Sky Architect「Nomad」: 先人のスタイルを昇華していく現代のプログレ精神論(試聴あり)
by 関口竜太 · 2019-06-28
おはようございます、ギタリストの関口です。
しばらくお伝えしていなかった気がしますが最近の音楽活動報告です。
2ndアルバム製作中
現在、Mind Over Matterの2ndアルバムに向け楽曲を鋭意製作中でありまして、こうでもないああでもないとのたうち回りながらようやく軌道に乗り出しました。
アルバムの方向性やテーマはかなり前から決まっていたものの時折生まれる葛藤などと対峙しながら製作を進めております。
その葛藤というのが以下のツイート。
プログレを作っていて最も難しいのはテクニックでも理論でもなく「プログレを作る」というその言葉自体に矛盾を感じてしまう瞬間だ。表現した音楽が枠にハマらなかった結果がプログレであるはずなのにそうして作られた枠に自らハマりに行く矛盾。だがある程度雛形は必要で、その不器用さが愛おしいのだ
— 関口竜太/Ryota/せっちん (@KinpatsuKomeya) June 26, 2019
プログレを作っていて最も難しいのはテクニックでも理論でもなく「プログレを作る」というその言葉自体に矛盾を感じてしまう瞬間だ。表現した音楽が枠にハマらなかった結果がプログレであるはずなのにそうして作られた枠に自らハマりに行く矛盾。だがある程度雛形は必要で、その不器用さが愛おしいのだ
プログレ精神論
Mind Over Matterは「王道プログレを作る」を軸に構える僕の願いが具現化したプロジェクトです。
それでも「王道」という言葉はよく考えると危うくて、結局は過去の焼き回しになってしまうのではないかという不安が付きまといます。
偉大な先人たちはそんな「王道」すらない状態から音楽を生み出してきたわけで、明け方ふとそんな思いに駆られると逃げ出したくなる瞬間すらあります。
ですがこれはこのブログでも言っていることで迷った時の自分の指針でもあるのですが、
プログレとは前に進もうとする精神
だということですね。
結果として型にハマり過去の事例に則った曲だとしても新たな音楽を生み出そうと苦心し駒を前に進めるそこに僕は現代プログレの美学を感じます。もちろん支離滅裂なものを作ろうというわけではないので長いロックの歴史に積み上げられた理論は使わせていただきます。
今日はそんな「プログレ精神論」を体現するかのようなバンドの紹介です。
Nomad / Sky Architect
Sky Architect(スカイ・アーチテクト)はオランダのプログレッシブ・ロックバンド。
メンバー
- Wabe Wieringa – Guitar
- Rik van Honk – Keyboard
- Christiaan Bruin – Drums
- Tom Luchies – Vocal, Guitar
- Guus van Mierlo
略歴
Sky Architectはロッテルダムの音楽学校(ロッテルダム音楽院と思われる)出身のWabe Wieringa、Rik van Honk、Christiaan Bruinによって在学中の2006年に結成されました。
トリオにてバンドの基礎を築き上げた3人は、後にギターボーカルのTom LuchiesとベースのGuus van Mierloを引き入れ現在のラインナップを完成、2010年にアルバム「Mind of the Mind」でデビューを果たします。
現在で4枚のアルバムがリリースされていますが本作は2017年にリリースされた事実上の最新アルバム。
音楽性
デビュー当時からYesやGentle Giantと言った70年代プログレッシブ・ロックの形式を組んだ音楽を展開します。
現代のネオプログレとしてはThe Flower Kingsなどの影響があり、Porcupine Treeのようなサイケデリック・ロック、Pain Of Salvation、Opethと言ったダークなプログレメタルの雰囲気もどことなく含んでいるのが特徴。
そしてジャズ・フュージョンからの影響も見受けられデビューアルバム収録の組曲「Deep Chasm」ではジャムセッション的な側面も見受けられまさに「プログレ精神論」の理想形です。
技巧派なメンバーのアビリティとは裏腹に速弾きや高速ユニゾンと言った機械的なプログレはなく、基本的にはアンサンブルを重視した楽曲構築となっています。
楽曲紹介
- Wasteland
- Endless Roads (Part Ⅰ)
- Endless Roads (Part Ⅱ)
- Nomad
- Dune
- Sandwalker
- Race to the Sun
- Into Singularity (Part Ⅰ)
- Into Singularity (Part Ⅱ)
収録内容で#2〜#3と、#8〜#9に組曲を配置するという面白い試み。これらの組曲を除けば10分を超える曲はありませんがそれでも平均して7,8分に及ぶ十分大作志向のプログレバンドと言えます。
#1「Wasteland」はオープニングから構築プログレ特有の変拍子アンサンブルによって幕を開けます。さながらHarbie Hancock Rockといった具合。印象の違うイントロとアウトロでこれまたテイストの違うボーカルパートを挟んだような構成で非常に興味深いです。
#2#3と続けて展開される「Endless Roads」はまさにPorcupine Tree的一曲で、ルキエスの甘く怪しげなボーカルはそのままSteven Wilsonのよう。#1のような構築プログレとは打って変わってギターのアルペジオとシンセサイザーを盛り込んだサイケロックを味わうことができます。
タイトルトラックである#4「Nomad」はそんなシンセサイザーがフィーチャーされたシンフォニックロック。ドラマー、クリスの独特なリズムパターンと変則的なリフも聴きどころ。
その後はスローテンポから後半に向けて加速していく#5「Dune」、同じく北欧のプログレバンドA.C.TやMoon Safariのようなピアノのアプローチに引き込まれる#6「Sandwalker」、Genesisの構築美とKing Crimson風ダークさを併せ持つ#7「Race to the Sun」などプログレロックをあらゆる側面から攻めていく飽きさせない曲が並びます。
ラストにして組曲#8#9「Into Singularity」。パート1ではヘヴィに唸るビートロックの本編、パート2は第3期クリムゾンを思わせるダイナミクスのエンドロール。
いずれも先人たちのスタイルを意図的に継承しそれが特有のスタイルになるよう昇華した現代プログレのオムニバスのようです!
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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