Marillion「Script For A Jester’s Tear」: 80年代に勃興したプログレ新スタイル「ネオプログレッシブ・ロック」。敵はプログレファンだった!?

おはようございます、ギタリストの関口です。

今日はイギリスのバンドMarillionのアルバムをご紹介していくのですが、それと同時にネオプログレッシブ・ロックについても書いていきます。

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Script For A Jester’s Tear / Marillion


独り芝居の道化師(紙ジャケット仕様)

Marillion(マリリオン)はイギリス、イングランド出身のプログレッシブ・ロックバンド。80年代に誕生したプログレの新スタイル、ネオプログレッシブ・ロック(ポンプ・ロック)の代表的バンドとして現在まで活動が続きます。

プログレの衰退


プログレッシブ・ロックにとってはまさに種まきと実りと収穫が同時に行われるほどシーンが盛んだった1970年代前期

大人気の五大プログレバンドを筆頭にイギリスはもちろんヨーロッパの各地で彼らを模したバンドが多く現れます。中にはGentle Giant、Strawbs、Camel、Jethro Tull、Mike Oldfieldなど単に流行に乗るだけではなく独自の解釈と特性でシーンを盛り上げる素晴らしいアーティストに恵まれていきます。

しかし存在が巨大なほどその反動は大きいものです。

溢れかえったプログレバンドによりシーンは飽和状態、1974年をピークに徐々に陰りが見え出します。そして同じイギリスより政治批判とついでにこのプログレという音楽に対してのアンチテーゼとしてパンク・ロック、ニューウェーブが勃興。数年に渡り複雑な音楽が世に溢れていた現状から、人々はよりシンプルな音楽を嗜好するようになります。

そうして昨日まで実りの秋が永遠に続くかと思われていたプログレッシブ・ロックというジャンルは一気に氷河期を迎えることになりました。

困ったのはプログレバンドたち。セールスは伸び悩み、あの五大プログレバンドですら解散か方向性の変更という二択に、どのみち船を乗り捨てなければいけない状態になりました。

このとき真っ先に解散を決断したのがKing Crimson(衰退というより単にメンバーの不仲)、続いてEmerson, Lake & PalmerGenesisやSteve Howeが抜けたYesなどはポップなニューウェーブ方面に舵を切ることで延命します。Pink Floydは1979年に発表した「The Wall」が大ヒットを記録しますが80年代に入ると活動休止に入りソロ活動へ分散していきました。

完全に時代の長物とされたプログレッシブ・ロックでしたが、トータルセールスが伸び悩むジャンルとして認識される一方、音楽的な人気はまだまだ熱を持っていました。

特に現代でも言えることですが時代というものは繰り返すのが常。80年代に入りしばらくすると「やはり70年代初期のプログレはいい時代だった」と少なからず再評価の兆しが見え、そこへ全盛期のプログレを踏襲しながら80年代のプログレ新時代へ向けたバンドが動き出します。

それがMarillionです。

ネオプログレッシブ・ロック(ポンプ・ロック)の勃興


Marillionは1978年後半に前身であるThe Silmarillion(シルマリリオン)として結成。この時中心となったのはボーカルFishとベースDoug Irvine。翌79年にはギターSteve Rothery、ドラムMick Pointer、キーボードBrian Jellimanを迎え81年にバンド名を「Marillion」へ短縮。このときアーバインはバンドを抜けベースはDiz Minnittに変更となっています。

Marillionがデビューへと動き出した82年、ミニットとブライアンが脱退し新たにベーシストPete TrewavasとキーボディストMark Kellyが加入。ギターのスティーブと並びこの二人は現在まで在籍するメンバーとなります。

複雑な環境下で存続が難しくなった生物はそのフォルムや食料を変えたり、棲む場所を木の上とか穴の中とかにしたり、または毒を持ったり…つまりは進化をし環境に適応していきます。魚がなぜ水の中で呼吸ができるかと言われれば生まれた時から呼吸ができるからに違いなく、キリンの首が長いのは「長い個体が生き残りやすかった」という情報がキリンの歴史の中でDNAに記録されているからです。

ネオプログレッシブ・ロックは要するに一度死んだプログレッシブ・ロックが再生した形であり80年代のニューウェーブ時代に生まれその瞬間を生きることができたジャンルなのです。

楽器や音楽そのものが進化していく80年代という時代において、古き良き70年代のシンセスタイルなどを盛り込んだプログレの復興は注目を浴びMarillionは幅広く支持されることになります。

一方で、変革を求め進化していく細分化の難しいジャンルを総括して「Progressive(先進的)」と呼んでいたために「昔のスタイルを引っ張り出すなんてそもそもプログレじゃない」という批判も多く見られました。何より、プログレの復興に一躍買ったはずのネオプログレの敵は70年代を絶対視するプログレファンだったのです。

「プログレ」と呼ぶのがふさわしくないとなり代わりに呼ばれたのは華やかさを意味する「Pomp」という言葉。これによりネオプログレ勃興の80年代初期は、これをプログレと認めたくない一部のプログレファンにより「ポンプ・ロック」と呼ばれました。また「Pomp」には虚飾、虚栄という意味合いもあります。

アルバム参加メンバー


  • Fish – Vocal
  • Steve Rothery – Guitar
  • Pete Trewavas – Bass
  • Mark Kelly – Keyboard
  • Mick Pointer – Drums, Percussion

楽曲紹介


  1. Script For a Jester’s Tear
  2. He Knows You Knows
  3. The Web
  4. Garden Party
  5. Chelsea Monday
  6. Forgotten Sons

というわけでこちらがプログレの黄金期を踏襲し現在まで続くネオプログレッシブ・ロックと時代の継承に貢献したMarillionのデビューアルバム。

ハードロックを基調とした暗めのGenesisといった具合で、当時のボーカルフィッシュは全盛期のPeter Gabrielを彷彿とさせます。

表題曲でもある#1「Script For a Jester’s Tear」はシンセパッドとフィッシュのボーカルから静かに幕を開けます。聞かれるのは荒々しくも伸びやかなボーカルシンフォニック要素の強いシンセをフィーチャーし、まさにこれから全盛期を迎えるHR/HMのスタイルに先駆けたリードギター。邦題は「独り芝居の道化師」となるのですがプログレの長きに渡る暗黒期を象徴するかのような切ない仕上がりとなっています。

 

#2「He Knows You Knows」はMarillionの2ndシングル。薬物乱用がテーマの楽曲でありライブではしばしば「The Drug Song」と呼ばれることも。煌びやかなSAW波形シンセリードが実に70年代UK的でそこにビブラートを効かせたソロや繊細なコーラスアルペジオのギターが盛り込まれている代表曲です。

 

#4「Garden Party」は逆にこのアルバムよりシングルカットされた人気曲。裏で鳴り続けるシンセストリングスとギターアルペジオ、そしてかすかに聞こえる鳥のさえずりが爽やかな風景を表現しており、「過剰とも言えるほど難解で複雑でシアトリカル」という彼らに対する評価の示すところだと思います。

ムーディで哀愁の漂うバラード#5「Chelsea Monday」を経由しラストとなる#6「Forgotten Sons」はMarillion特有の二面性ある8分半のロックナンバー。ダーティな雰囲気の漂うボーカルとエモーショナルなギターによるバンドの魅力が詰まった一曲です。

なお1997年にリマスター版がリリースされており、そちらではDisc2にデビューシングルである「Market Square Heroes」や2ndシングルのB面「Charting the Single」、「Chelsea Monday」のデモなどが収録されています。

最後に


僕が生まれるのはこのアルバムより5年も後のことなので当時の様子を知りようもありませんが、Genesisが72年に示した「Foxtrot」や73年の「Selling England By the Pound」のような空気感を10年後再び味わえるというのは感慨深いのではないでしょうか。

まぁそれも現代から過去を見ることで感じられるのであって、当時からしたら熱狂した時代を汚されたくないファンがいてもおかしくはありません。

それでも、表面上は70年代プログレのリバイバルに見えたとして、ニューウェーブでもなければ70年代のUKロックでもない、新たな形の提案となるこの音楽は紛れもなくプログレのそれなのではないでしょうか。

関口竜太

東京都出身。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロギタリスト山口和也氏に師事。ロックやメタルに加え、ブルース、ファンク、ジャズなど幅広い演奏や音楽理論を学ぶ。 プログレッシブロック/メタルの大ファン。自身が企画するプログレッシブ・ロックプロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。

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