージシャンRoland Kirkのカバーやトラッドなフォーク・ミュージックも演奏しており、今でいうコンテンポラリーな姿勢が人気となりました。
独自性という点ではこの頃からボーカルのイアンがフルートを吹くことでも話題となりました。70年代のロックというのはギター至上主義の時代で、当時のマネージャーからギタリストであるミックを売り出したいという提案の元、イアンがギターを取り上げられることになります。それでもなんとか目立ちたいイアンはギター以外の楽器を演奏する考えに至りヴァイオリンかフルートか迷ったところで後者を選んだという経緯があります。
そんな貪欲でプログレッシブな素質を持っていたイアンでしたが、アルバムリリース後に当のミックが脱退してしまいます。すでに出演が決まっていたテレビなど各メディアにはBlack SabbathのTony Iommiが臨時加入し乗り切ることに成功、その後無事後任としてMartin Barreが正式加入します。
続く2ndアルバム「Stand Up」は全英で一位、3rdアルバム「Benefit」はアメリカでもヒットを記録し脚光を浴びます。またこの時期は同期であるTrafficやProcol Harumらと共に70年代のブリティッシュ・ロックを世界的音楽に位置付ける決定打としても貢献しています。
1970年12月、結成から在籍していた初代ベーシストのコーニックが脱退、新たにイアンの幼馴染であったJeffrey Hammondが加入します。翌年には本作「Aqualung」がリリースされるのですが宗教をテーマにした文学的な歌詞に盤石な演奏技術、さらにジェフェリーと同時期に加入したJohn EvanやDavid Palmerのオーケストラアレンジによってフルートだけではなくストリングスやメロトロンも追加、1971年というまさにこれからプログレ黄金期という時代背景ともクロスしJethro Tullはさらに飛躍することとなります。
アルバム参加メンバー
- Ian Anderson – Vocal, Flute, Guitar, Drums(レコーディングにおいて)
- Martin Barre – Guitar, Recorder
- Clive Bunker – Drums, Percussion
- Jeffrey Hammond – Bass, Recorder, Vocal
- John Evan – Organ, Piano, Mellotron
Additional Musician
- David Palmer – Orchestra, Arrangement
楽曲紹介
- Aqualung
- Cross-Eyed Mary
- Cheep Day Return
- Mother Goose
- Wond’ring Aloud
- Up to Me
- My God
- Hymn 43
- Slipstream
- Locomotive Breath
- Wind-Up
キャッチーなギターリフで同ジャンルを代表する楽曲となる#1「Aqualung」。ストレートなハードロックソングとトラッドなフォークスタイルが特徴で、イアンのボーカルにフィルターをかけるボーカルエフェクトというアイディアも提示してきました。
イントロからフルートによる引き込みが強い#2「Cross-Eyed Mary」。この頃からイアンの独壇場となりつつある個性的な楽曲たちですが、この曲ではバーレの乾いたペンタトニックソロを聴くことができます。
鮮やかなギタープレイが魅力的なフォークソング#3「Cheep Day Return」、続く#4「Mother Goose」と#5「Wond’ring Aloud」。変拍子も巧みに取り入れながら単なるアコースティック曲にならないパーカッションや管楽器、ストリングスなどのアプローチが際立っています。アコギはイアンによるものだと伺っていますが普通に巧い。
アコギとフルートによる珍しいユニゾンリフにハードなエレキも入ってくる#6「Up to Me」。あちこちに飛び回るパーカッションなど生々しいリアルな音像に触れられる一曲です。
続く#7「Hymm 43」はアコースティックによる静寂感とハードな展開を併せ持った叙情性溢れる一曲。1分〜のロックンロールなパートにおいてギターのブラッシングがたまらなく気持ちいいです。
ストリングスとアコギによる小曲#9「Slipstream」を超えるとピアノの独奏からジャズテイストに始まる#10「Locomotive Breath」。この頃に珍しいギターのフィードバックからバンドアンサンブルに入ると#7に引き続き歯切れのいいブラッシングで聴かせる名曲となっています。フルートソロも絶妙な高揚感を醸し出してかっこいいです!
ロックンロールをバンドの象徴であるフォークスタイルとスローバラードで挟んだラストナンバー#11「Wind-Up」。2:02〜はギターリフのハーモナイズや逃げる時に使われるピューンというSEが聴けたりと実験的な一面も垣間見れます。
初めはブルース出身だったかもしれませんが、新しいことを常に目指してきたJethro Tullにとってプログレッシブ・ロックは向かっていったのではなく向こうから追いついてきたという構造が正しそうです。
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タグ: 英プログレJethro Tull
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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関口竜太
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