Dream Theater「Awake」: リリース25周年!メンバー脱退も経験したバンド初期のダークサイドアルバム。
by 関口竜太 · 2019-10-15
おはようございます、ギタリストの関口です。
先日10月10日はKing Crimsonの1stアルバムリリースからちょうど50年のメモリアルでして、あのアルバムが当時23歳のRobert Fripp御大によるものかと思うと天才を通り越した何者かとしか思えなくなってくるのですが、10月は他にもメモリアルなアルバムがあります。
それがDream TheaterのAwake。発売は10月4日で日本盤リリースが10月10日、2019年でリリースから25年となりました。
というわけで本日はこちらのアルバムをご紹介。
Awake / Dream Theater
Dream Theaterはアメリカのプログレッシブ・メタルバンド。
Kevin Mooreの脱退
前作「Images And Words」のヒットを受けて二度に渡るワールドツアーを行なったDream Theater。気がつけばリリースから2年近くが経過しており、その間書き溜めた曲で3rdアルバムへの意欲も十分でした。
レーベル側の意向とバンド内での総意によって本作のテーマは前回よりもダークでヘヴィな内容にする方向性で固まります。
しかし、この時期にデビューからバンドの華を彩ってきたキーボディストKevin Mooreが脱退を仄めかします。アルバムの方向性自体は皆で決めたことでしたが、どうやらもっとアヴァンギャルドでエレクトロな音楽性を求めていたようでした。つまりはもっとキーボードにフィーチャーした音楽が彼としてはよかったのでしょうか、ひょっとしたらクラウトロックのようなものを最大公約数的に期待していたのかもしれません。
その部分は今や本人にしかわかりませんが、バンド活動において音楽性の違いとは往々にしてあるものです。しかしながらそれがトリガーだっただけで、メンバーの説得ですら埋められなかった彼自身と他のメンバーとの距離感というのが最終的には積もり積もった要因だったのではないでしょうか。
当時のドラマーMike Portnoyからは収録予定だった「To Live Forever」の代わりにケヴィンが作った「Space-Dye Vest」という曲をアルバムに入れるという条件でバンドに残ってくれないか打診もありましたが、その曲が収録されるも虚しくケヴィンはミキシングを待たずしてレコーディング終了後バンドを去ることとなりました。
ちなみにケヴィン説得のために収録が見送られた「To Live Forever」ですが2008年リリースのコンピレーションアルバム(事実上ベストアルバム)である「GREATEST HIT (…and 21 other pretty songs)」に収録されており、音源からもそれが「Awake期」の曲であることはよく伝わってきます。
アルバム参加メンバー
- James LaBrie – Vocal
- John Petrucci – Guitar
- Mike Portnoy – Drums
- John Myung – Bass
- Kevin Moore – Keyboard
楽曲紹介
- 6:00
- Caught In A Web
- Innocent Faded
- Erotomania
- Voices
- The Silent Man
- The Mirror
- Lie
- Lifting Shadows Off A Dream
- Scared
- Space-Dye Vest
メンバーの脱退というトラブルに見舞われたものの、アルバムは無事にリリース。90年代当時のMarilyn MansonやKornなどオルタナメタル傾向にある流行も追い風となり2ndアルバムに続くヒットを記録しました。
この頃からペトルーシは7弦ギターを積極的に使用するようになり、当時はまだIbanezでしたがSteve Vaiと並んで7弦奏者の先駆けとなりました。
#1「6:00」は以前このブログでもチラッと取り上げたことがありましたがイントロから高難易度のタム回しにより幕を明けるアルバムの複雑性を象徴する楽曲。オープニングとエンディングに語られる「Six o’clock on a Christmas morning」というセリフは、James Joyce原作の短編集「ダブリン市民」の一篇「死者たち」及びその映画「The Dead」からの引用。ラブリエのメロディアスな歌とは相反してバンドアンサンブルは非常に複雑な構成を伴っています。なお歌詞はケヴィンによるもの。
7弦ギターによるヘヴィなリフとそれを中和するようなシンセリードのイントロが特徴的な#2「Caught In A Web」。少しダミを効かせたボーカルとキャッチーなサビとのコントラストが絶妙な良曲。ギターソロ後のヴィブラスラップやカウベルなどパーカッシブな一面も見られます。
アルバム全体を通してダークな印象が強い本作ですがその中でバンドの初期を代表する爽やかなナンバー#3「Innocent Faded」。インストパートのみならずサビへのインターバルでも細かい変拍子のアプローチを欠かさずプログレバンドとして軸がブレないように工夫されています。目立ちにくいですがケヴィンのシンセによる裏メロなど実はかなりの功績。アウトロはDream Theater基準で言えば中難易度ですが全く休む暇がないソロパートの連続で気が抜けません(体験談)。
#4〜#6までは「A Mind Beside Itself」という組曲になっておりそのオープニングに当たる#4「Erotomania」は1stアルバム収録の「Ytse Jam」以来のインスト曲。5/4の変則リフ、クリーンコーラスとアコギを混ぜた美しいアルペジオ、終盤では5連符の高速スキッピングフレーズなどギタリストなら誰もが通りたいテクニカルな一曲。
続く#5「Voices」はこれまた9/8の一捻りあるリフとラブリエの静動をスイッチした表現力が見事な9分の大作。3:18〜の加速する展開と「Sex is Death, Death is sex」という箇所が個人的にはお気に入り。特にいやらしい意味はないです。
組曲を締めるアコースティックバラード#6「The Silent Man」。#4の中盤でもリードギターによってサビのメロディは示唆されていますが非常に綺麗な歌メロが特徴的で僕が高校生で初めて聴いた時はMr.Bigの「To Be With You」を感じさせました。
スロー版#2を思わせる#7「The Mirror」。7弦ギターの基本的な刻みはシンプルでまだ実験段階にありそうですが4拍のギターリフに6/8のドラムを加えることで変則的に聴かせるアレンジが為されています。なお歌詞はマイクによるアルコール依存症がテーマで後の6thアルバムから始まる「12 Step Suite」にとっての「Metropolis Pt.1」とも言えそうです。
ギャップレスに続く#8「Lie」。非常に攻撃的なリフとヘヴィメタル然としたアグレッシブな展開が終盤一の高揚感へ導いてくれます。5:08〜のアウトロでは#7のリフをリプライズしてその上でギターソロも弾いていますがシングルエディットではこのパートはバッサリカットされています。
バンドではあまり表に出ることがないベーシストJohn Myungが自身の体験を綴ったとされる#9「Lifting Shadows Off A Dream」。イントロのベースによるハーモニクスは7thアルバム収録の「As I Am」も思わせますが物憂げな雰囲気から織りなす前向きなサビのメロディが琴線に触れる名曲です。
11分の長尺となる#10「Scarred」は個人的に最もお気に入りの一曲でオリエンタルなイントロから変拍子、ポリリズム、テンポチェンジ、繰り返される転調などプログレッシブな展開の真骨頂。Awake当時なんですがヘヴィとは言うもののギターの音は結構ドライなんですよね。そこが全体的にスッキリしていて聴きやすいとされる所以なのかもしれません。
先述したケヴィンの作曲の#11「Space-Dye Vest」。陰鬱でどこまで暗く沈んでいきそうなピアノとメロディ、ズーンと重たく白玉で鳴り響くギターなどある意味ではこれが一番プログレかなと思われます。脱退後も「これは100%ケヴィンの曲だから」という理由からライブで披露されることはありませんでしたが、マイク脱退後の現体制になってからは演奏される機会も増え、ライブ映像「Breaking The Fourth Wall」では第二部にて演奏している様子が収められています。
ちなみにこのライブDVD/Blu-rayの第二部では「The Mirror」〜「Space-Dye Vest」までを通しで演奏していますので、ドラムこそMike Manginiですが「Awake」のライブ映像として見ても綺麗ですしオススメです。
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タグ: プログレッシブ・メタル米プログレDream TheaterJames LaBrieJohn MyungJohn PetrucciMike Portnoy
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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