Dream Theaterは「古臭い」音楽なのか?好きなものから自分を見つめるプロセス&批判する理屈を探すのは無駄というお話。
by 関口竜太 · 2019-07-25
おはようございます、ギタリストの関口です。
最近は曲作りや動画編集などやることに追われていていつもより夜更かし気味になります。
気持ち的には徹夜してやるぞって気分なのですが、経過を確認するため曲や動画を初めから再生しているとものの1分ほどでうとうと。
若干寝不足なのですがさっき外に出たら夏の匂いがしました。
というわけで今日のお話。
このブログでは主にプログレッシブ・ロックとプログレッシブ・メタルについて日々アルバムの紹介とかプログレそのものに対する考え方とかをご提示しているんですが、やはりニッチな音楽ジャンルなので偏見とかそもそもよくわからないって問題はつきまとうものです。
特にヘヴィメタルとプログレッシブ・ロックとを融合したプログレッシブ・メタルについては時に双方に確執を産むことがあります。
そんな中、ふと思い出したのがこの質問。
「ドリームシアターの良さが全然わかりません。ドリームシアターの良さを教えて下さい… 」
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1019969420
こちらは2008年にYahoo!知恵袋に投稿された質問。以下全文。
ドリームシアターの良さを教えて下さい。
補足
速度が中途半端なドラム、音圧のないギター、聴こえづらいベース、曲中での場違いなキーボード演奏の展開、クリプトプシーの方が超絶ではないでしょうか?
友人に会う度にドリームシアターの良さを力説されるのですが、何度聴いても良さがわかりません。
どうすれば良いのでしょうか?
もうその友人と友達関係をやめた方が良いのでしょうか?
特にメトロポリス、良さが理解出来ません。
…まぁちょっと釣りっぽい雰囲気も感じられるのですが、わざわざ補足しているところを見ると本人は至って真面目なようです。ですがそもそも質問の意図が明瞭ではなく、
- Dream Theaterの良さを知って今後好きになりたいのか?
- 人に説明させることで改めてDream Theaterは好きになれないという再認識をしたいのか?
- 引き合いに出しているCryptopsyと超絶議論をしたいのか?
- 友達と縁を切りたいのか?
どうもこの辺がわからない。
さすがYahoo!知恵袋という内容なのですが、これを見た時今よりネット社会に純朴だった僕は結構悩んでしまいました笑
Dream Theaterの魅力とは?
まぁその中で質問者の意図を汲むと、どうやら彼が理解できないのは
- 速度が中途半端なドラム
- 音圧のないギター
- 聴こえづらいベース
- 好き勝手に弾いているように聞こえる鍵盤
この辺について納得いかない箇所を挙げつつ、何故支持されるのかわからないと言ったところでしょうか。
そしてカナダのブルータル・デスメタルバンドであるCryptopsyを引き合いに出して「こっちの方が超絶では?」と言っているわけです。
もはやこの時点で「魅力を知りたい」のか「どちらが超絶か議論したい」のか支離滅裂になっていますが、Dream Theaterを好きになれないことについて好きな僕が結論づける早い話が「好みの問題」です。
以上です笑 好き嫌いは誰にだってあります。
そして超絶議論に関しては、そもそも「超絶」とか「テクニカル」に対する定義や認識の差があると思われます。
「超絶」に対する定義の差
Dream Theaterが言うプログレッシブなテクニカルというのは、1970年代に最盛期を迎えたプログレッシブ・ロックが基準となっており、それはYesやGenesis、Emerson, Lake & Palmerと言ったプログレバンドが築き上げた「原始的なテクニカル」の発展系です。
彼らのバンドコンセプトには万人受けする豊かなメロディラインというのが大前提として存在します。ですので単純に歌として聴ける許容を保ったまま、人が聴いて心地よいテンポ感や数学的理論と演奏技術を追求したのがDream Theaterです。
この「Dream Theaterらしさ」があれば必ずしもテクニカルである必要はないのです。実際ファンはそうです。
対してCryptopsyは、ドラマーのFlo Mounierが「メタル界最速」の異名を持つほどスピード感溢れるバンドで、テンポが掴めないレベルのブラストビートと随所に挟む速弾きやスラップなどの技巧を取り入れているバンドです。
なのでライブのオーディエンスのことを考えても常に超スピードで激しくある必要があります。メロウでクリーンな曲なんてファンは納得しないでしょう。
以上が2つのバンドの違い。もう一度言いますが「超絶」に対する考え方そのものが違うのです。
そしてそれはつまり「超絶」云々以前に「好みの差」ということになります。もしかしたら質問者には上原ひろみさんやTommy Emmanuelも「超絶」に分類されないかもしれません。
ベストアンサーに「自分」を再認識した瞬間
質問者についてちょっと書きすぎましたが本来書きたかったのはここから。あくまで昔の僕の感覚を今改めて考察していきます。
この質問に対してベストアンサーを獲得したこの言葉。
「古臭さを感じるので、昔のHR/HMに抵抗がある人は受け入れにくいかもしれません。」
まさにその通り!と思う一方、これだけ世に音楽が溢れる中、Dream Theaterから多大な影響を受けている僕は初めてこの意見を見たときこう思いました。
俺って古臭かったのかー!笑
Dream Theaterは「古臭い」音楽なのか
先ほど言った通り、Dream Theaterは70年代のプログレッシブ・ロックと80年代のMetallicaやIron Maidenと言ったヘヴィメタル双方の影響をクロスオーバーしたバンドです。かつては「Rush meets Metallica」と呼ばれ、古き良きプログレのエッセンスを取り込んだそれには「継承」という言葉がよく似合います。
そうして90年代にプログレッシブ・メタルというスタイルを確立させるのですが、Mike Portnoy在籍時には彼の音楽的バックグラウンドでもあるラップやファンクをたまに用いる以外は、基本90年代以降別のベクトルから生まれた音楽は取り入れていません。
2つを融合したスタイルはそれそのものは新鮮で、さらに卓越した演奏技術と先述したメロディが加わるので魅力がわからなくとも売れるほかないバンドなのですが、元を辿れば70年代UKロックと80年代メタルの融合です。
それを考えると2019年となった今では結構クラシックな音楽性なのかもしれません。
それでも30年間彼らが支持されてきたのは常に新しいことに挑戦してきたからでしょう。「マンネリ」という声も少なからず聞こえますが、プロダクションや機材の進化なども含めると彼らにとって真のマンネリはまだまだ先の話になると個人的には思います。
最後に
好きな音楽に対し「俺って古いのかもしれない」と昔は不安になったものですが、古い新しいで音楽を判断するのは無駄だなと改めて思いました。
もし真に完璧な音楽があるとしたら、その完璧を定義づけるために様々な比較と工夫を行う必要がありますし、その過程で生まれた音楽は最終的にすべて否定しなくてはなりません。
そういう世界に我々は生きていないし望んでもいないでしょう。
好き嫌いはときに理屈が通用しないこともあります。「生理的にムリ」という超個人的理論ですら適応されます。だからと言って受け入れられないものにもっともらしい理屈をつけて否定するより、好きなものを掘り下げていった方が有意義だと僕は考えています。
案外地下の奥深くで巣穴は繋がっているかもしれません。そしてそこを理解できればこの質問者もいずれDream Theaterを認めることができるでしょう。
Distance Over TIme(Limited Edition)(完全生産限定盤)(2CD)(特典なし)
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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