Opeth「Heritage」: 飽和状態のメタルシーンにメスを入れた、デス要素完全撤廃の傑作にして問題作!
by 関口竜太 · 2019-08-19
おはようございます、ギタリストの関口です。
12月の来日公演に向けたOpeth強化月間…ぽくなっていますが意識するというのは大切なことです。
ニューアルバム「In Cauda Venenum」から新曲「Degnity」が公開されましたがめちゃくちゃエネルギッシュな楽曲です。メジャーキーのサビがあるだけでも驚きなのに冒頭の叫びですよ!ライブで見られること間違いなしっぽいのでしっかり予習しておかなくては!
というわけでプログレ紹介もOpethが続きますがお付き合いください!
Heritage / Opeth
Opeth(オーペス)はスウェーデンのプログレッシブ・メタルバンド。
Opethがデスを捨てた必然
およそ24年の歴史があるOpethの中で、プログレッシブ・ロックとデスメタルというのは切っても切り離せない特性です。
彼らだからこそこの世の深淵を覗いているようなダークな世界観が認められていたし、単にデスヴォイスを採用しただけのプログレメタルにならなかった、そこにOpethの本質が隠れていると個人的に思います。
「Heritage」はまさにその本質の部分に特化したアルバムとして、2011年にリリースされた問題作でした。
そもそもはこの一つ前の9thアルバム「Watershed」(2008年)のように凶悪なプログレデス路線で曲を書いていたフロントマンMikael Åkerfeldtでしたが、当時を振り返る彼は半ば飽和状態にあったメタルシーンに飽きが来ていたと語ります。
「自分たちはメタルシーンの郊外にいる」
デスメタルバンドのフロントマンでありながら音楽的バックグラウンドの広いミカエルは、Opethに対しても同様に境界線を設けないバンドの方向性をいつしか見出していました。そして自分たちが今聴きたい音楽を作るという決断の下で舵を切ったのです。
とは言いつつもデス廃止アルバムはこれが初めてではありません。
2003年にリリースされた7thアルバム「Damnation」は、常にOpethの側面の一つであるひたひたと湿ったアコースティックナンバーに重点をおいたアルバムでした。
しかし、そんな「Damnation」も長尺デスを打ち出した6thアルバム「Deliverance」(2002年)と対を成す、言わば陰陽の陰としてのニュアンスが強かったように感じます。(そもそもOpethに陽を感じられる場面は少ないですが…)
つまり本作「Heritage」はそんなセットメニューもない完全単体としてのプログレッシブ・ロック路線として提示された初めてのアルバムなのです。
もちろん、何も代償がなかったわけではありません。本作を最後に2005年「Ghost Reveries」より演奏していたキーボディストPer Wibergはバンドへの熱意を失い脱退しています。その後、タイトルトラック「Heritage」においてグランドピアノを演奏したJoakim Svalbergが現在のOpethを支えるキーボーディストの後任として決定しました。
メンバー
- Mikael Åkerfeldt – Vocal, Guitar
- Fredrik Åkesson – Guitar, Chorus
- Per Wiberg – Piano, Mellotoron, Keyboard
- Martín Méndez – Bass
- Martin Axenrot – Drums, Percussion
ゲストミュージシャン
- Alex Acuña – Percussion on #7「Famine」
- Björn J:son Lindh – Flute on #7「Famine」
- Joakim Svalberg – Grand Piano on #1「Heritage」
- Charlie Dodd – Sound Effects
生命感溢れる象徴的アートワーク
ジャケットを見てみましょう。
ジャケットアートは99年作「Still Life」よりOpethと良好な関係を築くTravis Smithによるものですが、これまでの深淵や荒廃を表現したようなモノトーンと違い、実に色鮮やかです。
木は生命を表し、現在まで成長を続けて来たバンドの象徴でもあります。一方で、根元から広がる地獄は彼らを構築するデスメタルのメタファー。地面に転がる頭蓋骨は脱退していったメンバーと数が一致し、木の右側には本作で脱退をするウィバーグの顔が描かれることで彼の旅立ちを表現しています。
右奥で燃え広がる建物は当時の彼らが思うメタルシーンそのものであり、本作が従来のデスメタルアルバムとは完全に別物であることを示唆しています。
楽曲紹介
- Heritage
- The Devil’s Orchard
- I Feel the Dark
- Slither
- Neopenth
- Häxprocess
- Famine
- The Lines In My Hand
- Folklore
- Marrow of the Earth
- Pyre (Bonus Track)
- Face In the Snow (Bonus Track)
このように実にアーティスティックな作風に仕上がった本作。全10曲57分でスペシャルエディション版にはCD-EXTRAという形でボーナストラックを2曲収録、本編の流れを損なわない作りとなっています。
美しいピアノのメロディにバンドの行く末を預けた#1「Heritage」。先述したように後任キーボディストであるヨアキムの名演ですが物悲しくも現実をしっかり見据えた意思を感じるメロディです。
#2「The Devil’s Orchard」では開幕キメフレーズとメロトロンによる王道プログレの様式。メインで用意された16分のリフもさながら、アルバム全体を通してファジーなギターサウンドがKing Crimsonを感じさせます。
続く#3「I Feel the Dark」、#4「Slither」や#7「Famine」もアコースティックからなる静と従来のヘヴィな動というOpethの二面性が健在の曲たちですがデスはまったくありません。後者でいえばかなりグルーヴィな風すら感じる出来で先ほどあるかわからないと言った「陽」の部分が登場しています。
#5「Neopenthe」はギターソロにおいてテクニカル性も感じられる一曲。バッキングは比較的ファンキーに16分のノリですがアーミングや速弾きで盛り上げグッと落とす、このバンドのただかき鳴らすだけじゃない演奏力の高さに思わずニヤついてしまいます。
グルーヴィ路線としては他に#8「The Lines In My Hand」など。Martín Méndezのベースラインが特徴的で軽めのドラミングとウワモノとのマッチングが気持ちいいです。
Opethといえば忘れちゃいけないプログレッシブさ。メロトロンによるアプローチが耳を引く#6「Häxprocess」や70年代から密かにそこにあったヘヴィロック#9「Folklore」など先人より継承したスタイルにOpethならではのメタル要素を加え、見事現代北欧のスタイルに昇華しています。
ラストナンバー#10「Marrow of the Earth」はアコースティックギターによる4分あまりのインスト。叙情性溢れる美しいメロディと後半から入るコーラス風サンプラーとのハーモニーがたまらなく気持ちいい締めです。
「Heritage」というのは「遺産」という意味がありますが、まさに過去の屍の上に成る未来への遺産としてロック、メタル、プログレッシブ、それらの垣根を超えられる一枚だと思います。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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