Neal Morse「Jesus Christ The Exorcist」: 早くもニューアルバム!キリストの生涯を描く21世紀のスーパーロックオペラ!
by 関口竜太 · 2019-06-10
おはようございます、ギタリストの関口です。
東京は一日続く雨と低気圧のせいでまさに梅雨冷えです。今からバイク乗るの嫌だなぁと少々憂鬱になりますが、お勤めの方も怪我などされませんよう気をつけましょう!
さて、ようやくNeal Morseのニューアルバム「Jesus Christ – The Exorcist」が届きました!
来て早々、うお!これは日本盤だ!とまず僕が思ったのはそこ。
これがどういうことを表すのか解説しつつ、今作はプログレシーンで意味のある一枚だと思いますので今日はがっつりご紹介していきます!
Jesus Christ The Exorcist: A Progressive Rock Musical / Neal Morse
Neal Morseはアメリカのマルチミュージシャン。
主な参加バンド・プロジェクト
- Spock’s Beard
- Transatlantic
- Flying Colors
- The Neal Morse Band
- ソロetc…
1992年に兄Alan Morseとプログレッシブ・ロックバンドSpock’s Beardを結成、2002年に2枚組コンセプトアルバム「Snow」をリリースしたのを最後に「神から啓示」としてバンドを脱退しソロ活動へシフトします。
SB脱退前の1999年からは、元Dream TheaterのMike Portnoy、元Kaipa〜The Flower KingsのRoine Stolt、MarillionのPete Trewavasらと共にTransatlanticも始動。スーパーグループならではのケミストリーと30分を超える大作を数曲抱える巨大プロジェクトです。
脱退後はMike Portnoy、Randy George(Ba)との3ピースを基盤にソロ活動を行います。馴染みやすいメロディとYes、Genesisに倣った大作構築プログレが主の「ProgRock」シリーズとアコースティックメインでシンプルな弾き語り感の強い「Workship Sessions」シリーズがあります。このどちらも「クリスチャンとしての崇拝」がテーマとして一貫しています。
2012年にはMike Portnoy、Steve Morseらとポップなアメリカン・プログレ・ハードであるFlying Colorsを結成するほか、2015年からは自らの名前を冠したThe Neal Morse Bandも始動しクリエイトかつアクティブに活躍中。
アルバムリリースの経緯
今年2月にThe Neal Morse Bandにて「The Great Adventure」をリリースして早4ヶ月…しかしそれよりも早く感じるのがNeal Morseという人の楽曲リリース速度とそのバイタリティです。
本作はソロ名義としては2018年のWorkshipアルバム「Life & Times」以来となりますが、今作は彼自身のキャリアとしても異例の作品であることでしょう。
というのも、このアルバムの話が上がったのは10年前。つまり構想10年。
1970年にイギリスの作曲家Andrew Lloyd Webberによって発表された、イエス・キリストの生涯と聖書を描いたロックオペラアルバム(及び同名の舞台・映画)「Jesus Christ Superstar」を視聴していた業界関係者から、「そろそろキリストを題材にしたロックオペラアルバムを誰か作らないのか」と話が持ち上がっていたところ、
現役で、オペラのような大作ロックに精通し、キリストに信仰深い人物
というこれ以上ない条件でNeal Morseに白羽の矢が立ちました。
なぜ?日本盤の真実
本作がいつものNeal Morseと違うというのはもう一点。
Neal Morseはソロ活動へ専念した時点でRadiant Recordsという自社レーベルを立ち上げています。
自分の成す音楽が世間一般の示すロックポップスではない自覚があったのか、または自分が信仰しているキリストのように自分のことを支持してくれているファンに向け直接寄り添う形を選んだのかそれはわかりませんが…とにかくNeal Morseのソロ作品はこのRadiant Recordsよりリリースされています。
当然日本盤などの区別はあるはずもなく、輸入オンリーという形態に今や僕も慣れましたが、本作はプロジェクトの手腕Michael KaplanによってGraham Bonnetなどで知られるイタリアの大手レーベルFrontiers Musicとの契約を勝ち取っています。
日本盤は洋楽HR/HMの大手マーキー・インコーポレイティドとアヴァロン・レーベルが代理店としてリリース。そんなわけで冒頭のテンション上がり気味な写真に繋がるわけです。
アルバムコンセプト
先述した通り、本作は「イエス・キリストの生涯を追う完全ロックオペラ」です。コンセプトアルバムと呼ぶにはニールの「Testiomony」やSpock’s Beardの「Snow」のような2枚組プログレッシブ・ロックアルバムとは根本的に違ってきます。
通常のニールのアルバムなら、ボーカルは彼とバンドで演奏している誰かという構図なのですが、本作ではバンドとは別にストーリーを演ずるキャストとしてのボーカリストが召集されているのが特徴です。
キャストと演ずる役柄は以下の通り。
キャスト(ボーカル/コーラス)- 役柄
Ted Leonard – Jesus
Talon David – Mary Magdalene
Nick D’Virgilio – Judas Iscariot
Rick Florian – The Devil
Matt Smith – John the Baptist
Jake Livgren – Peter and Caiaphas
Neal Morse – Pilate, Demon 1, Disciple 1
Mark Pogue – Israelite 1, the Madman of the Gadarenes, Pharisee 2
Wil Morse – Israelite 2, Demon 3, Pharisee 1
Gabe Klein – Demon 2, Pharisee 4
Gideon Klein – Demon 4
Julie Harrison – Servant Girl
主人公Jesusを演じるのはネオプログレバンドEnchantにてデビューし現在はSpock’s Beardのボーカルを務めるTed Leonard。同じくSBやイギリスのプログレバンドBig Big Trainなど大型プロジェクトでドラムを叩くNick D’VirgilioもJudasというイエスの弟子でユダヤ人の重要人物という役柄。
他に気になる名前としてはWil Morse。その苗字の通りニールの息子です。父と共にユダヤ人や悪魔を演じます。
参加ミュージシャン
- Neal Morse – Guitar, Keyboard, Bass, Persussion
- Paul Bielatowicz – Guitar
- Bill Hubauer – Keyboard
- Eric Gillette – Drums, Guitar
- Randy George – Bass
他、多数のオーケストレーション。
バンドについても触れなくてはいけません。今回はなんといつもセットであったMike Portnoyはお休みです。代わりにNMBで超絶ギターを弾いているEric Gilletteがドラムを叩いています(彼もまたマルチミュージシャン)。
ベースとキーボードには同じくNMBでマッチングの深いRandy GeorgeとBill Hubauer。リードギターにはニールのソロ作品にも数多く参加している若手のギタリストPaul Bielatowiczが名を上げています。
過去の記事
Paul Bielatowiczという爽やかギタリストが気になる!エモーショナルなソロに聴き惚れろ!
Eric Gilletteについて〜手数が多ければどんぐりの中の松ぼっくりになれる〜
楽曲紹介
Disc1
- Introduction
- Overture
- Getaway
- Gather the People
- Jesus’s Baptism
- Jesus’s Temptation
- There’s a Highway
- The Woman of Seven Devils
- Free at Last
- The Madman of the Gadarenes
- Love Has Called My Name
- Better Weather
- The Keys to the Kingdom
- Get Behind Me Satan
Disc2
- He Must Go to the Cross
- Jerusalem
- Hearts Full of Holes
- The Last Supper
- Gethsemane
- Jesus Before the Council and Peter’s Denial
- Judas’ Death
- Jesus Before Pilate and The Crusifixion
- Mary at the Tomb
- The Greatest Love of All
- Love Has Called My Name (Reprise)
- Love Has Called My Name (Acoustic version) – Bonus Track
さて、長らくお待たせしましたが本作の楽曲紹介です。なんせ例に漏れない2枚組25曲というフルボリュームのロックオペラなので全ては紹介し切れないですがピックアップしてお届けします。
#1「Introduction」, #2「Overture」
オープニングを飾るこの2曲はニール十八番のパターンで、重厚なストリングスとイエスの語りからスリリングなプログレッシブ・インストパートへ流れていきます。
#3「Getaway」〜#5「Jesus’ Baptism」
オープニング明けから繋がっていく序盤の3曲で基本となる一つの場面が終わります。メロディも重要なメインテーマを添えて後にリフレインの予感をさせてくれます。
#6「Jesus’ Temptation」
曲単品で見れば本作一の大作プログレソング。前半は疾走するような緊張感溢れるインスト、後半は緩急を加えながらイエスと悪魔の対立が歌われています。
#8「The Woman Of Seven Devils」, #9「Free At Last」
こちらは7人の女の悪魔に憑かれたマグダラのマリアを救うシーンでマリアのキャストを務めたTalon Davidの力強いボーカルが聴きどころです。
#10「The Madman Of The Gadarenes」
Gentle Giant風のマドリガーレコーラスが堪能できる1曲。これはニールのお得意パートでもありSpock’s Beard時代からやられてきた十八番といえる手法。
#11「Love Has Called My Name」
本作における重要なメロディテーマの一つ。等身大に歌われる馴染みやすさとは裏腹に複数人でコーラスを重ねる壮大さとイエスの尊大さがリンクします。
#14「Get Behind Me Satan」
#11〜#13のアコースティックチューンの流れを抜けると前半の締めくくり。先行でMVが配信されたロックチューンでDeep PurpleやBlack Sabbathのような痛快さがたまりません!
#15「He Must Go To The Cross」
Act2に入り楽曲としては15曲目、シンガロン要素のあるスタジアムハードロックナンバー。物語はイエスを敵視する司祭たちの謀略へと進んでいきます。
#16「Jerusalem」〜#18「The Last Supper」
再びバラード主体のコーラスパート。イエスのによる聖地エルサレム入城を描くシーンで、各キャストのコーラスが美しく秀逸です。
#19「Gethsemane」
イエスが逮捕されたオリーブの山の園「ゲッセマネ」を歌った曲。ロックオペラらしい、ミュージカル調の展開と荘厳な雰囲気が物語を盛り上げていきます。
#20「Jesus Before The Council And Peter’s Denial」, #21「Judas’ Death」, #22「Jesus Before Pilate And The Crucifixion」
このシーンでいよいよイエス・キリストの裁判から磔刑、その過程で弟子であるペテロの裏切りやユダの自殺などが描かれます。哀しいボーカルパートとは裏腹にインストは邪悪で様々な感情が入り乱れています。#22ではEric Gilletteのギターソロも聴きどころ。
#23「Mary At The Tomb」〜#25「Love Has Called My Name (Reprise)」
その人物が聖人であるという定義は諸説ありますが、その中の一つに「死んでから二度奇跡を起こす」というものがあります。それはファンタジーかクリスチャンの中では事実なのか、マリアが訪れた墓の前でイエスは復活を果たします。そして壮大な大団円を迎えこのアルバムは終幕です。
最後に
#26にはボーナストラックとして「Love Has Called My Name」のアコースティックバージョンが収録されていてこちらのボーカルを取るのはもちろんNeal Morse。
2002年のバンド脱退、ソロ活動に従事してからストイックかつコンスタントに作品をリリースし続けて17年。
一重にその努力と信仰が実を結び、2019年にして集大成とも言える21世紀のプログレロックオペラがここに完成しました。
ミュージカルである性質上、歌にフィーチャーした作品ではありますが、ニールの良さの一つにワールド基準のメロディセンスとアレンジ力があります。「イエス・キリスト?宗教?なんか胡散臭い」とか毛嫌いをせずに、純粋にハイクオリティのプログレッシブ・ロックとして作品を消化していただきたいです。
また本作は大手レーベルを通じたリリースのため国内外問わず広く流通が期待されます。それ故、このアルバムを機にNeal Morseの名を知る人も多くいることでしょう。またSpock’s Beard脱退からの彼を知らなかった人への吉報ともなりそうです。
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タグ: プログレッシブ・メタルロックオペラ米プログレEric GilletteNeal MorseSpock's Beard
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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