Anathema「We’re Here Because We’re Here」: 夏を感じるお盆プログレ!長い壕を抜けた先に見たその景色とは。
by 関口竜太 · 2019-07-14
おはようございます、ギタリストの関口です。
歯の矯正をしてから二度目の朝です。
昨日の夜は妻に誘われ近くの回転寿司へ行ったのですが、弾力のあるネタは噛みきれないしご飯粒は器具の隙間に入り込んでくるので全然食事に集中できない笑
「柔らかいネタを…」と思い、いくらとかトロとかアナゴとか、どれもそこそこの値段の皿を選んで男としては情けないわずか6皿ほどでフィニッシュ。あら汁が美味しかったなぁ。
帰宅後、創作活動に集中できるとも思えなかったのでロキソニンだけ飲んで寝ちゃいました。今朝起きたら違和感も引いていてようやく落ち着いてきた感じがします。
さて、そんな話とは別に東京はちょうどお盆です。
昨日も迎え火をやってご先祖様を招いたところですが、それがすぎればもう夏ですね!今日はそんな夏らしいプログレを紹介していきます!
We’re Here Because We’re Here / Anathema
Anathema(アナセマ)はイギリスのゴシックメタル(初期)/プログレッシブ・ロックバンド。
来歴
1990年にリバプールで結成されたAnathemaは、当初はゴシックメタルを主軸に構えた音楽性でした。
ゴシックメタルの「Gothic」は同じくイギリス出身のメタルバンドParadise Lostのアルバム「Gothic」に由来する陰鬱かつダウナーな音楽性ですが、AnathemaはこのParadise Lost、My Dying Brideらと共にゴシックメタル黎明期を支え、彼らは「The Peaceville Three」と呼ばれました。
そんなゴシックバンドの一角として1993年に1stアルバム「Serenades」をリリース。初期はまさにどメタルいう音楽性で、デスヴォイスにダウンチューニングも多用したグラインドなサウンド。
当時の代表曲「Sleepless」- from 「Serenades」
3rdアルバムくらいまではこんな感じなのですが、その前の1995年までデスヴォイスを振るっていたボーカルDarren Whiteが脱退。バンドは脱ゴシック、脱デスメタルを目指し徐々に音楽性をプログレッシブ・ロックへとシフトしていきます。
4thアルバム「Alternative 4」では依然としてメタルを基調とした音楽性ながらも静かなピアノと儚げなクリーンボイスのオープニングがあったり、繊細なギターのアルペジオを展開したりなど哀愁漂う様式にまでたどり着きます。
2004年。当時所属していたレーベルMusic for Nationsが、親会社であったZomba Music GroupとSony Musicとの合併により消滅。バンドは新たなレーベルを探すこととなります。
そんな転機を迎えたAnathemaに門を開いたのが現在のレーベルKscopeです。
Kscopeは元は親会社Snapper Musicから派生したプログレッシブ・ロックを専門に扱うレーベルで、当初はPorcupine TreeとそのフロントマンSteven Wilsonのみ在籍という独立小レーベルでした。
現在ではIan Andersonを初めAnekdotenやTangerine Dreamなどプログレッシブ・ロックの大御所からネオプログレバンドまで扱うレーベルへ成長しています。
ここに身を投じたAnathemaは2010年、それまでの音楽性を払拭した本格的なプログレッシブ・ロックアルバム「We’re Here Because We’re Here」をリリース。前作から実に7年の月日が経過していました。
アルバム参加メンバー
- Vincent Cavanagh – Vocal, Guitar
- Daniel Cavanagh – Guitar
- Jamie Cavanagh – Bass
- John Douglas – Percussion, Drums
- Lee Douglas – Vocal
- Les Smith – Keyboard
2000年より女性ボーカルLee Douglasが加入し、リズムギター/ボーカルVincent Cavanaghとツインボーカルスタイルになっているのが特徴。各メンバーもマイクを担うことで広がりのあるコーラスワークを展開しています。
なお本作はキーボードLes Smithのラストアルバム。
楽曲紹介
- Thin Air
- Summer Night Horizon
- Dreaming Light
- Everything
- Angels Walk Among Us
- Presence
- A Simple Mistake
- Get Off, Get Out
- Universal
- Hindsight
まず、有権者のみなさんに感じ取って欲しいのは雄大に開けたジャケットと、そこからすでに爽やかが溢れ出ているタイトル。
アルバムはSteven Wilsonプロデュースの元、クリーンで荒涼感のあるプログレッシブ・ロックサウンドに、ポストPorcupine Treeを思わせるエモーショナルなオルタナティブ・ロックも内包。
散々ボトムを効かしダークなデスメタルを展開していたバンドが、レーベル移籍後まず鳴らす音が「Thin Air(薄い空気)」という、ヤンキーが七三分けになった程度では済まない改心ぶりです!
サウンドもプログレとして嘘偽りなく完成しており、#1「Thin Air」からクリーンなギターとライトなドラム、そしてPink Floydを思わす柔和なボーカルによる叙情的アンビエントが繰り広げられます。
アルバムは#3「Dreaming Light」#4「Everything」#5「Angels Walk Among Us」など緩めのバラードが続きますが、#4ではリーとヴィンセントによるユニゾンボーカルが美しく空気を包んでくれます。このサウンドが現在まで続くAnathemaを体現していると思いますね。#5ではHIMのVille Valoがゲスト参加。
#2「Summer Night Horizon」や後半#8「Get Off, Get Out」では彼らのもう一つの特徴でもあるオルタナティブさが顕著に出ており、#2では緊張感あるシーケンスピアノが、#8ではメタルを完全に捨て切ってはいない激しめのバンドアンサンブルが印象的。
最後に
アルバムのタイトルは、日本では「蛍の光」で知られるスコットランドの民謡「Auld Lang Syne」から。
イギリス軍が主導となり連合各軍合わせて100万人以上の死者を出した第一次世界大戦時「ソンムの戦い」の最中、絶望的な戦況下のトレンチ塹壕内で兵士たちによって歌われました。
「We’re Here Because We’re Here」。
日本では「蛍の光」は別れのテーマでもあり、卒業式や引退セレモニー、身近なところだとお店の閉店間際にも流れます。
彼らにとって古きレーベルや音楽性との「別れ」はプレグレッシブ・ロックという新たな出会いと時代の幕開けでもありました。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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