Spock’s Beard「Octane」: 新体制セカンド!大御所バンドが抱えるプログレッシブ・ロックへの意地とは。
by 関口竜太 · 2019-07-05
おはようございます、ギタリストの関口です。
先日はGentle Giantの「Octopus」をご紹介しましたがプログレと「8」にまつわる作品作りは結構根深いものがあるんじゃないかと最近はそこを研究していたりするのですが。
やはりと言うべきか、掘れば出てくる「8」アルバム、そちらをご紹介していきます。
Octane / Spock’s Beard
Spock’s Beard(スポックス・ビアード)はアメリカのプログレッシブ・ロックバンド。1992年に兄Alan Morse、弟Neal Morseの兄弟を中心に結成されたシンフォニック要素の強いバンドです。
概要
2002年にオリジナルメンバーの一人であるNeal Morseが脱退し、偉大なコンポーザーとボーカリストを同時に失ったことはバンドにとってもファンにとっても大きな壁となりました。
ある意味で勝手な話だったかもしれませんが、それでもバンドが存続したのは脱退したニールから「自分なしで」バンドを続けてほしいという要望があったからだそうです。
とは言えボーカルを失った現状、Spock’s Beardは苦肉の策ではありましたがドラムであるNick D’Virgilioをリードシンガーとして引き継ぎバンドを続ける意向を固めます。ニックは、レコーディングではドラムとボーカルの両方を担い、ライブではサポートメンバーにJimmy Keeganを起用することで見かけ上音源通りのSpock’s Beardを再現することに成功します。
そうしてニール在籍時のラストアルバム「Snow」からわずか一年、2003年にバンドは「Feel Euphoria」を完成させ再スタートを切ります。
ほぼニールの曲だった従来のSpock’s Beardはここで変わり、曲はメンバーが各自持ち寄った個性豊かな色味を持つアメリカンハードな仕上がりとなりました。
この体制は2011年まで続きます。
メンバー(Nick D’Virgilio期)
- Alan Morse – Guitar
- Nick D’Virgilio – Drums, Vocal
- Dave Meros – Bass
- Ryo Okumoto (奥本亮) – Keyboard
サポートメンバー
- Jimmy Keegan – Drums
プログレッシブなテーマを踏襲していく2005年作
バンドデビューから8枚目となる本作はそのタイトルにも「8」を採用しています。バンドは他に5thアルバムリリース時「Ⅴ」というアルバムをリリースしていますがその際、同じくアメリカで活躍するSympony Xと、タイトルとジャケットの雰囲気が被るという珍事件も。
Spock’s Beard「Ⅴ」: そっくりだけど全然違う!?Symphony Xとの王道シンフォニック比較
8枚目のタイトルに「8」を持ってくるのはDream Theaterの「Octavarium」を想起させますが、実はリリースが同じ2005年というところも被っていて、Dream Theater側は最初アルバムタイトルを「Octave」にしようとしていたのですが、Spock’s Beardが先に「Octane」をリリースしていたためアルバムタイトルを「Octavarium」へ変更しました。
Dream Theater「Octavarium」: 「0〜8」は無限へと…新時代「令和」の幕開け!
「5」や「8」 など着眼点は非常に素晴らしいのですが、どうも時期やメンバー内情に恵まれづらいというのがSpock’s Beardらしく、現在でもとてもいいバンドなだけにちょっと影っぽい部分がありますね。
楽曲紹介
Disc 1
- The Ballet of the Impact
- I Wouldn’t Let It Go
- Surfing Down the Avalanche
- She Is Everything
- Climbing Up That Hill
- Letting Go
- Of the Beauty of It All
- NWC
- There Was a Time
- The Planet’s Hum
- Watching the Tide
- As Long As We Ride
Disc 2
- When She’s Gone
- Follow Me to Sleep
- Game Face
- Broken Promise Land
- Listening to the Sky
- Someday I’ll Be Found
- I Was Never Lost
- Paint Me a Picture
そんな彼らの8thアルバム「Octane」を見ていきましょう。
本作は基本12曲のDisc1のみが収録されたアルバムですが、デラックスエディション版としてボーナスディスク付き2枚組も広く出回っているので全てを記すことにしました。
#1「The Ballet of the Impact」〜#7「Of the Beauty of It All」までは「A Flash Before My Eyes」という31分に及ぶ組曲となっています。これは自動車事故に巻き込まれた男が瞬間記憶に思い浮かぶ走馬灯をテーマにした大作。
メロトロンなどプログレの源流を司る楽器を随所に取り入れコンセプト楽曲としての壮大さをアピールしています。#2「I Wouldn’t Let It Go」#4「She Is Everything」ではニール期のような優しい音色のアコースティックバラードが展開され、走馬灯を見ている男にとっての「She Is Everything」というなんとも泣ける演出。
#3「Surfing Down the Avalanche」では再スタート後のバンドを象徴するパワフルなアメリカンハードロックを楽しむこともできメンバー各自にケミストリーを起こすこれからの姿勢を強く感じます。
#8「NWC」以降は単発での楽曲が展開されることになりますが、組曲がなぜアルバムのテーマに沿わず7曲で完結したのか少々の疑問が残ります。
しかし僕が思うにそこでベタに「8」へ踏み込まないのがSpock’s Beardならではのかっこよさだと思うんですよね。多くの人は8枚目までリリースしてきた歴史とその数字への意味に固執しすぎてある意味で思考停止をしてしまいます。ですがあえて7曲で完結させることでここから先がこれからの自分たちなのだと訴えかけているように思えます。
それこそプログレッシブ・ロックというジャンルを担う意味だと思うしプライドを捨てないSpock’s Beardという歴史あるバンドの意地ですよね。
アルバム後半は奥本さんのシンセサイザーが印象深いインスト#8「NWC」、ソウルフルなバラード#9「There Was a Time」#11「Watching the Tide」、シンプルなアメリカン・プログレハードである#10「The Planet’s Hum」「As Long As We Ride」など。
白いキャンバスに繊細な音色のタッチで塗り染めていくバンドサウンドは、後ろを振り向かない真っ直ぐなプログレッシブ・ロックでした!
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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