TM NETWORK「Major Turn-Round」: 小室哲哉によるセールスを気にしない本気のプログレ作品!
by 関口竜太 · 2019-08-28
おはようございます、ギタリストの関口です。
先日こんなアルバムを手に入れたのでまずはそのツイートから。
ついに買っちゃった感あるTM Network唯一のプログレアルバム。小室さんの趣味全開で賛否両論らしいけどめっちゃ楽しみ。ロゴ!笑 pic.twitter.com/8ZnYrGrS5o
— せっちん@プログレの竜儀 (@KinpatsuKomeya) August 24, 2019
ついに買っちゃった感あるTM Network唯一のプログレアルバム。小室さんの趣味全開で賛否両論らしいけどめっちゃ楽しみ。ロゴ!笑
というわけで今日はこちらをご紹介していきます!
Major Turn-Round / TM NETWORK
TM NETWORKは日本のニュー・ウェイヴ・ユニット、エレクトロニカバンド。1980年代から活動を開始しJ-POPシーンの基礎を作った代表的なグループとなります。
小室さんの志向が反映されたグループ
TM NETWORK(以下:TMN)が結成されたのは1983年。それ以前は82年までSPEEDWAYというハード・ロックを基調としたバンドを展開していました。
共同制作者として作詞家でシンガー・ソングライターである小室みつ子さんが作詞を担当しています。小室哲哉さんと同姓ですが血縁関係はありません。
1984年にシングル「金曜日のライオン(Take it to the Lucky)」とアルバム「RAINBOW RAINBOW」を同時リリースする形でデビューします。
デビュー当初は「ライブを行わない代わりMV(PV)にはテレビCM界の大御所を起用する」というコンセプトがありましたが、これは実際には、小室さんの要求を満たすテクノサウンドを制作できる機材が高価だったため「ライブができなかった」というのが正解となります。
その後は「アルバム毎」や「何年かの周期」など小室さんの志向や興味、関心度に際して活動のテーマが変わりメンバーの宇都宮さん、木根さんとも理解を統一。最終的に「その時代でやりたいことを徹底してやる」「洋楽と邦楽の溝を研究しTMNが入り口となって洋楽の道案内をする」といったコンセプトに落ち着きます。またこれは小室さんのTMN以外の活動でも重要なキーワードになっています。
1987年に10thシングル「Get Wild」をリリース。これがアニメ「シティハンター」のエンディング・テーマ曲となったことで大ヒット。同アニメ、そしてTMNにとっても代表的な名曲となりました。
よくシンセサイザーとサンプラーいう点で坂本龍一さん率いるYMO(Yellow Magic Orchestra)と存在が被るという声があるのですが、YMOはフュージョンに寄せたインスト・バンドである一方、TMNはスタイリッシュなポップスを常に提示し打ち込みやトランス・サウンドが特徴。このスタイルは80年代〜90年代に掛け大流行し、B’zを始めとする90年代J-POPやアニソンに多大な影響を与えます。
なお、B’zの松本孝弘さんは1989年ごろまでTMNのサポート・ギターを担当しており、入れ替わるようにデビューしたB’zも当初は小室さんからの影響をもろに受けた音楽性をしていました。
インディーズからリリースされた数字を気にしないプログレアルバム
本作「Major Turn-Round」はまさにそんな影響力のあるTMNがコンセプトの一つである、「その時代でやりたいことを徹底してやる」という部分を体現したアルバム。
2000年にリリースされたこの作品はキーボーディスト小室哲哉という人間のプログレッシブ・ロックからの影響を前面に打ち出した異色の一枚となります。
83年にEPIC・ソニーからデビューし、この頃にはavexに所属していたTMNでしたが、本作においてはインディーズレーベル「Rojam Entertainment」からのリリースとなっているのも特徴で、小室哲哉の名前をもってしても日本におけるプログレの肩身の狭さを感じます。また当初はこのROJAM、新星堂、TSUTAYAでのみの販売となりました。
ツイートでも叫んだアルバムタイトル・ロゴ、デザインはYesやAsiaで有名なRoger Deanによるもの。Roger Deanが日本のバンドのロゴを手がけるのは他にエレクトリック・シープやYuka & Chronoshipなどいずれもプログレッシブ・ロックバンド。
アルバムのコンセプトは「何軒かのレコード店をはしごして、欲しいレコードを探した気持ち」「時代の閉塞感・虚無感」。
メンバー
- 小室哲哉 – Synthesizer, Piano, Hammond Organ, Guitar, Drums, Bass, DJ, Chorus, DTM
- 宇都宮隆 – Vocal, Guitar, Chorus, Bass
- 木根尚登 – Guitar, Piano, Harmonica, Bass, Chorus
共同制作者
- 小室みつ子 – Lyrics
その他参加ミュージシャン
- 葛城哲哉 – Guitar
- Cemine Rojas – Bass
- Simon Phillips – Drums
- 松尾和博 – Guitar
- 美久月千晴 – Bass
- 古川いち子 – Mastering
- Eddie Delena – Mix, Engineer
- 若公俊広・Chris Puram・Troy Gonzalez・Andrew Scheps・Tom Sweeney – Engineer
- 村上章久・岩佐俊秀 – Manipulator
楽曲紹介
- WORLDPLOOF
- IGNITION, SEQUENCE, START
- MAJOR TURN-ROUND
Ⅰ. FIRST IMPRESSION
Ⅱ. SECOND IMPRESSION
Ⅲ. THIRD IMPRESSION - PALE SHELTER
- WE ARE STARTING OVER
- MESSAGE
- CUBE
全7曲収録。その中でやはり一際目を引く3部構成の超大作「MAJOR TURN-ROUND」でしょうか。アルバム全体を通してもメロトロンやハモンド・オルガン、モーグ・シンセなど、’70年代プログレの代名詞的サウンドを惜しみなく取り入れており、超がつくほど本格的なサウンドプロデュース。
それでもあくまでTMNはTMNであり、小室さん始め宇都宮さんと木根さん3人で作っている独自の発色をしています。
#1「WORLDPLOOF」は水に飛び込むような音をサンプリングした30秒ほどのSE。実際にワイヤレスマイクを海に投げ入れ録音、マイクを壊すという逸話もあります。Mr.Childrenの「深海」に収録された「Dive」にも水に飛び込むSEがあり、こちらはPink Floydからの影響と思われます。
#2「IGNITION, SEQUENCE, START」はROJAMからリリースされた先行シングル。車のエンジン音をサンプリングしたクラブ・ミュージック風イントロからシンセプラックとハードなギターが特徴的。なおシングルでは打ち込みでしたがアルバムではTotoのSimon Phillipsが叩いています。
そして本作のメイン#3「MAJOR TURN-ROUND」。映画「パーフェクトストーム」に登場する「Turn Around」からヒントを得、ポジティブな意味合いを持つ「Turn Round」に変更。結果、奇しくもYesの「Roundabout」を想起させるタイトルになります。
ヒット・メーカーとしてミリオンを量産してきた小室さんから贈られる「本気のプログレッシブ・ロック」。「(セールスの)数字を気にしない」「コンセプトやテクニカルな演奏を楽しむ」という、音楽そのものへの熱意や興味が注がれ、聴いた人が印象に残った部分をもう一度「振り返ってもらう」という遊び心も込められているため、32分にも及ぶ大作となりました。
「Ⅰ. FIRST IMPRESSION」と「Ⅲ. THIRD IMPRESSION」はボーカルパートで間「Ⅱ. SECOND IMPRESSION」はインストパート。「Ⅱ」ではギターによるエモーショナルな速弾きやジャジーでセッション的要素の強いアドリブ・ピアノ・ソロを聴くことができ、TMNであることを忘れてしまいます。
#4「PALE SHELTER」は6/8を基調としアコギのアルペジオとハーモナイズされたリード・ギターで引っ張るバラード。#3の一節となる候補もあったようですが単発の曲として収録。居心地の悪いシェルターをテーマに生活感溢れる風景を歌っています。
#5「WE ARE STARTING OVER」#6「MESSAGE」はそれぞれROJAMよりリリースされたシングル。シングルはいずれもアルバムバージョンとなっていて#5は典型的なJ-POPバラード、#6は90年代の安室奈美恵やglobeを彷彿とさせる王道の小室サウンドポップです。
ラストは穏やかなピアノから始まる3拍子ナンバー#7「CUBE」。#4同様生活の息苦しさを歌ったバラード。ムーグシンセによるアウトロで静かにアルバムの幕を閉じます。
最後に
聴く前はYes感が強いのかなと思っていましたが、小室さんのプレイからはKeith Emersonを感じられたし「MAJOR TURN-ROUND」にはPink Floydっぽいアンビエントもあります。
ポップなメロディと日本語詩という側面が半ば異様にも感じられますが、’70年代の雰囲気をTMNサウンドに落とし込んだ総合プログレアルバムといった具合です。
日本のトップ・プロデューサーが手がけるプログレはこうなるのかと知見を広げる勉強にも大いに役立ちましたし、個人的には良アルバムでした。
ちなみに「Major Turn-Round」のアルバムを探すとAmazonなどで出品者から中古で買うしか選択肢がないのですが、このアルバムは後に「キヲクトキロク 〜 Major Turn-Round」として二枚組蔵出し音源のDisc2に収録されています。
Apple MusicなどサブスクにはありませんがiTunes Storeでダウンロード販売もされていますのでジャケットなど物品に拘らない方はそちらがオススメです。
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タグ: 日プログレ
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。