ALI PROJECT「薔薇架刑」: ガラパゴス音楽文化が産んだ「黒アリ」!日本におけるJ-POPとプログレとの付き合い方。
by 関口竜太 · 2019-08-29
おはようございます、ギタリストの関口です。
先日のTM NETWORKの記事から、日本のプログレについてもっと詳しくなった方がいいなと改めて感じました。
今日はプログレかと言われると微妙なラインではありますが少なからず現代音楽、アートロックとしての側面を持ち合わせているこちらのアルバムをご紹介していきます。
薔薇架刑 / ALI PROJECT
ALI PROJECTは日本のゴシック・ロック音楽ユニット。
日本のガラパゴス文化≠プログレ
日本という国を第三者視点から見つめると非常に独特な文化で構築されていると言わざるを得ません。
携帯電話、自動車およびカーナビシステム、ゲーム、音楽…
いわゆる「ガラパゴス化」と呼ばれる、大陸続きの欧米諸国とは違う島国ならではの文化のアップデートが日本固有の特徴として日進月歩、変化を続けています。
音楽においては古くから演歌というジャンルが国民に根付いており、古臭いと言われつつも年末の歌合戦においては若いアーティストの隙に流れ、それを蕎麦屋のラジオで聴いていると「今年ももう終わりか」なんて昭和から言われ続けた定番のフレーズをつい言ってみたくなります。
また演歌同様、古くからポップな大衆向け音楽として歌謡曲が存在し、さらにその時代時代の若者向けに作られた流行音楽として90年代以降はJ-POPが国内音楽市場のメインストリームとなっています。
このブログでは主にプログレッシブ・ロックについて書いているのですが、型にハマらない(ハメられない)音楽を広義にプログレと呼ぶのならば、J-POPも規模としては十分にプログレです。
ただ、世界的音楽ジャンルながら日本ではニッチな扱いを受けるプログレが、昨今のJ-POPとは明らかに温度差があるということもこれまた事実。
そして日本のガラパゴス化はプログレシーンにも影響を及ぼしており、YesやKing Crimsonなどの五大プログレバンドを意識した王道プログレバンドが存在する一方で、女性ボーカル(もしくは中性的な男性ボーカル)を立てゴシックファッションや中世の雰囲気、おとぎ話などをモチーフにした「お城系」と呼ばれるプログレスタイルも存在。
現在、日本の音楽でプログレは表立つことはありませんがゲーム音楽など市場に左右されにくいシーンでは作曲家の嗜好や影響によりそのような音楽が展開されることも珍しくなく、これについては海外からのファンも多いです。
スタイルを確立させた「黒アリ」への道
数々の日本の歌謡曲シーンを作詞により支える作家、松本一起(まつもと・いっき)さんが作曲家でキーボディスト片倉三起也(かたくら・みきや)さんに宝野アリカ(たからの・−)さんを紹介したところからALI PROJECTはスタートします。
活動開始は1985年。当初は「蟻プロジェクト」というユニット名で、1988年にこの名義でリリースした1stアルバム「幻想庭園」にてインディーズデビューをします。
4年後の1992年にはシングル「恋せよ乙女〜Love story of ZIPANG〜」にてメジャーデビュー。ユニット名をALI PROJECTに改名します。
デビュー当時から宝野さんが愛好しているゴシックファッションをモチーフに、当初は優しい世界観の楽曲が大半を締めましたが、2001年リリースの9thシングル「コッペリアの棺」においてダークかつ浮遊感のあるメロディ、フリューゲルホルンを用い東洋離れしたアレンジから通称「黒アリ」と呼ばれる新たなスタイルを確立することになります。
先述の「お城系」に近しい「黒アリ」スタイルは、激しいコードチェンジとシンフォニックな曲の雰囲気、コントラストを最大限強めたJ-POPとも言える複雑性が深夜アニメシーンに刺さり、タイアップとして起用される機会に多く恵まれることとなります。無論、アニメファンおよび、オタク文化と共に育った電波ソングファンたちの心を掴み、親しまれます。
メンバー
- 宝野アリカ(たからの・−) – Vocal, Lyrics
- 片倉三起也(かたくら・みきや) – Keyboard, Music
楽曲紹介
- 禁じられた遊び
- 聖少女領域
- 君がため、推しからざりし命さへ
- 春蚕
- 極楽荊姫
- 眠れる城
- S嬢の秘めやかな悔恨
- 名なしの森
- 阿修羅姫
- 薔薇獄乙女
- あたしがアリスだった頃
- 薔薇架刑
ALI PROJECTをよりメインシーンに押し上げたのがアニメ「ローゼンメイデン」の主題歌となった「禁じられた遊び」。
本作はそんな「ローゼンメイデン」関連の楽曲を多数収録した通称「ローゼンメイデン系ベストアルバム」。本日のテーマである「黒アリ」を心ゆくまで堪能できる一枚です。
シングルは#1「禁じられた遊び」、#2「聖少女領域」、#9「阿修羅姫」、10「薔薇獄乙女」。タイトなストリングスにスピード感のある打ち込みビートと早口なボーカルスタイル。テンション感溢れるコードワークはファンタジックでありながら近未来的であり、エキゾチックでありながらどことなく和の空気もあるという非常に立体的な作風。
アルバムの肝となるのはその4曲ですが、#3「君がため、推しからざりし命さへ」というヘヴィ・ロックやオリエンタルな雰囲気の#5「極楽荊姫」などアッパーチューンだけでもバリエーションが豊かなのは特筆すべき点です。
同じオリエンタルでもスローテンポの#4「春蚕」はまたテイストの違う一曲。ストリングスが全面に押し出され平坦な3連のサビが印象的です。
「黒アリ」があるなら「白アリ」もあるということで、#8「名なしの森」はポップなイントロと軽快なリズムマシーンに乗った曲でこれもローゼンメイデンキャラクターソング。
バラードとして用意された#6「眠れる城」、#7「S嬢の秘めやかな悔恨」、#7「あたしがアリスだった頃」がありますが、とりわけ#7はaikoに近い声質と王道のJ-POPをバックグラウンドに感じます。
ラストトラック#12「薔薇架刑」は本ベストアルバムのため書き下ろされた新曲でアルバムのタイトルトラックでもある締めのナンバー。これまでの「黒アリ」を踏襲しつつ、声楽やクラシックな要素も取り込んだ荘厳な一曲。単なるコンセプト・ベストアルバムをそれだけでは終わらせない芸術的方向性へ引き上げる意味で重要な楽曲だと思います。
最後に
アメリカの文学研究者でSF評論家の巽孝之さん著書による「プログレッシヴ・ロックの哲学」という本があります。
King Crimsonの「Thrak」に収録された「Dinosaur」を切り口にプログレと恐竜との関連性や失われしプログレッシブ・ロックの生体を紐解いていく小難しい内容の本なのですが「キメラの音楽」という項目に蟻プロジェクト時代の「幻想庭園」が紹介されています。
欧米のロマン主義文学が音楽を通じ「風流の美学」に再構築されたと評価されており、メンバーである宝野さんもこの記事に関して「プログレッシブ・ロックだった」と明言しています。
独自の文化により表立っては見えない国内プログレですが岩の下に、はたまた流れる風に乗って今日も密かに息づいています。
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タグ: 日プログレ
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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