Spock’s Beard「The Oblivion Particle」: 激動のメンバー変遷の中で生み出された原点回帰も見られる2015年USプログレッシブの名盤!
by 関口竜太 · 2019-09-19
おはようございます、ギタリストの関口です。
以前お騒がせした手首の痛みですが無事完治いたしました!
前腕で手首にアクセスしている筋肉が固まっていて、そこをほぐすという治療なのですが、ほぐされた治療の副作用というか筋肉痛のようなもので次の日は悪化したんじゃないか?ってほどの痛み。
それでブログを書いたのですがそこから見る見る痛みが引いていきあれだけ違和感あったのに嘘のようです。
ちなみにほぐす筋肉は割と中っ側にあるため自分でやるのはなかなか困難です。逆にもう一方の手を痛めてしまう可能性もあるそうなのでしっかり接骨院や整体などでやってもらうのが良いいでしょう。
長くなりましたが今日もプログレを紹介していきます!
The Oblivion Particle / Spock’s Beard
Spock’s Beardは、アメリカのプログレッシブ・ロックバンド。
2000年代以降のバンド変遷
「2002年にオリジナルメンバーであるNeal Morseが脱退した」、というこの話はもう何度しているのかわかりませんがここがバンドにとって大きなターニングポイントなので耳タコなくらい毎度切り出しています。実はこの2002年にバンドにとってもう一つ転換期がありました。
それがドラムNick D’Vergilioという存在。
モーズ兄弟が始めたSpock’s Beardというバンドにおいてニックは結成当時から在籍していたオリジナルメンバーでした。
ニールが脱退した後、フロントマンである彼の後任としてしばらくドラマーであるニックがボーカルを務めることとなりました。当然、複雑な楽曲を演奏するバンドでドラムとボーカルの兼任は大変難しいものでしたが、レコーディングではドラムの収録も行い、ライブではサポートドラムを立てることで自らはボーカルに徹していました。
そうしてニックがボーカルを請け負った時期のアルバムが「Feel Euphoria(2003)」、「Octane(2005)」、「Spock’s Beard(2006)」、「X (2010)」の4枚。ファンからは楽曲の面で「ニールがいた方がよかった」との声も上がる中でバンドは駒を進め続け徐々に信頼を取り戻す大変な時期に貢献しました。
そんなニックが脱退したのが2011年。カナダを拠点とするかの有名なエンターテイメント劇団Cirque du Soleil(シルク・ドゥ・ソレイユ)での演奏により長期的にバンドを離れなくてはいけなくなったためでした。
バンドはまたもやボーカル変更を余儀なくされ、これで新たに加入したのがTed Leonaldです。テッドはアメリカのネオプログレバンドEnchantでボーカルも務める実力派で、以降テッドのボーカルはバンドを支える上でファンからも親しまれることとなります。
バンドは2013年、ニールとの一時的なコラボも利用した「Brief Nocturnes and Dreamless Sleep」で起死回生の一打を放ちます。その後リリースされた2015年12作目が本作「The Oblivion Particle」ですが、このアルバムを最後にニックの代打を担ってくれていたJimmy Keeganが脱退します。
昨年リリースされた「Noise Floor」はバンドで初めて正規ドラマー不在のアルバムとなりました。
アルバム参加メンバー
- Ted Leonard – Vocal, Guitar
- Alan Morse – Guitar, Chorus
- Ryo Okumoto – Keyboard
- Dave Meros – Bass, Chorus
- Jimmy Keegan – Drums, Percussion, Vocal, Chorus
-
その他参加アーティスト
- David Ragsdale – Violin
- Nick D’Virgilio – Drums on Bonus Track
楽曲紹介
- Tide of Time
- Minion
- Hell’s Not Enough
- Bennett Build A Time Machine
- Get Out While You Can
- A Better Way to Fly
- The Center Line
- To Be Free Again
- Disappear
- Iron Man (Bonus Track)
Black Sabbathのカヴァー曲#10「Iron Man」をボーナストラックに含んだ全10曲。ちなみにその#10ではニックがドラム、ベースのデイヴがボーカルを務めていてこの曲がテッド加入前にレコーディングされたものだとわかります。
さて本編ですがニール脱退以降は比較的硬派でコンパクトな楽曲が並ぶ傾向が強いですが本作には10分を超える楽曲も収録。
#1「Tide of Time」は70年代を彷彿とさせるオルガンリフから幕を開ける好感の持てるアプローチ。バンドにしばしば曲を提供しているStan Ausmusの楽曲で、タイトな演奏の上で鳴る伸びやかなテーマにニールの影を見てみたり。後半のインストパートはアーミングやスライドなど強烈な音揺れを狙ったインターバルが特徴的。
70年代後半〜80年代にかけアメリカン・プログレ・ハードで名を馳せたKansasを匂わせるような冒頭のコーラスと怪しい雰囲気漂うスロープログレッシブなナンバー#2「Minion」。奥本さんのキーボードワークが充実していて一人で兼任は大変なんじゃないかと心配になるほど出ずっぱりです。
70年代UK風のメロトロンとアコギがイントロで聴ける#3「Hell’s Not Enough」はサビではアメリカンらしいポップなメロディを内包し、ロックかつポップな安定感という訴えが伝わってきます。
ジミーによるボーカルを聴ける#4「Bennett Build A Time Machine」はカントリーチックな古臭さのある前半とヘヴィでミステリアスなインストパートである後半から成り立つ二面性ある楽曲。
#5「Get Out While You Can」はテッドのボーカリストとしての表現力が生かされているハイライトで、どこかAerosmithのSteven Tylerのような雰囲気も漂う大物感。
続く#6「A Better Way to Fly」は冒頭ピアノとSE、オルガンから入るバンドサウンドがなんともダークでお城系のジャパグレっぽさすら匂わせます。序盤のインターバルが終わると奥本さんによるYes風のオルガンが疾走感を掻き立てるアンサンブルへ。ジミーのドラムソロなどもありSpock’s Beardのプログレッシブな側面を存分に感じ取れる一曲です。
クラシカルなピアノの独奏で曲を挟んだ#7「The Center Line」は個人的にもお気に入りの一曲で、往年のファンも喜ぶ怪しさ満点のイントロと突き抜けるボーカルパートとのコントラストがたまりません。後半、トーンダウンから徐々にテンポアップしていくムーグシンセとギターのユニゾンはTransatlanticの「The Whilewind」を思わせます。
10分半の大作#8「To Be Free Again」は2000年以降のバンドを象徴するタイトなリズムワークを武器にした長編楽曲。テンポチェンジによって幾重にも表情を変える曲で、壮大なオーケストレーションを感じる一方、5:36〜の後半パートは静寂溢れるピアノアンサンブルとアランのエモーショナルなギターも主張してくるドラマティックな一曲となります。
本編ラストナンバー#9「Disappear」はチャーチオルガンとアコースティックな雰囲気とテッドのボーカルが今年発売されたニールのソロアルバムのような神聖な空気を生み出しています。中盤以降はこれまたニールから引き継いだ多重コーラスやムーグシンセなどのヴィンテージ楽器がクラシカルに彩る壮大なエンディングとなっています。なおゲストにKansasのヴァイオリニストDavid Ragsdaleが参加。
最後に
従来のSpock’s Beardらしいヴィンテージさとメンバーチェンジ2000年以降のタイトなコンテンポラリーさのバランスが秀逸な一枚です。
ニールが脱退してからシンフォニックな要素は影を薄めましたがそれでもとにかくキーボードがフィーチャーされるバンドなのだということを再認識させられました。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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