xoxo(Kiss & Hug) EXTREME「The Both Sides Of The Bloom」: 今話題のプログレッシブ・アイドルをご存知ですか?2019年リリースの超本格的トータルアルバム!
by 関口竜太 · 2019-09-20
おはようございます、ギタリストの関口です。
前にプログレとアイドルの親和性について記事を書いたことがありましたが、今日は先日リリースされたばかりのこちらのアルバムをご紹介していきます!
The Both Sides Of The Bloom / xoxo(Kiss & Hug) EXTREME
xoxo(Kiss & Hug) EXTREME(キス・アンド・ハグ・エクストリーム、通称:キスエク)は、日本のアイドルグループ。
プロデューサー兼コンポーザーである大嶋尚之さんによりプロデュースされたプログレッシブ・ロックを扱うアイドルグループとなります。
経緯
結成は2015年。前身となるxoxo(Kiss & Hug)において本作にも収録される「鬱。」がシングルとしてリリースされますが、翌2016年に当時在籍していたメンバー全員が卒業する事態に見舞われます。
当時xoxoに加入予定だった楠芽瑠さんと新條ひかりさんの二人により、新たにxoxo(Kiss & Hug) EXTREME(以下:キスエク)が発足。現在のようなプログレッシブ色は出さず、ユニット名もSugary Hug (fromキスエク)という派生ユニットとして活動します。
同年には現在のメンバー一色萌さんと、同期でネネさんが加入。プログレッシブ・ロックアイドルとして本格始動します。
その後、2017年には新條さんとネネさんの卒業を経て、メンバーは楠さん、一色さん、研修生として新たに加入した小日向まおさん、小島りんさんの4人編成へ。CDのリリースや目黒鹿鳴館にてワンマンライブを行うなど精力的な活動を見せます。
今年に入り新たに研修生として浅水るりさんが加入。日本の21世紀プログレバンドとして海外のフェスにも参加する金属恵比須(きんぞくえびす)とのコラボでAnekdotenの「Nucleus」をカバーするなどよりプログレ的活動に根ざしていきます。
受験や体調不良で休業気味だった小日向さんが脱退する中、本作「The Both Sides Of The Bloom」が9月にリリース。その後事前に卒業を発表していた楠さんが9月16日をもって卒業しました。
アルバム参加メンバー
- 楠芽瑠 (2019年9月16日卒業)
- 一色萌
- 小島りん
- 浅水るり (研修生)
樹木に擬えたアイドルの一生
プログレにおいてコンセプトアルバムというのは一つの目標のようなものであり、そこまでコンセプト重視の内容でなくても方向性の確立しやすいプログレというジャンルの時点で作品そのものがコンセプト性を帯びてくるのはよくある話ではあります。
しかしながら、本作はアルバムを通して誕生から概念もしくは肉体の死にいたるまでアイドルの一生をまとめ上げたトータルコンセプトアルバムとして、同枠を超える重要な要素となっています。
先人たるさまざまなプログレの往年スタイルを継承、モチーフとしている本作はタイトルからPink Floydの「The Darkside Of The Moon」の意識が伺えます。それだけで狂気の意味合いがある「Moon」の韻を踏みながらアイドルらしい「Bloom」に置き換えた点などうまいなと個人的には思います。
樹木が生い茂るCDレーベルも銀色に光りどことなく月のクレーターっぽいです。
収録楽曲
- Birth
- 初恋の通り道
- オレンジ
- Salty Sky
- Time and tide wait for no man
- 鬱。
- 凛音 〜rinne〜
- アイドルの冥界下り
イントロからYesの「Yours Is No Disgrace」を彷彿とさせるオルガン全開の#1「Birth」は、プログレッシブながら四つ打ちが似合うオクターブ奏法のベースに宇宙的な空気感も持ち合わせた新感覚のアイドルソング。
アレンジ上当たり前のように登場する変拍子もMaison book girlが人気の現代では全然普通の領域になってきましたね。後半はオルガンにストリングスも混ざりシンフォニック性が押し出された、グループにとっても看板となりうる重要曲です。
ピアノとGenesisライクなSAW系のシーケンスから一人の少女の純朴たる恋心が歌われた#2「初恋の通り道」は変拍子も絶妙に絡みながらメンバーの掛け合い的ボーカルパートが聴きどころ。
変則的に聴かせるエレキピアノの#3「オレンジ」はプログレらしい陰鬱な空気がありつつもメロディラインが最もJ-POPらしい一曲。白玉でふわっと香るメロトロンとタイトなカッティングのギターが曲全体の雰囲気を引き締めます。中盤からはTommy heavenly風のゴシックテイストやメタルなインターバルもあり曲の切なさ満点です。
#4「Salty Sky」と#7「凛音 〜rinne〜」についてはバンド・アレンジにカンタベリー系のジャズロックバンドQuiのメンバーやピアノボーカルユニットonomatopelの工藤拓人さんらが参加。
- 林隆史 – Guitar (Qui)
- 瀬戸尚幸 – Bass (Qui)
- 吉田一夫 – Flute (Qui)
- 吉川弾 – Drums (Qui)
- 工藤拓人 – Keyboard (onomatopel)
#4はクリーンギターのアルペジオとピアノ、ヴァースにおけるフルートと霧のようなコーラスがより鬱蒼とした樹海のような雰囲気を織りなす中、ポップに仕立てられたサビとのギャップを楽しむ一曲。
#7は2018年にリリースされたシングルのカップリングとして収録されていた楽曲。同じくボーカルのメロディにユニゾンする形でフルートがフィーチャーされており、移りゆく季節に徐々に揺れ動く少女の心情を歌った楽曲。ジャズテイストに各パートのソロも用意されていてQuiとの明確なコラボレーションを感じさせます。
曲は前後しますが#5「Time and tide wait for no man」はYesを思わせるオルガンとタイトなロックギター、そしてEmerson, Lake & Palmerよろしくムーグシンセがアクセントとなったアッパーソング。曲全体に変拍子もたっぷり、3:50〜はオルガンソロも聴けたりしてポップながら王道のUKプログレとJ-POPのクロスオーバーといった具合です。
グループ初期、xoxo時代から存在する#6「鬱。」はRobert Fripp風のヘヴィなギターにこれまた雰囲気を独り占めするフルートが、イメージしやすいKing Crimson像を形成。どこか日本風のメロディと半分ナンセンスに感じる高難易度の歌詞、そして全員で歌い上げるポップなサビとキスエクのルーツ及び方向性を模索していたんだろうなという、初期ならではのエネルギッシュさが感じられて良いです。曲後半の叫びは一色さんかな?
ラストとなる#8「アイドルの冥界下り」。アイドルの赤裸々な悩みをリアルワールドに描いた問題作。アルバム一甘くポップに歌われる一方で、バンドサウンドの方は激しく下手するとDream Theaterに近い雰囲気すらも。2:24〜のインターバルは完全にPink Floydの「Breathe」です。3:26のキメからおよそ3分、エンディングに向け疾走してく過程で4:27あたりはメタル風のアレンジもあり近年のアニソンっぽさも感じるセンセーション。ラストは全体を包み込むストリングスのアンビエントとラップスティールによりフロイドっぽい締め方。
全8曲48分というコンパクトさで何周でもできてしまう、癖になる傑作だと思います!
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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