Subsignal「The Beacons of Somewhere Sometimes」: 「サブ」から「メイン」へ。ヘヴィかつ繊細なギターにコーラスが押し寄せる独プログレメタル!
by 関口竜太 · 2019-09-04
おはようございます、ギタリストの関口です。
めっきり秋っぽいですが気を抜くとまだまだ真夏日があったりして涼しい気候に慣れた体には堪えます。湿度も高いので体調管理にも気をつけたいです。
というわけで本日もプログレの紹介をしていきます!
The Beacons of Somewhere Sometimes / Subsignal
The Beacons of Somewhere Sometimes
Subsignal(サブシグナル)は、ドイツのプログレッシブ・ロック/メタルバンド。
「Sub」からメインへ
古くから実験音楽、クラウトロックとしてプログレッシブな音楽の進化に貢献してきたドイツ。1980年代、そんなドイツからデビューしたバンドがありました。
Sieges Even(ジーギス・イーブン)というバンドで内容はプログレッシブ・メタル。ダウンチューニングを利用したヘヴィなギターを有しながらも、クリーンなボーカルとアルペジオ、プログレ期のYesのような繊細なメロディセンスも内包し壮大なテーマを展開したロックバンドです。
そのSieges EvenのボーカルArno MensesとギタリストMarkus Steffenがバンドのサイドプロジェクトとして立ち上げたのがSubsignal。
どんな気持ちでこのサイドプロジェクトを立ち上げたのか、それはわからず「Subsignal」というバンド名からしてもSieges Evenの二番手という意味合いが込められていてもおかしくはありません。
ただ、Subsignalを立ち上げた2008年、メインの活動であるSieges Evenは解散をしてしまいます。
解散の経緯もこれまた不明ですがSieges Evenには元々メンセスとステフェン以外にOliver Holzwarth(Ba)とAlex Holzwarth(Dr)という兄弟がいました。このホールズワース兄弟は唯一のオリジナルメンバーであり、20年あまりのバンドの歴史で代わっていくメンバーを見てきました。その兄弟の意思によるものだろうと個人的には思っています。
なおSubsignalとしての初めての楽曲(つまりはメンセスとステフェンの共作)「A Wallflower On The Day Of Saint Juliana」はSieges Evenのスタジオラストアルバム「Paramount」に「Eyes Wide Open」というタイトルで収録されています。
そうして二人の活動にとってサブからメインとなったSubsignalにはドイツのプログレメタルバンドDreamscapeのベースRalf SchwagerとSun CagedのキーボードDavid Bertokが加入(デイビッドはその後脱退)。ドラマーにはオランダのメタルバンドPowerwolfbのRoel van HeldenやDreamscapeのDanilo Batdorfなどが参加しています。
アルバム参加メンバー
- Arno Menses – Vocal
- Markus Steffen – Guitar
- Ralf Schwager – Bass
- Dirk Brand – Drums
- Markus Maichel – Keyboard
楽曲紹介
- The Calm (Instrumental)
- Tempest
- A Time Out of Joint
- And the Rain Wil Wash It All Away
- Ashes of Summer
- A Myth Written on Water
- Everything Is Lost
- The Beasons of Somewhere Sometimes, Pt.1: Maelstorm
- The Beasons of Somewhere Sometimes, Pt.2: The Path
- The Beasons of Somewhere Sometimes, Pt.3: In This Blinding Light
- The Beasons of Somewhere Sometimes, Pt.4: A Canopy of Stars
本作は2015年にリリースされた4thアルバム。
バンドのテーマとしてメランコリックな雰囲気が特にフィーチャーされたポイントではありますが本作ではその側面がより強まり「損失」や「別れ」、「予測不能の出来事」といったようなテーマが扱われています。
サウンド面はSieges Evenを踏襲し7弦ギターを使用したヘヴィネスで厚みのある楽曲。そこへクリーンのアルペジオによるメロディや豊かなコーラスワークが加わり、オルタナロックやエモ、ポストロックの様相も兼ね備えています。
#1「The Calm」は1分半ほどのオープニングインスト。ピアノとフルートが奏でるトラッドプログレの雰囲気がジャケットの持つ孤独な空気感を産んでいます。そこからギターのアルペジオがフェードインしていき繋がる#2「Tempest」。ヘヴィな中でも奏でられるアルペジオやオクターブなど細かなアプローチ、6/8のサビとの緩急をつけた構成が複雑に絡む琴線に触れる一曲です。
#3「A Time Out of Joint」。歌の導入こそ美しいピアノで繊細に始まりますが、全体的には音の壁のような分厚い音像を押し出したヘヴィチューン。変拍子によるキャッチーなサビとステフェンのギターソロが特徴的。
先ほど「豊かなコーラスワーク」という話をしましたがそれがこの曲#4「And the Rain Wil Wash It All Away」。ポップで明るいメロディは暗さが推し出された本作でも一時安らぎを与えてくれます。転調からのギターソロもこれまた気持ちいい!
後期Rushのような雰囲気の#5「Ashes of Summer」はライドを効かせたドラムと、メインボーカルとコーラスとの掛け合いで駆け抜ける一曲。新任のキーボディストMarkus Maichelによるテクニカルなプレイングも聴きどころです。
全体的に長尺気味のSubsignalですがその真骨頂たるは#8〜#11の23分に渡る組曲「The Beasons of Somewhere Sometimes」。このアルバム自体コンセプトアルバムではないのですがこの組曲とイントロと思しき#1との伏線によってトータルで締められている印象を受けます。
組曲ではありますが各パート、明確に終わりが示されていてシームレスにしすぎないことで単発でも聴けるというライト層向けの仕掛け。同じテーマで4曲作ったのでそれを繋げましたという印象ですがこれまで通りのハイクオリティです。
個人的にはパート3に当たる「In This Blinding Light」が重苦しいピアノと荘厳なコーラス、そして#1を再び想起させるフルートや12弦ギターなど、クラシック&トラッドなものが好きな人間としてはゆったり感傷に浸れるのでおすすめ。
プログレメタル好きにはプログレッシブなシンセリードとテクニカルなインストパートを持つパート4「A Canopy of Star」も是非推してあげたいです!
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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