Änglagård「Buried Alive」: 近代ユーロプログレのフォーマットを作ったインフルエンサー。初期解散前の圧巻となるライブ盤!
by 関口竜太 · 2019-10-06
おはようございます、ギタリストの関口です。
本日は珍しくライブ盤のご紹介。
Buried Alive / Änglagård
Änglagård(アングラガルド)は、スウェーデンのプログレッシブ・ロックバンド。
プログレ大国スウェーデンの20年
プログレッシブ・ロックが盛んなスウェーデンの地において90年代初期に日の出を見たバンドとしてはThe Flower KingsやAnekdotenが挙がりますが、そんな彼らと同期に当たるのがこのアングラガルド(スウェーデン語表記が大変なのでカタカナで失礼)となります。
遡れば1970年代、世界的に見てもプログレが主流だった時代にスウェーデンはSamla Mammas MannaやKaipaを初めとする優秀なプログレッシブ・ロックバンドを輩出。本場イギリスに引けを取らない音楽シーンを築き上げます。
プログレが廃れた80年代には目立った活動が見られませんでしたが、イギリスではMarillionやI.Q.などのネオプログレッシブ・ロックが勃興、それはファンの間でも賛否あるワンシーンではありました。
しかしながらただ地下に追いやられ燻っているだけではなく、前は見えなくともモグラのように掘りすすめる精神こそプログレの本来の形であったし、こうして90年代にアングラガルドやAnekdotenといったバンドが地上に出られた現実を考えれば決して無駄なことではなかったと個人的には思っています。
二つに分かれた活動期
そんなアングラガルドは1991年にギターボーカリストTord LindmanとベーシストJohan Högberg(現:Johan Brand)を中心に結成。1992年にアルバム「Hybris」でデビューします。10分前後の楽曲を4曲収録したこのアルバムはスウェーデンという国を再びプログレッシブ大国に押し上げたうちの一枚だと認識して間違いはないはずです。
当時のメンバーはこの二人にさらにギタリストJonas EngdegårdとドラマーMattias Olsson、そしてメロトロンとハモンドオルガンを操るキーボディストThomas Johnson、フルート奏者Anna Holmgrenを含んだ6人編成。
King CrimsonやGentle Giantといった正統派プログレッシブ・ロックアンサンブルにGenesisのようなシンフォニック要素を配合した特殊な容器があったとして、そこに北欧特有の陰鬱で暗黒な空気を注ぎ込んだインストが中心の音楽は、「Hybris」の旧邦題で「ザ・シンフォニック組曲」と表記されるほど70年代のリバイバルでした(現在は「ヒブリス〜傲慢」)。そしてそれは90年代以降のスウェディッシュ・プログレのフォーマットとしてすでに出来上がっていたという重大な事実を意味します。
しかしながら、新たな北欧プログレスタイルの一端を築いたアングラガルドが地面からはい出た際の初期微動、及び本震は極めて短く、90年代における彼らの活動は92年の「Hybris」と94年の「Epilog」、この2枚のスタジオアルバムのみとなります。
この2枚は極めて優秀なアルバムでいずれもプログレファンの間で「Album of the Year」を獲得するものでしたが1995年に突如としてバンドは解散してしまいます。高度なアンサンブルに同じく北欧のプログレメタルバンドOpethが得意とするような「動と静」を、よりアライブに表現していただけに解散は単純にプログレファンからしても肩を落とす出来事だったでしょう。
しかし、そこから長い時間を経て2009年に再結成をしておりメンバーに多少の変遷は見られたものの現在でも活動、2012年に3rdアルバム「Viljans Öga」をリリースした他、来日公演も行いそれを収録したライブアルバムもリリースされています。
アルバム参加メンバー
- Johan Brand(Högberg) – Bass
- Tord Lindman – Guitar, Vocal
- Anna Holmgren – Flute
- Jonas Engdegård – Guitar
- Thomas Johnson – Keyboard, Mellotron, Organ
- Mattias Olsson – Drums, Percussion
楽曲紹介
- Prolog
- Jordrök
- Höstsejd
- Ifrån klarhet till klarhet
- Vandringar i vilsenhet
- Sista somrar
- Kung bore
本作「Buried Alive」は解散前に彼らがロサンゼルスで行なったプログレ・フェスの模様を収録したライブアルバム。2枚のオリジナルアルバムをミックスしたような内容の本作はライブアルバムとしても純度が高い上彼らの演奏力の高さを再認識することができます。
邦題は「早すぎた埋葬」、「生き埋め」。
#1「Prolog」は2ndアルバムより抜粋されたオープニング。以降6曲はすべてが9分を超える大作で圧巻のライブアンサンブルを確認することができます。
1stアルバムに収録された人気のインスト曲#2「Jordrök」。スウェーデン語でケシ科の植物カラクサケマンのことだそう。キーボードの静かな導入からフリジアンの怪しさ満点なリフへと続いていきます。近代プログレのフォーマットを作ったと先ほど言いましたが、特に印象的なディミニッシュによるテーマはまさにそれ。ヨハンのベースが存在感満点でツインギターにも負けないどっしりとしたプレイがバンドを支えているとわかります。
#3「Höstsejd」は2ndアルバム収録曲でスタジオテイクから10分を超える大作となっています。極限まで静かなオルガンとダークかつヘヴィなバンドとのオンオフはスタジオテイク以上の迫力。変拍子を交えたブレイク、それにカウンターするフルート、フュージョンのセッションに近い独特な緊張感は現在のThank You Scientistにも通ずるところがありそうです。
#4「Ifrån klarhet till klarhet」はメルヘンチックなフルートとSEによる遊びのイントロが特徴。観客も都度反応するくらい会場の熱が伝わってきます。2:08〜はようやくリンドマンのボーカルを聴くことができます。5:50〜はダークさはそのままにGenesis的なシーケンスとYesを思わせるオルガンサウンドが絶妙に絡みます。
#4と同じく1stアルバムから演奏された#5「Vandringar i vilsenhet」。5:10〜オルガンのクラシカルなアプローチを皮切りに各パートの見せ場が聴ける一曲。シアトリカルに展開するテクニカルなチェンバーロックといった仕様で近代プログレのファクターが詰まっています。
基本スタンスは変わらないものの比較的スローな曲に区分される#6「Sista somrar」。フルートとギターによるツイン、トラディショナルでユーロな雰囲気がゆったりとした時間を与えてくれるインストナンバーです・
ラスト#7「Kung bore」に至るまで陰鬱なる構築テクニカルロックを披露してくれるアングラガルド。哀しげに響く1:30〜のフルートなどはKing Crimsonを彷彿とさせボーカルもクリーンギターのアルペジオもぐっと雰囲気を盛り上げます。
静のボーカルパートと動のインストパートの切り替えがとにかくすさまじく、当時のライブを現在の尺度に当てはめても余裕で通用するレベルです。平成のプログレベストにおいて「Hybris」が9位に入るなど確実に大きな影響を及ぼしたÄnglagård。新作は難しいかもですがまた日本に来てくれることがあれば是非観たいものです!
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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関口竜太
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