Jeff Beck「Blow By Blow」: ギタリストなら憧れる!?変拍子も巻き込んだ孤高のギターフュージョンアルバム!
by 関口竜太 · 2019-09-14
おはようございます、ギタリストの関口です。
普段プログレを扱っているとちょっとした数字にも過敏に反応してしまって、特に身近なのがカレンダー。
1月4日を1/4と書くとそれが拍子に見えたりして3/8とか5/8とか「今日は変拍子の日だな」って思ったりします(僕だけ?)。11/16なんかはなかなかの変態です。
なので毎月4日、8日、16日は人知れず日付を書くのが楽しかったりするのですが、なんでこんな話を14日になってするのか。
今月、つまり9月8日に書こうかなと思っていたアルバムがあったのです。ですがその日は「まだ手を付けてないアルバムは…」と言ってMartin Orfordのレビューを書いていました。
Martin Orford「The Old Road」: ベテランキーボディストが送る有終の美!自らの原風景に立ち返ったノスタルジックプログレ!
ですので完全に悪手、さっさと忘れて来年に繋げろと言われるところですがご紹介していきたいと思います。
Blow By Blow / Jeff Beck
Jeff Beck(ジェフ・ベック)は、イングランド出身のギタリスト。ジャンルはロック、ブルース、フュージョンなど。
漠然と憧れたキッズの時代
高校生の頃、友人の影響でJ-POPだった音楽の趣味はハードロック・ヘヴィメタルに移行、速弾きのギターソロがない音楽は退屈で聴いてられないとイキっていた時代が僕にもありました。
そんな狭い知見の中でも許せたメジャーな日本の音楽はB’zとJanne Da Arc。両者はまさにポップなメロと日本語のハードロックを見事に成立させており言わば飲みやすいカクテルみたいなものだったのですが、ギタリストで言えば松本孝弘さんに憧れてレスポールを使っていたりもしました。
そんな松本さんが1996年にリリースしたハードロックカバーのソロアルバム「Rock’n Roll Standard Club」を聴いていてやたらと刺さった曲がありました。それがJeff Beckの「Cause We’ve Ended As Lovers」。
ムードジャズにブルージィなギター、何よりギターインスト大好きだった僕は無性に元ネタであるこの曲を聴きたくなって初めてJeff Beckという人物について調べたのでした。
インターネットが普及し出した時代、まだまだ検索エンジンも充実していないころに有力な情報を掴むのは不慣れな面もあり大変でしたが、ヤングギターというギター雑誌の力も借りそれが彼のソロ1stアルバム「Blow By Blow」収録曲だというところまで突き止めたのです。
三大スーパーギタリストで最も天才で最も売れなかった
Jeff Beckが誕生したのは1944年。幼少からピアノのレッスンで音楽に触れ12歳のころにはロックンロールやロカビリーに憧れギターを手にし、以降ギターへの熱は75歳になる現在まで冷めていない運命的な出会いとなります。
1965年には当時から友人だったJimmy Pageに紹介されEric Claptonが抜けたThe Yardbirdsに加入、その後ペイジも加入し伝説のツインギター構成を成しますがベックは1966年12月に脱退します。
このThe Yardbirdsに在籍していた3人のギタリストのうち、クラプトンはDerek and the Dominosやソロとして大ヒット。ロックギタリストという枠を超えて全世界に親しまれる存在となります。一方、ペイジもハードロックバンドLed Zeppelinで大ブレイク。生まれも出身もジャンルも似ていたThe Yardbirds出身の3人で最も売れなかったのがベックでした。
とは言え鳴かず飛ばずというわけでもなく、The Yardbirds脱退後リリースしたソロ・シングル「Hi Ho Silver Lining」はチャート入りし大ヒット。それを足がかりにJeff Beck Groupを結成しここにはCozy Powelが在籍していたりと活動も好調でしたが、ベックがTim BogertとCarmine Appiceとのバンドを始めたくなったことでツアー中にメンバーを変更。Jeff Beck Groupが突如空中分解する形でBeck, Bogert & Appice(以下:BBA)が誕生します。
BBAはアルバムをリリースしヨーロッパツアーも行なっていましたが2ndアルバム製作のセッション中、ベックとボガードに確執が生まれてしまい解散。ベックのバンド活動は1974年で幕引きとなりました。
しかしながら最も多ジャンルで技巧派だった孤高のギタリストの本質はソロ活動にあると個人的には思います。
1975年、The Beatlesのプロデューサーでもあり「5人目のビートルズ」とまで言われたGeorge Martinをプロデューサーに迎え、当時流行していたフュージョンギターアルバムをリリース。これが本作「Blow By Blow」となります。
参加ミュージシャン
- Jeff Beck – Guitar
- Max Middleton – Keyboard
- Phil Chen – Bass
- Richard Bailey – Drums, Percussion
- Stevie Wonder – Clavinet
その他
- George Martin – Production, Arrengement
- Denim Bridges – Engineering
楽曲紹介
- You Know What I Mean
- She’s A Woman
- Constipated Duck
- Air Blower
- Scatterbrain
- Cause We’ve Ended As Lovers
- Thelonius
- Freeway Jam
- Diamond Dust
さて、生粋のロックキッズだった僕が10代に自らこのアルバムを聴いて思うことはずばり困惑でした。「これがJeff Beckの1stアルバム」ということ以外前情報がない状態で聴いたものだから半ば意図せずフュージョンという沼ジャンルに足を踏み入れてしまったわけです。
#1「You Know What I Mean(邦題:わかってくれるかい)」ではベック御用達のギターとキーボードによるユニゾンテーマ。ファンキーなカッティングも後半のブルージィなソロもすごくキャッチーだけどもっとズクズクしたものを期待していた当時の僕は結構肩透かしを食らったのでした。今では全くそう思わずアルバム自体大好きなんですけどね。
続く#2「She’s A Woman」や#3「Constipated Duck」においてもギターと同じく出しゃばってくる色気のあるキーボードが「もっとロックにならないの」と思ってたくらいで完全に目標が逸れた気分だったのですが、それもそのはずで当時は少ないお小遣いで何のCDを買うかは重要な事柄だったのでまぁ不満も漏れたのは若気の至りです。
対して#4「Air Blower」は結構好きでテーマのキャッチーさとザ・フュージョンを思わせるアグレッシブさが後々Larry CarltonとかT-SQUAREを聴くことにも繋がってきている気がします。この曲でJeff Beckという人物をなんとなく理解でき報われた感じがしますね。
そして冒頭の話に戻ると、わざわざカレンダーが拍子に見えるなんて回りくどいことを言ったのも#5「Scatterbrain」という名曲について語りたかったから。9/8をメインリフに持つこの曲はあらゆるギターインストでも最難関の一曲。今ではフィンガーピッキングでお馴染みのベックでも当時はピックで弾いていたというくらいのテクニカル・フュージョンでした。
速いパッセージが好きだった17歳の僕が70年代も捨てたもんじゃねえ!と思える初めての曲だったし今思えばフュージョンの持つ二面性ある楽曲展開もプログレという捻ねた嗜好に走るきかっけの一つだったかもしれません。
そして当初のお目当て#6「Cause We’ve Ended As Lovers(邦題:哀しみの恋人達)」。今思えばがっつりフュージョンだったね、という反省も松本さんのサスティンの強いブルースギターによってかき消されてました。というか多少のアーティキュレーションに差はあれど松本さんバージョンも完コピ並みのカヴァーなんですよね。一見インプロに思えるこの曲も実はキメキメだったのか、それとも好きに弾くと顰蹙を買うから敢えての完コピだったのか、そこはわかりませんけどね。
ちなみにこの曲の作曲はStevie Wonder。元はStevie Wonder Presents Syreeta用に作られ1974年に発表された楽曲。Syreeta Wrightのボーカル曲として聴け、そもそもR&Bだったのでフュージョンとも違ったというオチ付き。続くファンキーな#7「Thelonius」もワンダーによる作曲ですがこの曲ではクラビネットも披露しています。
#8「Freeway Jam」はキーボディストミドルトンの作曲したナンバー。この曲が一番ビートとしてはロックなのかもしれませんがHerbie Hancockっぽさもあるシャッフル。
ラスト#9「Diamond Dust」はオーケストレーションがすばらしいバラード。これはプロデューサーであるジョージの仕事ぶりが発揮されています。Jeff Beck Groupに在籍していたボーカルBobby Tenchが結成したHummingbirdというUKロックバンドのギタリストBernie Hollandによる作曲。曲から本人のプレイスタイルも垣間見れるスムースジャズっぽさが溢れています。
最後に
いろんな意味で勉強になった本作、極め付けで惹かれたのはジャケットでベックが持っているギター。初期のトレードマークであるエボニーカラーのレスポールを当時から僕も使っていたのが運命的な何かでしたね。
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タグ: ジャズ/フュージョン
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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