Opeth「Deliverance」: プログレ界の二大カリスマを双璧に「動」を前面に打ち出した北欧デスプログレの6th。
by 関口竜太 · 2019-08-09
おはようございます、ギタリストの関口です。
最近アルバムの紹介も古めのタイトルが多い気がするのですが、2週間くらい遡ったみたら意外にそうでもありませんでした。
連続して70年代初期をピックアップしたり極端に50年代のジャズを引っ張ってきたりしたせいでそのような感覚になるのかもしれません。
むしろ扱ってる年代としては2000年代が多く、当時から聴いていたアルバムや後に聴くこととなったアルバムなど、時代背景やサウンド面で理屈以外にも自分にすごく合っているんだなと感じます。
というわけで本日も2000年代。Opethのアルバムをご紹介していくこととします。
Deliverance / Opeth
Opeth(オーペス)はスウェーデンのプログレッシブ・メタルバンド。
「動」に徹底した6thアルバム
前作「Blackwater Park」においてPorcupine TreeのSteven Wilsonをプロデューサーに迎え、すでに才覚に溢れていたフロントマンMikael Åkerfeldtとの双璧によるOpethの快進撃が始まりました。
スティーブンを迎えたことで得た主な功績はそのダークなバンドのイメージ構築であり、単に複雑なデスメタルという初期のカテゴライズからプログレッシブ・ロックが本来持つ陰鬱で湿っぽい空気感を圧倒的に増量させることにありました。
そうしてリリースされた「Blackwater Park」は、その名の示す通りその後のOpethの方向性を確立する重力の特異点となりました。
本作はそんな前作の延長線的位置付けのアルバムでよく言われる「動」と「静」というOpethの二面性のうち「動」を全面に押し出した作品と言えます。
また本作のわずか5ヶ月後には7thアルバム「Damnation」がリリースされており、こちらは「静」を体現しデス要素を排除した一枚。
Opeth「Damnation」: スウェーデンのプログレデスバンド、哀愁特化の一枚。12月に来日公演決定!
アルバム参加メンバー
- Mikael Åkerfeldt(ミカエル・オーカーフェルト) – Vo,Gt
- Peter Lindgren(ペーター・リンドグレン) – Gt
- Martín Méndez(マーティン・メンデス) – Ba
- Martin Lopez(マーティン・ロペス) – Dr
楽曲紹介
- Wreath
- Deliverance
- A Fair Judgement
- For Absent Friends
- Master’s Apprentices
- By the Pain I See in Others
全6曲中5曲が10分を超える非常に大作志向な収録内容。
パッと聴きでは前作とあまり変わらないかなと思ってしまうのですが、その実とても繊細に織り込まれた楽曲が特徴です。基本はデスメタルですが音像はまろやかな印象。
#1「Wreath」、#2「Deliverance」、#5「Master’s Apprentices」ではOpeth特有のテンションを活かしたコードワークが聴けます。#1ではPeter Lindgrenのワウを踏んだギターソロがいつもより乗っている気がするし大ヒットした前作のプレッシャーを感じさせない勢いを持っています。
#2は7拍子のキメによるリズム提示がキャッチーに聞こえるタイトルナンバー。プログレッシブな要素を含んだ王道のデスメタルと言った具合でミカエルの色気溢れるサビも特徴的。
#3「A Fair Judgement」と#4「For Absent Friends」はバラード枠。ピアノと、King Crimsonに近い陰鬱さを有した#3とアコースティックなインターバルとして配置された2分ほどの#4。
#5は1960年代から2000年代まで活動したオーストラリアのプログレバンドThe Masters Apprenticesにちなんだ一曲。変拍子リフとボトムを効かせ闊歩するようなイメージから空間いっぱいに広がるようなクリーンボイスパートへの流れも健在。後半のアコースティックパートから今一度盛り上げフェードアウトしていく構成もモチーフを体現しているようでお見事!
ラストナンバー#6「By the Pain I See in Others」は様々な展開を含み駆け抜ける組曲的ナンバーで、10分ほどで終える本編の後に#5をマスキングしたアナログチックなエンディングが用意されています。
最後に
本作は次作「Damnation」と同時リリースする予定でしたがレコード会社に反対され5ヶ月というスパンを余儀なくされました。
しかし逆を返せばOpethほどの稼ぎ頭にダブルリリースをさせたくない意図も理解できなくないです。事実、アルバムは両方ともコンセプトになぞらえた素晴らしい出来で評価も高く、5ヶ月というスパンが「Damnation」をプロモーションするにも十分な期間を得られたため成功と言えるでしょう。
個人的に気づいたことですがアルバムが進むにつれタイトルが階段状になっているのが視覚的にも美しいポイントです。
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タグ: プログレッシブ・メタルプログレデスOpethSteven Wilson北欧プログレ
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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