Moon Safari「Himlabacken Vol.1」: 夏の終わりに!ジャンルの印象を変えた鮮やかな「青春プログレ」。
by 関口竜太 · 2019-08-23
おはようございます、ギタリストの関口です。
最近Opethの来日もあって聴く音楽やアルバム紹介の傾向が若干暗かったので今日は明るく行きたいと思います。
同じくスウェーデンには変わりありませんが夏の終わりに爽やかな一枚です!
Himlabacken Vol.1 / Moon Safari
Moon Safari(ムーン・サファリ)はスウェーデンのプログレッシブ・ロックバンド。
ジャンルの印象を変えた青春フラワープログレ
結成は2003年。スウェーデンの中でもシェレフテオという湖と大自然に囲まれた地域でMoon Safariは生まれました。
当初のメンバーはキーボディストSimon Åkesson、ギタリストにPetter SandströmとAnthon Johansson(2005年に脱退)、ベーシストにJohan Westerlund、そしてドラマーにTobias Lundgren(2015年に脱退)という5人でのスタート。
スウェーデンの片田舎出身ではありましたがデモテープがThe Flower KingsのキーボディストTomas Bodinの目に止まることで注目を集めます。
トーマスプロデュースの元制作された1stアルバム「A Doorway to Summer」では、王道のシンフォニックサウンドに変拍子などプログレッシブなアプローチ、スムースでアコースティックなトラック、そして5部構成に及ぶ分厚いハーモニー…と、このときすでにMoon Safariの音楽性は確立されていて、とりわけその美しいハーモニーは話題を呼びました。
この1stアルバムや続く2ndアルバム「Blomljud」では夏、太陽、光、花など自然豊かなテーマが歌われることが多々あり、彼らが育ったシェレフテオの空気をまさにそのまま詰め込んだようなサウンドと、これまでのプログレッシブ・ロックに対する陰鬱な印象を吹き飛ばす爽やかな北欧の風となりました。
なおアルバムはBlomljud Recordsという独自のレーベルからのリリースとなっておりこれは2ndアルバムのタイトルになっています。なお「Blomljud」は「花の音」の意。
世界的に注目を浴びたのは2010年の3rdアルバム「Lover’s End」。印象的なジャケットとこれまでの音楽スタイルを突き詰めたロマンティックなコンセプトは大ヒット!
Moon Safari「Lover’s End」: 美しいコーラスワークが沁み渡る北欧ニューカマー2010年の名盤。
ちなみにこの「Lover’s End」はTwitter上で行われたATB「平成プログレベスト」にて第3位を獲得。現在では小規模ながら来日公演を果たすほど日本でも大人気のバンドへ成長を遂げました。
「平成プログレベスト」ランキング発表!結果を見て感じたこと。
メンバー
- Simon Åkesson – Vocal, Piano, Moog Synthesizer, Mellotron, Organ, etc…
- Petter Sandström – Vocal, Guitar
- Pontus Åkesson – Guitar, Mandolin, Chorus
- Johan Westerlund – Bass, Chorus
- Sebastian Åkesson – Keyboard, Guitar, Chorus
- Mikael Israelsson – Drums, Percussion, Chorus
楽曲紹介
- Kids
- Too Young to Say Goodbye
- Barfly
- Red White Blues
- My Little Man
- Diamonds
- Sugar Band
前作「Lover’s End」から3年、2013年にリリースされた現状最新アルバム。タイトルはHimlabackenというストックホルムの若干北に位置する小高い丘で「天国の丘」を意味するそうです。
母国スウェーデンを歌ったアルバムとして彼らの特徴的な音楽を推し進めたロックアルバムとなっています。
#1「Kids」は彼らの武器である多重コーラスによるオープニングナンバー。「本作もMoon Safariだよ」とファンを安心させてくれるという意味で重要性を帯びています。
アルバムが本格始動する#2「Too Young to Say Goodbye」はタイトル通りの爽やかなアコースティックロックナンバー。本作のリードトラックとなり、アルバムのコンセプトからしても彼ら自身の青春を謳ったエネルギッシュな一曲となっています。
#3「Mega Moon」は代名詞である多重コーラスを武器としながらオペラ的に切り替わる様々なプログレッションがなんとも印象的な8分超えの長尺曲。爽やかなBohemian Rhapsodyといえば伝わりやすいかもですが、後半はパワフルなビートで一気に盛り上げていきます。
Moon Safariにしては珍しくヘヴィなロックリフから開幕する#4「Barfly」。ボーカルパートでのピアノやアコギ、バックコーラスの美しさは健在でこの相反する両面が成立してしまう音楽的偏差値の高さにも驚かされます。
中盤は#5「Red White Blue」、#6「My Little Man」と心地よいバラードが続きます。#5のきらびやかなアコースティックサウンドに波のように押し寄せるコーラス、#6のJack Johnsonを思わせるフィンガーピッキングで北欧の原風景を思わせる弾き語りと、タイプは違えどどちらも琴線に触れる良曲です。
#7「Diamond」はMoon Safariを代表するメロディックなナンバー。前作で言う「The World’s Best Dreamer」のようにシンプルなメロディをつむぎながら中盤テクニカルなグループ・サウンズといった印象もある、これもバンドを知れる一曲。
ラストナンバー#8「Sugar Band」はゆったりとしたピアノとボーカルの入りながらもテンポチェンジから徐々にバンドサウンドへシフトし盛り上げていく9分半の大作。中盤以降のノッた展開はElton John風でもありますが最後は元のゆったりとしたテンポで幕を閉じる様も見られ、王道のプログレ精神を忘れない敬意を感じる曲です。
最後に
Vol.1と言うからにはVol.2が待たれるところで、過去のインタビューを漁っていたら2017年の段階ですでに50分に及ぶデモが出来上がっているようですが、リードボーカルのサイモンが精神的不調などで一度バンドを離れたりして若干足取りが不安定なようです。
ですがここまで見事に歯車の噛み合ったバンドはこの21世紀で類を見ないのでゆっくりでもいいのでアルバムを完成させ、是非また来日してほしいところです!
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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