Kino「Picture」: 英国スーパーグループのネオプログレ1st。何をもってプログレと呼ぶのかその一考察。
by 関口竜太 · 2019-08-12
おはようございます、ギタリストの関口です。
先週は米屋の仕事に疲弊していましたが、週末から作曲への意欲を取り戻し意識が飛ぶまで曲作り、仮眠を摂ったら再びパソコンに向かうというドラゴンボールみたいなことをしていました。
プログレという複雑な曲を作ることに頭を使っていたので、今日はもうちょっとシンプルにわかりやすい一枚をご紹介していきます。
Picture / Kino
Kino(キノ)はイギリスのプログレッシブ・ロックバンド。2004年に結成されたバンドで、80年代に活躍したソビエトのポストパンクバンド「Kino(キノー)」とは別です。
英ネオプログレのスーパーグループ
Kinoは2004年に結成されたニューエイジなバンドですが、その辺の若手バンドとは違うスーパーグループとなります。
このスーパーグループというのは過去にも記事に書きましたが、古くはEmerson, Lake & Palmer、80年代にはAsia、現在ではSons Of ApolloやThe Sea Withinなどが存在し、すでにキャリアを積んだベテラン勢によって結成されたバンドを総じてこのように呼びます。
Asia「Alpha」: 超有名コラボが見所の「スーパーグループ」とは。英Asiaに垣間見るヒットの法則。
メンバーはいずれも現在のUKプログレを支える大御所たち。
Pete Trewavas(ピート・トレワヴァス)は、ネオプログレ勃興の80年代初期に人気を博したMarillionのベーシスト。また、彼は99年に元Dream TheaterのMike Portnoyらと同じくスーパーグループであるTransatlanticを結成。一時はゲストでBig Big Trainにも参加するなど英国プログレの実力者です。
Marillionと同期で共に80年代のポンプロック期を支えたIt BitesからはキーボディストJohn Back(ジョン・バック)とJohn Michell(ジョン・ミシェル)が参加。ミシェルはイギリスで90年代から活動しているプログレバンドArenaのギタリストでもありハードでテクニカルなギタープレイを武器に活躍中。
結成当初のドラマーChris Maitland(クリス・メイトランド)の初めてのキャリアはTim BownessとSteven Wilsonという二大天才のユニットNo-Manのツアードラマーでした。その後、スティーブンから自身のカリスマバンドPorcupine Treeの参加を促され93年から02年まで在籍、計9枚のアルバムに参加した経歴の持ち主です。
Tim Bowness「Flowers at the Scene」: その多才性で本場イギリスに愛されたポストロック・シンガーの最新アルバム!Steven WilsonやJim Matheosも参加!
メンバー
- John Mitchell – Vocal, Guitar
- Pete Trewavas – Bass, Chorus
- John Beck – Keyboard, Chorus
- Chris Maitland – Drums, Percussion, Chorus
ドラムのクリスは本作のみでの参加、以降は2006年にIt BitesのBob Dalton、再結成から現在まではCraig Blundellが担当しています。
突き抜けるメロディアスハード
これだけのプログレ賢人が一堂に会すればさぞ超発想の変革ロックを聴けるのではないか、逆に理解がおいつかなかったらどうしようと心配になった方々へ、どうぞご安心ください。
Kinoの音楽はとてもシンプルなメロディアス・ハードロックとなっております!
とはいえ、カナダのHarem ScaremやUSのJourneyのような音楽を想像してしまうと違うのですが、先述した80年代のネオプログレ(ポンプロック)が持つどことなく陰鬱な空気を帯びながらその雲に向け一発ミサイルを放つかのような豪快なハードロックがこのKinoの持つスタイルとなります。
楽曲紹介
- Losers’s Day Parade
- Letting Go
- Leave a Light On
- Swimming in Women
- People
- All You See
- Perfect Tense
- Room for Two
- Holding On
- Picture
アルバムは全10曲。平均5〜6分ほどのコンパクトで聴きやすいタイトルが並びます。
その中で自身がプログレバンドだと主張するに値する#1「Losers’s Day Parade」は9分に及ぶ長尺となっていて、ボトムの効いたドラムとアルペジオを絡めたギターリフが印象的。中盤には鍵盤4つ打ちによるミュージカルな展開を有しそこからポリリズム的なリフへ繋いでいくのも面白い。サビではシンコペーションを活かした疾走感溢れるロックとなっています。
続く#2「Letting Go」。伸びやかなディストーションサウンドがボーカルとユニゾンしながらシンセサイザーが大きなアルペジオを奏でるイントロが印象的。ボーカルにかかった強めのリバーブがネオプログレの様式を踏襲し温かみを生んでいます。
鉄琴サウンドによるリズミカルなイントロが特徴の#3「Leave a Light On」。基本8ビートのシンプルな楽曲が続きますがそれを支えるクリスのドラムはテクニカルでありながら軽快で心地よい本作におけるバンドの核とも言えるでしょう。
#4「Swimming in Women」はシンフォニックメタルを連想させるスリリングなストリングスとピアノで彩る緊張感あるナンバー。フランジャーによる揺らぎのエフェクトも雰囲気を効果的に上げています。
Porcupine Tree的でもあるハードナンバー#5「People」はブリッジからサビに繋いでいく進行に強烈なドミナントモーションを使うなどテンション感とメロディが同居する秀逸曲。
メロウなバラードを披露する#6「All You See」。ギターソロではロータリーサウンドが広がりのある特異な雰囲気をもたらしています。ミシェルの伸びやかなボーカルとファルセットの切り替えもたまらないポイント!
#7「Perfect Tense」はこれまでの嗜好をまた一つ変えたポップでどことなくジャジーな空気も漂う一曲。キラキラとしたシンセは平成初期のJ-POPにも近いしテンションをしっかり拾っていくフュージョン的ソロもありバンドケミストリーの偉大さを感じます。
ポップパンクなストレートナンバーとなる#8「Room for Two」。アルバムの中で最も短い3分44秒という軽快なこの曲は少し緊張感を和らいでくれるお口直し的なポジション。ギターソロは開放弦を駆使した速弾きはAC/DC的でありVai的でありギターキッズが長らく忘れてた風を呼び戻してくれます。
12弦ギターのアルペジオとメロトロン風シンセから静かに幕を開けるバラード#9「Holding On」。中盤には変拍子リフにオルガンソロも聴けるプログレッシブなナンバー。
ラストのタイトル曲#10「Picture」は2分半程度の静かなエンディング。祭りのあとのような余韻と寂しさが残っており、もう一回だけならリピートしてしまう中毒性のあるアルバムでした!
最後に
このアルバムを聴くと今一度プログレッシブとはなんなのか考えさせられます。
リズムなのかテクニカルなのかコンセプトなのか、変拍子を使えばプログレなのか曲が長くないとプログレと呼べないのか様々あると思います。
プレイヤーがプログレバンド出身だからそのバンドはプログレになるのか、だとしたら世界中のいろんなバンドにプログレバンド出身者が散らばれば世界中の音楽がプログレになるんじゃないのかとか。
イギリスでは日本のようにジャンルを細分化させないので「プログレ」と一括りにされるのを嫌う傾向にあるようですが、どんな形であろうと「俺たちが作る音楽は俺たちのものだよ」と思わせてくれるから今日も明日もついていけます。
このアルバムに関してはプログレが本来持つ深みを一定水準保ちながら終始メロディックに仕上げられているのでプログレ初心者にもおすすめです!もっとも、Kinoまでたどり着いた人が初心者だと僕は思いませんが笑
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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