Opeth「Sorceress」: 北欧の暗黒神が打ち出したトラッドプログレの究極形
by 関口竜太 · 2019-08-15
こんにちは、ギタリストの関口です。
ニューアルバムと12月の来日公演に向けOpeth熱が止まらないここ最近。ですが2枚取ったチケットの相棒が未だ見つからないのでどうしたものか悩んでいます。。
ニューアルバム「In Cauda Venenum」から「Heart In Hand」が先行配信されていますが、どうやら前作に引き続きデス要素が薄めのようです。
これは新規ファンも入ってきやすいかもしれないですね。というわけ本日はこちらのアルバムをご紹介していきます!
Sorceress / Opeth
Opeth(オーペス)はスウェーデンのプログレッシブ・メタルバンド。
メンバー
- Mikael Åkerfeldt – Vocal, Guitar
- Fredrik Åkesson – Guitar, Chorus
- Joakim Svalberg – Keyboard, Chorus
- Martín Méndez – Bass
- Martin Axenrot – Drums, Percussion
デスメタルを廃止した継承型プログレメタル
70年代のUK五代プログレバンドの中でGenesisやYesをバックグラウンドに持つバンドは多いです。それらは非常にメロディックかつテクニカルで、一聴するだけで自分たちがプログレバンドなのだという主張と認識を共有するのが容易いからというのもあります。
一方で、リスペクトされながらも明確なフォロワーとなりづらかったのがPink FloydとKing Crimsonの二者。
Pink Floydはサイケ→プログレという特異な経歴を持ち、哲学的な歌詞で世界観に引き込む様はそう簡単には真似できないものでした。
そしてKing Crimson。これは中心にRobert Frippという絶対的な権力のカリスマを立て、それに認められた凄腕のプレイヤーが集結することで成り立ちました。
音楽性はヘヴィなものでしたがそこに類い稀なるメロディセンスが加わること、「プログレだから」とテンプレートや常套句に踊らされない確固たる芯がなくてはいけませんでした。
Opethはまさにそんなクリムゾン精神を受け継いだ体現者だと僕は思っています。
そして2001年の名盤5th「Blackwater Park」にてこれまたカリスマの音楽プロデューサーでありPorcupine TreeのギタリストSteven Wilsonが加わることで、フロントマンMikael Åkerfeldtとの強力タッグが実現!Opethの地位は完璧なものに近づきました。
Opethと言えばプログレッシブでありながらデスメタルの印象が強いというのがもっともらしい世俗の意見ですが、それを打ち砕いたのが10thアルバム「Heritage」でした。
Mikael Åkerfeldt中心の下、ヴィンテージプログレサウンドを追求したそれはOpethの脱メタル化を果たし、通り一辺倒だったプログレデスメタルバンドをパラレルワールドとでも言うべき完全別ルートへと導きました。
アルバムは非常に賛否の分かれる問題作でしたが、デスメタルが好きでOpethを聴いていたリスナーに対し、ミカエルが本来趣向する先人たちのスタイル継承を提案したことは、本作「Sorceress」に向けて大きな意味を持ったと言い切れるでしょう。
楽曲紹介
- Persephone
- Sorceress
- The Wilde Flowers
- Will O the Wisp
- Chrysalis
- Sorceress 2
- The Seventh Sojourn
- Strange Brew
- A Fleeting Glance
- Era
- Persephone (Slight Return)
- The Ward
- Spring MCMLXXIV
- Cusp of Eternity (Live)
- The Drapery Falls (Live)
- Voice of Treason (Live)
本編は全11曲。12曲目からはライブ音源を含む5曲のボーナストラックとなります。
#1「Persephone」はオープニングとなるアコースティックインスト。#11においてテーマを繰り返し作品をサンドイッチさせるマニア向けのコンセプトとなっています。
タイトルトラックの#2「Sorceress」と#3「The Wild Flower」は共に本作の特徴でもあるKing Crimsonを強く意識させる曲。ヘヴィなThe Flower Kingsとも取れ、変拍子による独自の間がOpethらしくもあります。
個人的に注目したい#5「Chrysalis」はキーボードソロも携えたシャッフルロック。アッパーでありながら「Opeth風」である重厚感と緊張感が素晴らしいです!
中盤以降、70年代オマージュのアコースティックナンバー#6「Sorceress 2」を皮切りに#7「The Seventh Sojourn」#8「Strange Brew」と入りはメロトロンも使った雰囲気と世界観たっぷりの曲が続きます。
#7はエスニック風のアプローチが印象的でデスメタルアルバムにはあまり前に出てこないシンフォニック要素に溢れるインスト曲。
#8は2分過ぎから電子音やシンセ駆使したテクニカルプログレの様相。Opethには珍しいこのスタイルはDream Theater的でありプログレファンにはこの曲が好きな人も多いと思います。
#9「A Fleeting Glance」はやはりな古典なプログレとジャズ/フュージョンが合わり、ミカエル特有の陰鬱さで味付けをしたフリーク向けナンバー。
#10「Era」は#11を除けば実質ラストナンバーですが、どちらかと言えば王道のメタル風味。いつもとは少し違うミカエルの別の魅力が感じられます。
一方で、アルバムを通して流暢で抜けのいいFredrik Åkessonのソロも本作の楽しみどころでデスをなくしてもOpethらしさを失わずバンドを進化させられたことにファンの心をがっちり掴んだ名盤となりました!
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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