Spock’s Beard「Beware Of Darkness」 : プログレにおけるUKらしさとUSらしさとは?スタイル確立の過渡期にある王道作品!
by 関口竜太 · 2019-08-10
おはようございます、ギタリストの関口です。
8月もそろそろ中盤戦。昨日から初の4日開催となるコミケが始まったり、今日は5日開催のROCK IN JAPAN FES.3日目だったりと夏らしいイベントが今週もわんさか!
僕は昨日のコミケで欲しい同人誌があったのですが行けず仕舞いでしたので委託販売されることを切に願ってます!
さて、本日のプログレ紹介といきましょう!
Beware Of Darkness / Spock’s Beard
Spock’s Beard(スポックス・ビアード)はアメリカのプログレッシブ・ロックバンド。1992年に兄Alan Morse、弟Neal Morseの兄弟を中心に結成されたシンフォニック要素の強いバンドです。
アルバム参加メンバー
- Neal Morse – Vocal, Keyboard, Guitar
- Alan Morse – Guitar
- Nick D’Virgilio – Drums, Vocal
- Dave Meros – Bass
- Ryo Okumoto (奥本亮) – Keyboard
プログレにおける「UKらしさ」と「USらしさ」
本アルバムは1994年にデビューしたSpock’s Beardの2ndアルバムとなります。
現在はメインボーカルのニールが脱退し新たにTed Leonardが加入、よりアメリカンの強いプログレハードを展開していますが、ニール在籍時の中でも初期に当たるこちらはかなり強めのUK色を帯びていました。
そもそも、プログレにおいて「イギリスらしい」とか「アメリカらしい」という言葉はどういうことなのでしょうか。
すでに耳タコな話から始めるとすれば、プログレは60年代後半イギリスで生まれた音楽です。
厳密にはThe Beatles解散辺りから、より革新を求めた音楽が溢れ出し、後に「プログレッシブ・ロック」と呼ばれるようになったのですが、これが流行りすぎた上完全にテンプレート化。
飽和状態と化した70年代後半にはよりシンプルでわかりやすい音楽が好まれることで急速に廃れていきます。
そうして「時代の古き産物」となった後も、一時代を築いた敬意を込めこの「プログレ」という言葉は現代まで使われています。
初期のSBはこの70年代を代表するYesやGenesis、Gentle Giantと言った古きよきプログレッシブ・ロックのニュアンスを取り入れていて、オマージュにも近い王道に準えているからこそ「イギリスらしい」と呼べる、ということです。
逆に「アメリカらしい」というのはブルースやロックンロール、そしてハードロックでありダンサブルなニューウェーヴであり…ロンリーハート期のYesやAsiaなどはUK出身でありながらどことなくアメリカンな空気が漂っています。
楽曲紹介
- Beware of Darkness
- Thoughts
- The Doorway
- Chatauqua
- Walking On the Wind
- Waste Away
- Time Has Come
デビュー作である「The Light」ではたった4曲でありながら1時間にも及ぶ大作っぷりを見せつけてくれましたが、本作は少々大人しめな印象。
それでも十分すぎるボリュームでお腹いっぱいになれる一枚です。
#1「Beware of Darkness」、#3「The Doorway」では73年ごろのGenesisを思わせる豊かなシンフォニックロック。ですがこの曲からすでにSpock’s BeardもといNeal Morseスタイルの片鱗が伺えます。SAW系シンセソロやメロトロンも効果的で掴みはばっちり。
#2「Thoughts」は後に5thアルバム「Ⅴ」にてPt.2が、11thアルバム「Brief Nocturnes and Dreamless Sleep」にてPt.3が(Afterthought)、ニールのソロアルバム「Momentum」において「Pt.5」が展開されるシリーズの皮切り。Gentle Giantよろしくマドリガーレ風多重コーラスが聴きどころの変化球ナンバー。
#4「Chatauqua」は「Roundabout」を彷彿とさせる小曲のアコースティックナンバー。フォークタッチな流れの#6「Waste Away」はJethro Tullも思わせます。
#4から続くように流れる#5「Walking On the Wind」も共にYesを感じられる王道アプローチ。ハモンドオルガンとふくよかなコーラスによるUKリスペクト。楽曲そのものの古臭さこそあれどアメリカらしいポップなメロディセンスはSB特有の強みと言えるでしょう。
ラストナンバー#7「Time Has Come」は16分にも及ぶ大作。イントロではテーマやリフが目まぐるしく展開するオーヴァーチュアー的手法を採用しています。この一曲の中に詰め合わせたような贅沢感がSBとニール在籍時の王道スタイルですが、時代が進むに連れ構成などが次第にまとまりを帯びるようになります。
最後に
本作は70年代UKサウンドをベースにポップなメロディを展開、Spock’s Beardとそこに内在するNeal Morseという人物が新たなテンプレートを模索する姿を捉えることができる意欲作です。
聴きやすさで言えばこれ以降の「Ⅴ」や「Snow」には及ばないもののバンドの過渡期を描いた作品として非常に深みがある一枚だと思います。
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タグ: 米プログレNeal MorseSpock's Beard
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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