近年のプログレバンドのCDを寄せ集めたボックスセットはすごく割のいいものばかりで、Dream Theater、後期Rush、The Flower Kings、そしてTotoなどそのバンドを一気に知れるアイテムとして活用したいですね!
Point Of Know Return / Kansas
暗黒への曵航
Kansas(カンサス) はアメリカのプログレッシブ・ロックバンド。
1970年代にアメリカで派生したアメリカン・プログレ・ハード バンドの代表格であり、同ジャンルの中ではもっともUKプログレッシブ・ロックの流れを汲んでいるバンド とされます。
アメリカン・プログレ・ハードとは
1960年代後半にイギリスで誕生したプログレッシブ・ロックは1975年までに最盛期を迎え世界を席巻します。
しかし流行というのはそう長く続くものではありません。炎の勢いが強いほどその鎮火も早いものです。
70年代後半には民衆の求める音楽嗜好が複雑なものからより手軽でシンプルなものへ変化 していきそこへグランジロック、パンクロックが台頭していきます。当時多くのバンドが五大プログレバンドの真似をし、シーンが飽和状態 になったことも要因の一つです。
特に巨大音楽マーケットであるアメリカでは波が一気に引いてしまうため、いくつかのプログレバンドの中には生き残りを掛け、シンプルな楽曲構成とポップなメロディで市場へ売り込んでいく者が現れました。
それがStyx、Journey、Boston、Toto、 そしてKansasなどのバンドでありそれらは後にアメリカン・プログレ・ハードと呼ばれるようになります。より一般的に皮肉を込めた名称として「商業ロック」 という呼ばれ方もします。
ここでいう「プログレ」の意味するところは「シンセサイザーなど最新の楽器を取り入れた」 というサウンド面を指し、本来の複雑で大作思考なアプローチからは遠ざかります。
イギリスのスーパーグループAsiaも、お国こそ違えど商業ロックに分類されると思います。
源流に近い「商業ロック」バンド
Kansasのデビューは1973年でPink Floyd が「The Dark Side Of The Moon(狂気)」 を、Emerson, Lake & Palmer が「Brain Salad Surgery(恐怖の頭脳改革)」 をリリースした年と重なりまさにプログレ大流行の真っ只中でした。
アメリカンロック とYesやGenesisのようなシンフォニックな構築プログレ を混ぜた王道プログレッシブ・ロックを展開したKansasは、1976年に4thアルバム「Leftoverture(永遠の序曲)」 をリリース。プログレ市場としては若干下火になり出すこの年に400万枚の大ヒットを記録します。
アメリカンプログレハードはプログレではなかった
「永遠の序曲」の大ヒットを受けてバンドを取り巻く環境は激変、多忙になるスケジュールの中で翌年にリリースされたのが本作「Point Of Know Return(暗黒への曵航 )」 となります。
アルバム参加メンバー
Steve Walsh – Organ, Synthesizer, Vibraphone, Piano, Vocal, Percussion
Kerry Livgren – Synthesizer, Piano, Clavinet, Guitar, Percussion
Robby Steinhardt – Violin, Viola, Vocal
Rich Williams – Guitar
Dave Hope – Bass
Phil Ehart – Drums, Timpani, Chimes, Percussion
楽曲
Point of Know Return
Paradox
The Spider
Portrait (He Knew)
Closet Chronicles
Lightning’s Hand
Dust in the Wind
Sparks of the Tempest
Nobody’s Home
Hopelessly Human
#1「Point of Know Return」 からGenesisのようなポップなメロディとYesのようなキーボードのシーケンスでクラシックに攻めていきます。
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続く#2「Paradox」 でもオルガンによる強烈なイントロとヴァイオリンを取り入れたタイトなバンドアンサンブルで勢いを失いません。なおこの曲はDream Theaterがブートレグアルバム「Uncoverd 2003-2005」にてスタジオカヴァーを収録しています。
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EL&Pを彷彿とするインストナンバー#3「The Spider」 、クラシカルな響きのベースラインが特徴で変拍子も惜しみなく使っていく#5「Closet Chronicles」 など、終始タイトで王道なのにそこに漂うアメリカンな空気がプログレのデメリットとも言うべき敷居の高さを感じさせません 。
#7「Dust In The Wind(すべては風の中に)」 は「Point of Know Return」同様アルバムからの先行シングルとなりますが、CarpentersやSimon & Garfunkelのようなアコースティック・ポップに全米6位という大ヒットを記録 します。こちらもScorpions がカヴァーをしています。
最後に
70年代いっぱいは王道プログレバンドとして活動するKansasでしたが80年代に入るとポップ化路線へ変更、その後84年に活動を休止します。
ですがアニバーサリーブームが強くなる2000年代に再結成し復活、主要メンバーは大分異なりますが2016年には「The Prelude Implicit」を リリース し往年のプログレスタイルを取り戻し活動しています。
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Dream Theaterによる「Paradox」のカヴァー。
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