Big Big Train「The Second Brightest Star」: 雨空に捧げる七夕プログレ!静かな夜にこそ聴き惚れてほしい!
おはようございます、ギタリストの関口です。
七夕なのに東京はあいにくの雨ですね。
もっとも今日は曲作りに当てる予定でしたのでさほど問題もないのですが、引きこもると決めたときほど出かけたくなる、出かけようと意気込むほど重い腰が上がらない、まさに天邪鬼です。
せっかく織姫と彦星が年に一回の銀河級遠距離恋愛を成就させる大切な日で、晴れていれば日本中の人が空を見上げて祝福するのに、非常に気ままでひねくれた雨がこの壮大なライブビューイングを許してはくれませんでした。
このひねくれていて気ままな雨に従って今日の僕も曲作りに引きこもると決めたのですが、雨が気ままなら下界の民も気ままですので濡れる靴にお構いなく出かけるかもしれませんね。
そんな日ですので、今日は星をテーマにしたプログレを一枚ご紹介したいと思います!
The Sencond Brightest Star / Big Big Train
Big Big Trainは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド。
Genesisより始まる英国情緒溢れるプログレを展開し、ストーリーを感じさせるシンフォニックな造りをした楽曲が特徴。メンバーは8人で変遷もそこそこありますが温かみのあるボーカルと豊かな演奏技術でイギリス本土やヨーロッパの雰囲気を曲に乗せ発信しています。
2000年以降のプログレリリース論
いきなり脇道にそれて恐縮ですが…
日本の音楽文化は世界で見ても特殊で、最近はそうでもないですが僕が学生の頃なんかは一年に1枚アルバムをリリースするのが当たり前、その間にタイアップされたシングルを2枚か3枚か分散してリリースする。さらにアーティストは日々ライブ活動も怠らずテレビにも出演します。
一体いつ休むんだと疑問ですが、返ってそれだけに洋楽のリリーススパンはゆっくりに思えて、3年に1枚出してくれればコンスタントな部類だし情報が逐一入ってくるわけでもないので、海外アーティストとは時間の流れ方が違うんじゃないかなとなんとなく考えてしまいます。
ところが最近の傾向、ことプログレッシブ・ロックに関してはCDリリースがとても精力的に行われている印象を受けます。
僕の大好きなNeal Morseなどはまさにその典型で、2000年以降ソロアルバムは実に18枚、サイドプロジェクトによるアルバムも10枚近くを数えるワーカホリックぶりです。
そのサイドプロジェクトの一端であるTransatlanticにも参加しThe Flower KingsのギターボーカルであるRoine Stoltについても同様。2000年以降フラキンのスタジオアルバムは8枚、しかも近年ではボーナスディスクが付随した2枚組というスタンスが当たり前になっておりこの界隈にはどうやら製作の泉が沸いているようです。
驚異のリリース快進撃を続ける道中2017年作
イギリスで1990年にデビューしたBig Big Trainも、コンスタントなリリースを続けファンを待たせないバンドの一つ。今年2019年にはヨーロッパを旅する壮大なテーマのコンセプトアルバム「Grand Tour」もリリースしました。
Big Big Train「Grand Tour」: 壮大なテーマで豊かなイタリアの風景を描く、イギリスネオプログレの最新アルバム!
その一つ前のアルバムとなるのが、前置きが長くなりましたが…本日ご紹介する2017年作「The Sencond Brightest Star」です。
この年、なんとBig Big Trainはスタジオアルバムを立て続けに2枚もリリースしており、本作はその2017年2枚目に当たる作品。
その前には2012年13年と「English Electric Part One」「English Electric Part Two」というシリーズ2作、2016年には英国ロイヤルなプログレスタイルの伝承「Folklore」もリリースされており、ここに来て製作の虫っぷりを発揮しています。
アルバム参加メンバー
- Greg Spawton – Guitar, Vocals, Keyboard, Bass
- Nick D’Virgilio – Drums, Vocals, Percussion,Guitars, Keyboard
- David Longdon – Lead vocal, Flute, Keyboards, Guitar, Bass
- Dave Gregory – Guitar
- Danny Manners – Keyboards, Double Bass
- Rachel Hall – Violin, Vocal
- Rikard Sjöblom – Keyboards, Guitar, Vocal
- Andy Poole – Guitar, Keyboard
アコギとキーボードのAndy Pooleは本作で脱退、現在はRobin Armstrongが担当しています。
ドラムのNick D’VirgilioはアメリカのプログレロックバンドSpock’s BeardやカナダのMystery、そしてGenesisのツアーメンバーにも参加するほど現代プログレでは重要人物の一人です。
楽曲紹介
- The Second Brightest Star
- Haymaking
- Skylon
- London Stone
- The Passing Window
- The Leaden Stour
- Terra Australis Incognita
- Brooklands Sequence
- London Plane Sequence
- The Gentleman’s Reprise
比較的アグレッシブでロックサイドな印象を与えてくれた2017年1作目の「Grimspound」に比べ、本作はその裏側に当たるような静寂で聴かせるプログレが並んでいるのが特徴。
タイトルナンバーでもある#1「The Second Brightest Star」からピアノとストリングスにより始まりアルバムの方向性は定義されます。
詰まるところ「このアルバムは部屋を締め切って、できれば少し暗くして、誰にも邪魔されない空間で腰を据えて聴いてね」ということです。
Procol HarumのGary Brookerを思わせる甘く太い声が持ち味のDavid Longdon。温かみあるボーカルとウィンドチャイムのキラキラとした雰囲気が、まるで夜空に向け語りかけるような楽曲に仕上がっています。
この静寂ぶり。織姫と彦星もさぞ喜んでくれること間違いなしなのですが、問題はこのアルバム、
冬がテーマなんですよね笑
そもそもタイトルの「The Second Brightest Star=二番目に明るい星」というのがおおいぬ座のシリウスのことで、ジャケットにも冬の星座であるおおいぬ座が描かれています。
…ともあれ、異国情緒溢れる#2「Haymaking」は本作でも貴重なポップソング。アコギとストリングスの絡みがとにかく素晴らしくて「世界の車窓から」とかそういう雰囲気に近いし、Cメジャースケールのシンプルなリフも7/8+4/4と変則的に、プログレアプローチを怠りません。
などなど#1〜#7「Terra Australis Incognita」まで、一連の組曲のように構成された星座のようにきらびやかなバラードたち。それらこそ本作における新曲なのですが、その後一際惹かれるのが#8「Brooklands Sequence」と#9「London Plane Sequence」の2曲。
これらは併せては30分に及ぶ大作組曲で、先述した過去作「Folklore」「Grimspound」からパーツを引用し再構築をした本作一のプログレッシブ・ロックエピックとなっています。
それまでの穏やかな空気から一変、ニックの手数の多いドラムや重厚なピアノリフ、テンション感の強いグレッグのギターソロから徐々に盛り上げていくシンフォニック。本来の彼らが持つロックバンドとしての本領が発揮されたこの力作は、刷り直しなどという安易な趣向に留まらない本場ならではの職人技術です。
星空が見えるのはもう少し先になりますが、冬になったら夜空でも眺めながら聴き直したいですね!せっかくなら織姫と彦星も冬に会っちゃえばいいのに。二人に幸あれ!