District 97「Hybrid Child」: LTEから受け継ぐ21世紀のアメリカン・テクニカルプログレ、記念すべき1stアルバム!
by 関口竜太 · 2019-10-08
おはようございます、ギタリストの関口です。
本日はモダンなアメリカン・プログレです!さっそく参りましょう!
Hybrid Child / District 97
District 97(ディストリクト・ナインティーセブン)は、アメリカのプログレッシブ・ロック/メタルバンド。
来歴
イギリスが規律を持ち新たな音楽を生み出してきた一方で、アメリカという国はその広大な大地と自由な国民性で輸入した音楽をカスタマイズする立場にあります。
2006年、シカゴで結成されたDistrict 97は現在は5人組のテクニカルプログレッシブ・ロックバンド。創設者はギターSam Krahn、キーボードRob Clearfield、ベースPatrick Mulcahy、ドラムJonathan Schangの4人。
この4人はアメリカで、かのDream Theaterのサイドプロジェクト的インストメタルバンド、Liquid Tension Experimentのようなテクニカル・インスト・メタルをプレイするバンドとして活動を開始しました。
ある程度曲が出揃いバンドの息もまとまってくると、4人はこのバックトラックに録音すべきボーカルを探し出します。選ばれたのはアメリカで放送されているスター発掘番組「アメリカンアイドル」、その第6シーズンで準決勝に勝ち進んだLeslie Hunt。
同時期にギターのサムが脱退し後任にJim Tashjianが加入すると、バンドはテクニカルなインストバンドからよりアクセスしやすいメロディアスなボーカルスタイルへと変化していきます。おそらく結成当初の音楽性の発案はサムによるものだったのでしょう。
レスリーのボーカルも大変好評で、アメリカやヨーロッパでのライブイベントに多数出演、2010年にレコード会社The Laser’s Edgeと契約を結びます。
そうしてリリースされたデビュー作が本作「Hybrid Child」なのですが、この頃レコーディングに当たりセッションメンバーとしてチェロ奏者のKatinka Klejinが参加しています。彼女は2012年にKing CrimsonのJohn Wettonを迎えて作られた2ndアルバム「Trouble with Machine」までレコーディングに参加している他、ライブでもそのテクニックを披露しています。
アルバム参加メンバー
- Jim Tashjian – Guitar
- Rob Clearfield – Keyboard
- Patrick Mulcahy – Bass
- Jonathan Schang – Drums
- Leslie Hunt – Vocal
セッションメンバー
- Katinka Klejin – Cello
楽曲紹介
- I Don’t Want to Wait Another Day
- I Can’t Take You with Me
- The Man Who Knows Your Name
- Termites
- Mindscan
Ⅰ. Arrival
Ⅱ. Entrance
Ⅲ. Realization
Ⅳ. Welcome
Ⅴ. Examination
Ⅵ. Hybrid Child
Ⅶ. Exploration
Ⅷ. What Do They Want
Ⅸ. When I Awake
Ⅹ. Returning Home
先述のLTEに裏付けられたテクニカルな演奏とメロディアスに駆け上がる高速フレーズを武器に、メタルすぎないクリアな女性ボーカルプログレを展開しています。
#1「I Don’t Want to Wait Another Day」はGenesisの「Watcher of the Skies」を思わせる冒頭のキメからもったいぶらずにボーカルが入ってくる比較的ライトな入り口。バッキングの刻みはメタルより受け継がれるものですがリズミカルな歌と浮遊感のある独特なメロディラインが癖になります。
さらにはスピーディに下っていくキーボードとチェロのユニゾンスケールダウン。ギターの速弾きなど見せ場はほぼありませんが綺麗なボーカルとバンドサウンドの派手さでオープングの7分は余裕で聴けてしまいます。
インストメタルから、王道なプログレにシフトしたという事実が伺える#2「I Can’t Take You with Me」はやはりイギリスからの風を感じるGenesisやYesの風味。でもドラムはメタルバンドのそれです笑 リディアンな空気はSteve Vaiも感じさせテクニカル好きのリスナーにも聴いてほしいポップな一曲。
#3「The Man Who Knows Your Name」は一転、ヘヴィなギターの刻みとリードシンセによるプログレメタルの様相。8分40秒中、半分にも及ぶイントロはもう2部構成と考えた方がよさそう。しかしながらそのイントロは変拍子とユニゾンフレーズに富んだDream Theaterライクなテクニカルソング。キーボードはUKやJethro TullのキーボディストEddie Jobsonからの影響を伺わせます。
アメリカの作曲家でギタリストのJim WilliamsとCasey Lee Williamsのコンビを思わせるメタルナンバー#4「Termites」。複雑なリズム変化をもろともせず歌い上げるレスリーの技量はさすがです!
そして10部構成28分超えの超大作#6「Mindscan」。壮大さを思わせるSEとピアノの独奏から入っていく穏やかで美しいイントロです。「Ⅲ. Realization」になるとKing Crimsonの「THRAK」のようなカオスかつ変拍子リフが炸裂していきます。
メロディアスなボーカルパート「Ⅳ. Welcome」、♭5を効果的に活かしたメカニカルなインスト「Ⅶ. Exploration」とそこから派生した「Ⅷ. What Do They Want」とスリリングな展開が続いていきます。ラストパートである「Ⅹ. Returning Home」は壮大な大団円かと思いきやネオクラシカル的なアルペジオを軸にポリリズムを展開していく最後までカオスティックな構成。冒頭のSEで締めです。
今年、4年ぶりのニューアルバム「Screens」がリリースされていますが本作に比べると変拍子やダークな雰囲気を持ち合わせたオルタナロックという感じなので、それも込みで今後このバンドの紹介も広げていけたらと思います!
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タグ: プログレッシブ・メタル米プログレDistrict 97
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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