Opeth「Pale Communion」: 豊かなバックグラウンドで魅せる!スウェディッシュ・プログレバンドの脱デスメタル其の二。
by 関口竜太 · 2019-09-23
おはようございます、ギタリストの関口です。
また台風がやってきていますが今日はこれから栃木の方へ出張です。飛ばされないようにヘヴィなプログレを重しにして行ってきます!
Pale Communion / Opeth
Opeth(オーペス)はスウェーデンのプログレッシブ・メタルバンド。
原点回帰の慣行化へ
ニューアルバム「In Cauda Venenum」のリリースが差し迫る中で、Opethが2011年に行った原点回帰と呼べる方向性の舵きりは、新鮮でありながら本来のトラッドなプログレが好きなファンにとってはこれ以上ないほどエキサイトした出来事でした。
2002-2003年に相次いで発表された「Deliverance」と「Damnation」ではOpethの動と静を異なる二つの作品に分けることで水と油を分離させたわけですが、デスメタルバンドがバラードアルバムを出すという普通ならあり得ない事象も、Mikael ÅkerfeldtとSteven Wilsonという二大カリスマの前ではまるで固定概念に囚われたこちらの想像力の欠如を問われているような気分になります。
とは言え、2008年には「Watershed」というオールドスクールなデスメタルアルバムが帰ってきましたし、やっぱり「Damnation」のソレは一過性のものであったのだなと誰もが確信したときです。
「Heritage」が登場したのは。
これまで通り芯のあるバンドサウンドで彼らのルーツの一つでもあるKing Crimsonらしいサウンドが鳴り響いて、それが「Damnation」とはまったく別物であることくらい誰の耳にも明らかでした。
しかし、そこには「Blackwater Park」や「Ghost Reveries」や、前作で帰ってきたはずの「Watershed」のようなデスメタル要素は一切なく、徹頭徹尾、完全なトラッドプログレへと変貌していたのです。
もはや「プログレメタル」と呼んでいいものかすらも怪しいのですがOpethのこと大好きだから呼んじゃいます。
この「Heritage」によるサウンドの変化は、さすがに多方面で戸惑いや賞賛など様々な評価が飛び交う文字通りの問題作となりましたが時間が過ぎればなんのその、緻密な構成に圧倒的演奏力の高さ、先人への絶え間ないリスペクトとOpethの持つ本質的な音楽性がむき出しにとなったデスメタル以上にダイレクトな作品として、確実に評価されなければおかしい名盤となりました。
本作「Pale Communion」はそれから3年後の2014年リリースの11thアルバム。おなじみTravis Smithのジャケットアートはいつも隠れたメッセージがあるものですが、額縁に飾られた3枚の絵にはそれぞれ17世紀スウェーデンの政治家Axel Oxenstierna(アクセル・オクセンティエナ)、紀元前の劇作家Publius Terentius Afer(テレンス)、ローマ時代の詩人Marcus Valerius Martialis(マルティアリス)の言葉がラテン語により引用されています。
メンバー
- Mikael Åkerfeldt – Vocal, Guitar
- Fredrik Åkesson – Guitar, Chorus
- Joakim Svalberg – Keyboard, Chorus
- Martín Méndez – Bass
- Martin Axenrot – Drums, Percussion
楽曲紹介
- Eternal Rains Will Come
- Cusp of Eternity
- Moon Above, Sun Below
- Elysian Woes
- Goblin
- River
- Voice of Treason
- Faith In Others
「トラッド・オーペス」としては2作目となる純然なプログレッシブ・ロック作品。
#1「Eternal Rains Will Come」は冒頭からEL&Pを彷彿とさせるキーボードブレイクで幕開け、フュージョンを感じさせるグルーヴィなドラムもオルガンも前作の流れを着実に思わせるものですが、ギターのコードアプローチなどデスメタル時代のOpethもしっかり踏襲している点など決して過去までなかったことにしない姿勢は尊敬して然り。
中盤2:30〜からはBig Big Trainのような中世ローマな雰囲気も存分に漂わせながらここでミカエルの太ましくセクシーなボーカルが登場。分厚いコーラスも前作から進化してきた部分ですね。アウトロはプログレメタルらしい変拍子とユニゾンのキメで本作に訪れた旅人を出迎えてくれます。
70年代路線になったとは言えOpethはメタルバンドです。通常ハードな演奏にエキサイトできなければメタルとは呼べませんが#2「Cusp of Eternity」はその辺の意見にしっかり応えていきます。ツーバスとそこへ追従してロー弦を16分に刻むギター、ダークサスペンスなリフや速弾きなどモダンで上質なメタル曲となります。
本作では他に#6「River」の後半や#7「Voice of Treason」など随所にメタル要素は散りばめてありますが、ジャズ・フュージョンの様相も取り込んだ本作において#2はそう言った意味で特異かもしれません。
唯一10分を超える長尺として描かれる#3「Moon Above, Sun Below」はアグレッシブな前半、アコースティックなパートから激しいギターソロ、重苦しいオルガンと重厚なコーラスで彩る3パートから成るハイライトの一つ。ギターはヘヴィでありながら豊かなボーカルワークと相変わらずグルーヴィなアクセンロットのドラミングが光ります。
「静オーペス」の象徴である#4「Elysian Woes」の神聖な空気に触れたあとはPink Floydの「Another Brick In The Wall」を彷彿とさせるディレイギターが印象的な#5「Goblin」へ。こちら4分半ほどのインターバルであり、クールに決めるブルーノートちっくなインプロヴィゼーション成分の摂取は「Heritage」を含んだこれまでのバンドでも珍しい一曲です。
Crosby, Stills, Nash & Youngらしいとも言われる#6「River」は先ほどもちらっと言った通り、前半は美しいコーラスに浸れる爽やかなアコースティック。ダイナミクスを制御したギターソロも魅力ですが、後半はEL&P的でありDeep Purple的でありと幅広いバックグラウンドを滲ませる文化的な一曲となります。
重厚なストリングスがミステリーを産む#7「Voice of Treason」。Opeth特有のオーギュメントによる怪しさと従来のダークメタルな一曲です。スティーブンが関わっている分Porcupine Treeっぽさもありますね。
メロトロンの寂しげな響きがKing Crimson「Starless」を思わせるラストナンバー#8「Faith In Others」。キーボードとボーカルが曲を支配し進めていく中でキラキラと散りばめられたアコースティックな他の楽器をまとめ上げ支える繊細なドラムがとても印象的です。
前作がかなりKing Crimson寄りの音楽性でしたが本作はより多方面に目を向けた作風になっていることが念頭に上げられ単にプログレの継承に止まらない色んな要素をOpethに組み込んだらどうなるか、そんな実験も垣間見れる秀作です。
ニューアルバム「In Cauda Venenum」ではどんな景色を見せてくれるのでしょうか。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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