TOOL「Fear Inoculum」: 実に13年ぶりのリリース!「7」をコンセプトにした驚異の80分超え米オルタナメタル!
by 関口竜太 · 2019-09-27
おはようございます、ギタリストの関口です。
今日はOpethのニューアルバムの発売日なのですが、おそらくAmazonさんは発売日通りに届けてくれないし…Apple Musicによる配信もタイトル見たら全てカタカナ表記という萎える仕様でしたので大人しく現物が届くのを待ちます。
実は今年、ネガティブな歌詞とダウナーなサウンドメイクながらこれまでに二度もグラミー賞を獲得しているTOOLのニューアルバムがリリースされているというちょっとした事件があるので今日はそちらをご紹介します。
Fear Inoculum / TOOL
TOOL(トゥール)は、アメリカのオルタナティブ/プログレッシブ・メタルバンド。
超寡作主義の大作オルタナ!
アメリカでオルタナティブ・メタルを展開しながらその音楽性はKing CrimsonやRushと言ったプログレッシブ・ロックからも影響を受けているということで、まずはそんなTOOLの来歴を辿っていきましょう。
1989年、共通の友人を通じて知り合い意気投合したMaynard James Keenan(メイナード・ジェイムズ・キーナン)とAdam Jones(アダム・ジョーンズ)は、バンド結成のためベーシストとドラマー探しに乗り出します。
メンバーを探す上でジョーンズには旧友に心強い味方がいました。それがなんと高校時代、共にElectric Sheepというバンドを結成していた現Rage Against the MachineのTom Morello!彼の紹介によりドラムにDaniel Carey(ダニエル・キャリー)という名前が上がります。そして奇しくもダニエルはキーナンと同じアパートだったというのだからこれも驚き。
また別の友人からPaul D’Amour(ポール・ダムール)が紹介され、バンドに参加したことで1990年、TOOLが結成されます。
バンドは早い段階から「lachrymology」という架空の哲学を作り出し、自分たちはその哲学を音楽で体現する”ツール”であるという独自の方向性を示していました。
バンドのロゴは男性器とスパナを組み合わせたかなりパンキッシュなもの。
「ライブを行うたびに客が増えていった」と言われるくらいハイスピードで人気バンドに上り詰めたTOOLは同年、いくつかスカウトを受けたレコード会社から最終的にZoo Entertainmentとの契約を果たします。
1992年1stEP「Opiate」をリリース。デビュー前から人気を博した楽曲を集めた待望の音源となりました。この中に収録された「Hush」のMVではメンバーの全裸に隠された局部に、さらに口をダクトテープで塞ぐなどアバンギャルドなものでした。
しかしながらファンの勢いは止まらず、Rollins Band、Fishbone、Rage Against the Machine、White Zombie、 Corrosion of Conformityと言った名のあるオルタナロックの人気バンドたちと大規模ツアーを行い人気を確実のものにしていきます。
1993年。Nirvanaがアメリカで5プラチナを獲得したこの年はグランジ・ロックの熱も最高潮。TOOLは初のフルアルバム「Undertow」を発表します。「Opiate」の頃よりもダウナーで重たいサウンドを提示しこれがTOOLの音楽性を決定づけることとなりました。一方で、オリジナルメンバーであったポールが脱退。
1996年には2ndアルバム「Ænima(イマニマ)」をリリース。魂を意味するラテン語の「Anima」をもじり断食や儀式、魔術、宗教、麻薬などを難解な楽曲構築から行ったこのアルバムは、最もプログレッシブ・ロックから影響を受けたオルタナティブ・メタルアルバムとしてトリプルプラチナ(日本で言うトリプルミリオン)を獲得。
音楽が評価される一方で1997年に行ったエイプリルフールネタ(メンバーが高速バスの事故に遭い危機的状況であるといったもの)には批判が集中し謝罪。7月のフェスにヘッドライナーで出演するも新聞には批判的な記事が書かれました。
そんな破天荒なバンドのディスコグラフィもこれまた破天荒。TOOLは極度の寡作主義で1stアルバム「Undertow」から本作「Fear Inoculum」までオリジナルアルバムは通算5枚。26年というキャリアを積み人気のバンドでありながら作品のリリーススパンが異常に長いことで知られます。
本作に至っては実に13年ぶりと生まれた子に若干大人の兆しが見えるほどの期間を有しましたがこれまでのロックアルバムのありかたを覆す構成ですでに好セールスを記録しています。
メンバー
- Danny Carey – Drums, Synthesizer
- Justin Chancellor – Bass
- Adam Jones – Guitar
- Maynard James Keenan – Vocal
楽曲紹介
- Fear Inoculum
- Pneuma
- Litanie contre la Peur (※)
- Invincible
- Legion Inoculant (※)
- Descending
- Culling Voices
- Chocolate Chip Trip
- 7empest
- Mokingbeat (※)
本作は「7」という数字に焦点を当てたコンセプトアルバムになっており、CDアルバムでは全7曲、うち実に6曲が10分を超える長尺曲として書かれCDの容量目一杯の79分を収録しています。
デジタル配信ではそこへ(※)の3曲を追加し、アルバムを一つの作品としてよりスムーズにまとめ上げる関節部の役割を果たしています。収録時間は86分にも及ぶ超大作となりました。
これを作ったキーナンの口から「忍耐とリピートが必要である」と言われるほど、正直歌詞を理解しなければほぼ同じに聴こえるほどの振り切りぶり笑
基本はイントロのヴァースから大きな展開を作らずひたすら10分間語り続けるようなカタルシスを作らない楽曲構築。インターバルを長く持たせ盛り上がるまで時間をひたすらかけていく造りはまさに忍耐そのもの。楽器が少ないのもこれの要因の一つですね。
それでも#1「Fear Inoculum」で聴ける静かなチェロとSEの厳かなイントロだったり、Pink Floydの「Another Brick in the Wall」を彷彿とさせる#2「Pneuma」のディレイリフだったりと各曲で楽しめるポイントが用意されています。
ダウンチューニングのギターもこのバンドを示すの特徴の一つですが#4「Invincible」や#7「Culling Voices」ではそれに加えこれまたフロイドライクなクリーン〜クランチのアルペジオと変拍子、ポリリズムによるアプローチが印象的。
10分超えのオルタナメタルナンバー以外では唯一CDと配信で共通している#8「Chocolate Chip Trip」。その名の通りチップチューン的なピコピコサウンドがモチーフとなりながらシンセサイザーのみでデジタルにまとめ上げた小曲となります。
#6「Descending」やラスト#9「7empest」ではジョーンズのギターソロも聴かれ、取り分け#9はコンセプトを体現した7拍子の締めとなるナンバー。美しいクリーンアルペジオから粘りを感じるワウサウンド、ギターソロに至るまで本作の総括と呼べる一曲ととなっています。
最後に
個人的にはこれをオルタナとして聴く耳は捨てた方がいいなと感じました。しかしプログレとしてもやや怪しいアートロックな本作はドイツのエクスペリエンス・ポスト・メタルバンドThe Oceanなんかも思わせてくれました。
是非一度この魅惑のオルタナワールド、味わってみてはいかがでしょうか。
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タグ: プログレッシブ・メタル米プログレ
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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関口竜太
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Fear Inoculum,Descendingをはじめ先行発表されたものを除いてストリーミングでもYoutubeでもまだ一切聴いていません
なんとなく通常版CDが出回るまでおあずけを自らに課してます笑