Dream Theater「Systematic Chaos」: 論理と混沌が同居する会心作!DTというバンドの形を手に取れる一枚!
by 関口竜太 · 2019-08-31
おはようございます、ギタリストの関口です。
8月ももう終わり、なんだかんだで夏は早い。明日からは9月で2019年も後半戦ですが僕としてはもっとも忙しい1ヶ月になりそうです。
季節の変わり目からか過去の腱鞘炎が少し痛むのですが、その他体調など演奏には支障ないように自愛したいものです。
Systematic Chaos / Dream Theater
Dream Theaterはアメリカのプログレッシブ・メタルバンド。
バンドのスタイルにフィーチャーした移籍後初アルバム
Roadrunner Recordsへ移籍後リリースされた初めての作品。
前作「Octavarium」はニューヨークのザ・ヒット・ファクトリー・スタジオで録音された最後のアルバムとなり、同じくDream Theaterのキャリアにとって2ndアルバム「Images And Words」より続いたAtlantic Recordsの契約任期満了による最後の作品ともなりました。
またDream Theater結成20周年ライブ「Score」もOctavariumツアーのラストとして行われており、これらは目に見えたターニングポイントでした。
往年のファンの中では1999年リリースの5thアルバム「Metropolis Pt.2: Scenes From A Memory」から8th「Octavarium」までが一つのルーティンで、本作「Systematic Chaos」にこれまでと違った流れを感じた人も少なくないと思います。
バンドにとってもそれは同様で新レーベルでの初出作品に対するモチベーションはかなり高く、またメンバー間における関係も過去最高だったと様々な記事を読んでも容易に得られるほど広く認知された時期でした。
5人は夏季休暇を取ったあと、過去には1997年の4thアルバム「Falling Into Infinity」をレコーディングしたニューヨークのAvatar Studiosで再結集します。
サウンド面に一躍買うエンジニアとして起用されたのはDream Theaterに影響を与えたRushやPorcupine Tree、Queensrÿcheを手がけるPaul Northfield。
ギタリストJohn Petrucciと当時のドラマーMike Portnoyが中心となりアルバムの方向性を決めていき「人がDream Theaterに期待するもの全て、ヘヴィでテクニカル、パワフルでダイナミック」という音像を目指した本作は、特別大きなコンセプトは設けない一方で、様々なタイプの楽曲がバランスよく並ぶDream Theaterというバンドにフォーカスを当てた意欲作となりました。
アルバム自体はRoadrunnerの積極的なプロモーションもあり、アメリカビルボードチャートではそれまでの最高位16位を獲得するなど商業的な成功にも貢献します。なお、その後リリースされた「Black Clouds & Silver Linings」が同チャートで6位を獲得し記録を大きく更新しています。
アルバム参加メンバー
- John Petrucci – Guitar
- Mike Portnoy – Drums, Chorus
- James LaBrie – Vocal
- John Myung – Bass
- Jordan Rudess – Keyboard
楽曲紹介
- In the Presence of Enemies – Part.1
Ⅰ. Prelude
Ⅱ. Resurrection - Forsaken
- Constant Motion
- The Dark Eternal Night
- Repentance
Ⅷ. Regret
Ⅸ. Restitution - Prophets of War
- The Ministry of Lost Soul
- In the Presence of Enemies – Part.2
Ⅲ. Heretic
Ⅳ. The Slaughter of the Damned
Ⅴ. The Reckoning
Ⅵ. Salvation
アルバムは全8曲。内、最初に作られた25分にも及ぶ大作「In the Presence of Enemies」をアルバムの最初と最後に二分割していることで実質7曲収録です。
6thアルバムから8thアルバムまで続く「アルバムナンバーと曲数がリンクする」という法則もここで切られており、「だがIn the Presence of EnemiesのPart.1がちょうど9分のため法則はこちらに引き継がれた」…と当時の雑誌では言われていましたが、個人的には正直こじつけかなとも思います。
そんな#1,#8「In the Presence of Enemies」はまず初めに書かれた楽曲で、25分という数字は6thアルバム収録の「Six Degrees Of Inner Turbulence」における42分の次に長尺となります。変則的なリフやディミニッシュの刻みによるスリリングなキメ、「Part.1」ラストでのギターとキーボードによる高速ユニゾンなどなど、人々がイメージするDream Theaterの音楽を最もデフォルメ化したと言ってもいいプログレメタル・エピック。
韓国のホラーミステリーコミック「The Priests」に触発されたペトルーシが、悪魔やダークマスターなどを題材にファンタジー調に書き上げた歌詞が特徴。中盤では#6「Proohets of War」のコーラスのために集められた有志ファン50人がこちらでもその叫びで参加しています。
#2「Forsaken」はスローテンポながらヘヴィにうねるDream Theater流ロックバラードの形で、ライブでもファンが歌えるようなサビの伸びやかさ、「Forsaken」と「Awaken」のように韻の踏みも絶好調、人気の高い曲です。
#3「Constant Motion」は先行配信されたシングルの一発目。珍しく16分のリフ上で聞かれるペトルーシのギターソロは、豪快に畳み掛けたあとG3で共演したJoe Satrianiの影響によるピッキングハーモニクスからのアームアップを披露しておりファンはニヤリとしたこと間違いなし。G3東京公演のライブDVDでサトリアーニがプレイするこのアーミングに興味津々なペトルーシの様子をチェックできます。
#4「The Dark Eternal Night」は意外とこれまでなかったとびきりヘヴィメタルなDream Theater像。クトゥルー神話などをヒントに永年眠っていたファラオが目覚め人々を襲うという内容の曲は中盤コミカルに展開するインストパートやエンディングのContinuumなどキーボディストJordan Rudessのアプローチが目覚ましい一曲。
またこの曲の歌詞に登場する「chaos」という言葉から相反する意味合いの「systematic」を引き出し本アルバムのタイトルとなっています。
#5「Repentance」は6th収録の「The Glass Prison」より続く「アルコール依存症を克服する12のステップ」をテーマにした、通称「12 Step Suite」のパート8と9。終盤の語りにはOpethのMikael Åkerfeldt、YesのJon Anderson、Porcupine TreeのSteven Wilson、このときすでにマイクと交流の深いNeal Morse、Steve Vai、Joe Satriani、David Ellefson、Pain Of SalvationのDaniel Gildenlöw、Steve Hogarth、Chris Jericho、Corey Taylorなどプログレ、メタル両面で活躍する超豪華ゲストたちが参加。
先述した#6「Proohets of War」はジェイムズによる歌詞でイラク戦争の背後にある、ある不純な動機の可能性を歌ったもの。あくまで推論を歌っているため直接的な政治批判にはなっていません。とは言え「12 Step Suite」もこの曲も、メタルバンドながらメッセージ性の強い歌詞もDream Theaterの特徴と言えます。
#7「The Ministry of Lost Soul」は単発で14分を超える大作バラード。歌メロをなぞるようなアコースティックギターの特徴的なアルペジオや2コーラス目で聴けるオブリなど繊細に紡ぐギターが印象的。中盤のインストパートでは3連を基本としたリフ、そこからソロ回し〜ユニゾンなどDream Theaterの典型と言うべき手法。個人的にもこれは大好きな1曲です。
最後に
僕がDream Theaterを初めて生で見たのがこのアルバムに伴うアジアツアーでした。
韓国、日本、シンガポールとアナウンスされ、そのうち日本は日本武道館のたった1日だったため思い出深いです。大学の帰りに一人で武道館まで行って寒空の下横断幕を撮ったりして、ライブ後は「Take The Timeが聴けた!」とか大騒ぎして。
Mike Portnoy在籍時のDream Theaterを観られたのも今となっては非常に貴重な出来事でしたね。
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タグ: プログレッシブ・メタル米プログレDream TheaterJames LaBrieJohn MyungJohn PetrucciJordan RudessMike Portnoy
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
Repentanceのギターソロは渋くていいですよね〜
何気にアルコール組曲で一番好きな曲だったりします(^^)