The Who「Tommy」: ストーリーだけではない、伝説の破天荒バンドが産んだ元祖ロックオペラ!
by 関口竜太 · 2019-06-12
おはようございます、ギタリストの関口です。
今日はですね、The Whoの「Tommy」をご紹介しようと思うんですが、3日連続ロックオペラの記事ということでちょっと小ネタをお話しようと思います。
ハロルド作石さんの漫画に「BECK」というのがあります。
それまで平凡な主人公がギターと出会い音楽と出会い仲間と出会い…インディーズからコツコツ音楽活動を積み上げていくサクセスストーリーです。ビートクルセイダース主題歌のアニメ化がされた他、水嶋ヒロさん主演で実写映画化もしました。
「BECK」の原作には終盤、巨大ロックフェスにイギリスの生ける伝説「アース」が登場します。
画像が小さくて申し訳ないんですが、こちらが「アース」。完璧、The Whoがモデルなんですよね。
このギタリストなんかはPete Townshendそっくりだし、彼のパフォーマンスとして有名なウインドミル奏法も描かれています。ハロルドさんは人物の特徴を捉えて描くのが本当にうまいので読んでいて楽しいです。
もっともこちらのシーン、往年のロックスターが大トリで出演するも音楽が古すぎて時代に取り残された象徴として描かれており、バンドのニューエイジもテーマであった本作においては完全に偏見の餌食になっています。
主人公バンドのフロントマンであるチバからは「「アースを見た」それだけの価値のライブ」と揶揄され、スタッフである山Pからも「かっこよく歳を取るって難しいな」と複雑な心境が語られます。
ハロルドさんのクラシックロック好きは漫画を読んでいれば伝わるのでこの采配はThe Whoをだしに使った贅沢な表現なのですが、同世代のビートルズやストーンズは漫画内でいい扱いを受けているので、若い人なら笑えるネタですが本気のファンはムッとするかもしれません笑
というわけで「アース」は散々でしたが本場はそんなことないのでご紹介していきます!
Tommy / The Who
The Whoはイギリスのロックバンド。The Beatles、The Rolling Stonesと並びイギリスの3大ロックバンドに数えられます。1983年に解散。
メンバー
- Roger Daltrey – Vocal, Harmonica, Guitar
- Pete Townshend – Guitar, Vocal, Keyboard, Synthsaizer
- John Entwistle – Bass, Vocal, Brass, Keyboard
- Keith Moon – Drums (1978年9月7日死去)
- Kenney Jones – Drums
モッズカルチャーとド派手なパフォーマンスのバンド
1950年代から60年代にかけてイギリスでは米軍のミリタリーパーカーや細身の三つボタンのスーツなどが「モッズファッション」として若者の間で大流行。
ロック=不良が強烈に結びついていた時代で、アメリカのロックンロール文化と並んでモッズファッションがそのようなイメージに油を注いだのは間違いなさそうです。
このモッズ支持者の若者を牽引していたバンドがThe Whoでした。もっとも本人たちは流行のモッズカルチャーとは無縁なのですが。
若者に支持されたThe Whoのパフォーマンスは基本大音量。マイクを振り回しギターを壊し…という今ではある意味誰もやらないようなパフォーマンスが熱狂的な支持を受けました(ギター破壊はイングヴェイがしっかり受け継いでいるけどあれはジミヘンの影響)。
「音楽はクオリティじゃなくパワーとボリューム」。そうインタビューで答えたのはギタリストPete Townshend。バンドのソングライターというのは言わばエンジンやモーター部分だと思うのですが、そんなじゃじゃ馬なエンジンを積んでいたんだからきっと当時はやりたい放題だったことでしょう。
ロックオペラというジャンルを確立
彼らが1969年に発表したのが全24曲に及ぶ2枚組コンセプトアルバム「Tommy」。
69年と言えばThe Beatlesが解散した年であり、King Crimsonがデビューした年でプログレ視点ではまだ黎明期に当たるのですが、その年に破天荒なこのバンドは破天荒を追求するあまりロックオペラという誰しもが容易に手を出せない巨大ジャンルを作り出してしまったのです。
しかしその内容は散文的かつ抽象的で極めて難解。
話の前後が見えずインタビューをしても辻褄の合わない、一貫性を欠いたストーリーにしかなりませんでした。その後映画版やミュージカル化された際に脚本が書き足されようやくある程度の整合性が取れ理解ができるようになったあらすじが以下のようなものです。
あらすじ
「僕を見て、僕を感じて」
父親の殺人現場を目撃してしまったショックから、視覚・聴覚・発話障害の三重苦を負うことになった主人公トミー。
潜在意識と妄想による異常な精神の世界へ逃げてしまうトミーのために(彼へ殺人の多言を封じた)両親は様々な場所へ彼を連れて行きますが…
トミーはカルト教団に連れて行かれたり、従兄弟にも預けられた際は従兄弟から暴力に振るわれたり、ジプシーという女の元では薬漬けにされたり、子守のアーニーからは性的虐待まで受けます。
身も心もボロボロのトミーでしたが突如ピンボールの才能に目覚め世界チャンピオンに。「ピンボールの魔術師(Pinball Wizard)」と呼ばれ一躍大スターになります。
あるとき、ついに彼を治療できるという医師に出会いますが治療法は彼自身が内面と向き合うというもの。両親の言葉を無視しひたすら鏡を見つめ続ける彼に業を煮やして母親は鏡を破壊します。
その破壊がきっかけでトミーは症状は寛解しついには完治に至ります。
三重苦であったトミーが完治したというニュースは世界に広まり、この奇跡に囃し立てられたトミーは自宅を教会として開放。訪れたファンに自らを教祖とし教化させます。
最後は行きすぎたトミーの教えに信者の一部が反発、教団は崩れ去りトミーの心の声「僕を見て、僕を感じて」という言葉で幕を閉じます。
複雑ですよね笑
一応これを読んだ後ならタイトルと合致するシーンがあったり、10分を超えるインスト#10「Underture」は薬物漬けになったトミーの幻覚を表していたりするわけですが…
それでも常人の理解を超えていて、「そういうことがあったんだね」と冷ややかに自分の中で納得させるしか方法がない内容なわけです。
世界的大ヒットを記録
ギリギリの予算で半年以上の製作期間の末完成したこの「Tommy」は全英2位、全米4位という世界的な大ヒットを記録。The Whoのキャリアにおいても非常に意味のあるアルバムとなりました。
これを機にThe Whoはヒットシングルを量産する単発バンドのイメージから脱却しアルバム主体のロックバンドへ成長を遂げることになります。「Tommy」があまりにヒットしたので一時は「ザ・フーのトミー」とバンド名を勘違いされることも。
ウッドストックでは朝日とともに演奏するなど、数々の伝説が残るThe Whoですが後世の律儀なロックバンドに語り継がれるべき破天荒さはまさに「生ける伝説」でした。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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